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「どうなる どうする日韓関係」(時論公論)

出石 直  解説委員
増田 剛  解説委員

徴用をめぐる裁判やレーダー照射をめぐる問題で日本と韓国の関係はこれまでになく冷え切っています。先週、ドイツのミュンヘンで両国の外相が会談しましたが、関係改善の糸口は見つからない状況です。外交安全保障担当の増田委員とともに今後の日韓関係について考えます。

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【日韓外相会談】
(出石)先週の金曜日にミュンヘンで行われた河野外務大臣とカン・ギョンファ外相による日韓外相会談。関係が冷え切っている中での会談だけに注目を集めましたが、あまり芳しい成果は得られなかったようですね。

(増田)はい。結論から言えば、両者の主張は平行線でした。徴用をめぐる裁判で、韓国最高裁から日本企業に賠償を命じる判決が出たことについて、河野外務大臣は、日韓請求権協定に基づく協議に早期に応じるよう求めましたが、カン外相は「綿密に検討している」と従来の立場を繰り返すだけでした。
また、河野大臣は、韓国のムン・ヒサン国会議長の発言について、「大変驚くとともに、残念に思う」と述べ、発言の撤回と謝罪を求めましたが、カン外相から、回答はなかったということです。

【去年秋からの出来事】
(出石)日本と韓国の間には、去年の秋以降、冷たい嵐が吹き荒れています。

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▽「旭日旗」と呼ばれる自衛艦の旗の掲揚が韓国軍から拒否された問題。
▽徴用をめぐる裁判での韓国最高裁判所の判決。
▽両国の合意で設立された元慰安婦を支援するための財団の解散発表。
▽自衛隊の哨戒機への韓国軍の駆逐艦からのレーダー照射。
▽年明けに行われた記者会見ではムン・ジェイン大統領が「日本政府はもう少し謙虚になるべきだ」と発言し、
▽さらにムン・ヒサン国会議長からは「慰安婦問題は天皇陛下が謝罪すれば解決する」という発言まで飛び出しました。

【日本政府の立場】
(出石)次から次へと難しい問題が起きています。日本政府の受け止めは?

(増田)今、日韓関係は、1965年の国交正常化以来最悪だといわれています。日本政府は、重要な隣国と位置づける韓国との関係がここまで悪化したことは、深刻な事態だと受け止めています。

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特に私が懸念しているのは、レーダー照射問題をきっかけに、自衛隊と韓国軍の関係が悪化し、日韓の防衛協力が縮小したことです。実際、防衛省は、4月下旬に、自衛隊の護衛艦「いずも」を韓国のプサンに寄港させる計画でしたが、交流を深める環境にないとして、見送ることを決めました。これまで、日韓の防衛協力は、北朝鮮という共通の脅威を抱えていることもあって、政治の関係が悪いときでも、比較的うまくいっていた分野でした。それが今回は、レーダー照射問題で、関係悪化の中心となってしまいました。
さらに、韓国の国会議長が天皇陛下の謝罪を求めた発言は、日本の憲法における天皇の位置づけを十分に理解していない上、国民感情の琴線に触れる部分に踏み込んでしまいました。非常に残念な事態です。

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(出石)ムン議長は韓日議員連盟の会長を務めたこともある重鎮議員ですが、発言の撤回に応じないばかりか「ぬすっとたけだけしい」と謝罪を拒否しています。あまりに配慮を欠いた不適切な態度と言わざるを得ません。こうしたやりとりを見ていますと、不用意な発言や非難合戦が互いの国民感情をどんどん悪化させていく負の循環に陥っているように思えてなりません。
とりわけ私が懸念しているのが、徴用をめぐる裁判への対応です。
弁護団は新日鉄住金の株式を差し押さえ、近く現金に換える手続きに入るとしています。
日本企業に被害が及ぶようになれば事態はさらに深刻ですね。

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(増田) はい。日本政府は、そもそも「この問題は日韓請求権協定で解決済み」という立場です。日本企業の資産が「現金化」される事態にまで至れば、日本政府も対抗措置を検討せざるを得ないでしょう。自民党の外交部会では、駐韓大使の召還や防衛に関わる物品の輸出規制を求める意見がありますし、与野党の一部からは、韓国人観光客へのビザ免除の停止や報復関税といった強硬論も出ています。こうした状況を念頭に、現在、関係省庁は、対抗措置の検討を進めています。
また、政府は近く、日韓請求権協定に基づく次の段階の措置、つまり、第三国の委員を交えた仲裁委員会の設置を申し入れる構えです。さらに、国際司法裁判所への提訴も視野に入れています。ただ、政府内では、仮にこうした措置をとっても、韓国が日本の要求に応じる可能性は低いという見方が大勢です。「ムン政権が終わるまで、関係修復は無理だ」という諦めの声も出ています。

【関係悪化の背景】
(出石)今のムン・ジェイン政権は前のパク・クネ政権を倒したろうそくデモと呼ばれる市民運動の高まりを背景に生まれた政権で、世論の動向には非常に敏感です。加えてムン大統領は人権派弁護士だったこともあって人権問題や歴史問題にはとりわけ強いこだわりがあると言われています。
さらに関係悪化の背景には、韓国にとっての日本の位置づけが変化してきていることもあるように思います。

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こちらは韓国の貿易額の国別の割合を示したものです。
2000年には日本は韓国の貿易総額の16%を占めていましたが、中国の台頭で現在は、7%程度と半分以下になっています。韓国にとって日本はかつてほどには重要な国ではなくなってきているのです。かつては日本に大きく引き離されていた経済力や国際社会での発言力も身につけて「日本なにするものぞ」という意識が芽生えてきているのかも知れません。

(増田) 日本の外交・安全保障政策の中でも、韓国の位置づけを見直す動きが進んでいます。

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去年12月に決定された新たな「防衛計画の大綱」では、日本が安全保障協力を推進する対象として、韓国は、アメリカ、オーストラリア、インド、東南アジアに次ぐ5番目。5年前の大綱では、アメリカに次ぐ2番目でした。また、安倍総理は、今年の施政方針演説で、日韓関係に直接、触れませんでした。去年の演説では、「未来志向で新たな時代の協力関係を深化させる」と言及していたにも関わらず、です。政府内では、「当面、韓国は、戦略的に放置するしかない」という声が出ています。
今後も課題は山積しています。今週22日の島根県の「竹島の日」に、安倍政権は、内閣府の政務官を派遣します。韓国側の反発は必至でしょう。

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(出石)ムン政権は3月1日の独立運動100周年を北朝鮮と共同で祝う予定です。さらに植民地支配に抵抗して上海で臨時政府が発足した4月11日を大韓民国の建国から100年と位置付けています。今後、植民地支配に対する批判やナショナリズムが高まることは確実です。このまま冷え切った関係が続けば、6月の大阪でのG20サミットへのムン大統領の参加も危ぶまれるのではないという声まで出始めています。

【どうする日韓関係】
(増田)日韓の政治家が互いに非難を繰り返し、両国の世論が更に硬化していくという悪循環です。もちろん、問題の一義的な責任は、対日関係の悪化を放置している韓国政府にあると思います。日本としては、自らの主張の正当性を堂々と国際社会に発信していけば良いでしょう。ただ、日韓関係の悪化を懸念する声は、同盟国アメリカの議会にもあります。今月末には、米朝首脳会談を控えており、対北朝鮮政策や拉致問題での連携を考えれば、日米韓の結束は不可欠ですし、重要な隣国との関係が悪化するのに任せるのは、日本の国益になりません。少なくとも日韓の政治家は、感情的な対立や相互不信をあおるような発言は自制すべきです。

(出石) ここまでこじれてしまった以上、今は、一定の冷却期間が必要と考えます。増田委員が指摘したように第三者に仲介を求めることも必要ではないでしょうか。
一方で去年、日本を訪れた韓国人は750万人を越えました。韓国を訪れた日本人と合わせると年間1000万人以上が往来していることになります。文化面では第3次韓流ブーム、ビジネスの分野でも第三国での共同プロジェクトなど日韓の企業レベルの連携協力は活発です。自国の立場を主張するのはもちろんですが、関係改善を願う人達の思いに応えることもまた政治指導者の責務ではないでしょうか。

(出石 直 解説委員 / 増田 剛 解説委員) 

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