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「どうなるデジタル課税」(時論公論)

櫻井 玲子  解説委員

今、インターネットを通じ国境を越えてビジネスを展開する巨大IT企業への課税、いわゆる「デジタル課税」のあり方が、国際的な議論となっています。
グーグルやアマゾンといったグローバルなデジタル企業に対し、「莫大な利益を手にしながら、それに見合った税金を納めていないのではないか」といった批判も噴出する中、こういった企業への課税をどう強化するかを巡って各国が激しいせめぎあいを繰り広げています。
そこで、日本が議長国となってことし6月に開かれるG20・主要20カ国の会合で、一定の着地点を見出せるか、注目が集まっています。
何が問題となっているのか。各国の議論の最新の状況は。そして今後の課題は何かを、考えます。
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【何が問題か】
まずは、そもそも何が問題となっているのか。
一言でいうと、これまでの国際的な課税ルールである「拠点なくして課税なし」という制度が、
いまや時代遅れとなり、IT企業の課税逃れを許してしまっていることです。
たとえば、今の制度のもとでは、外国企業であっても、日本国内に支店や工場など「恒久的な拠点」があれば、政府は企業に法人税を課税することができます。
しかし、逆にこういった拠点がない場合、原則として、課税はできません。
つまり海外のIT企業がネット経由で直接、東京の消費者にサービスを提供し、利益をあげても、日本政府には法人税を払わなくてもよいというルールなのです。
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この税制上の抜け穴によって、実は2つの問題が生じています。
一つは巨大IT企業が各国でどんなに儲けても、それぞれの国には税収が入ってこないこと。
もう一つは、国内企業と海外のIT企業が競合している場合、国内企業だけが法人税を払わなくてはならず、不公平な競争になってしまうことです。
欧州委員会の調べでは、一般企業は利益のうちの23パーセントを税金として納めているのに、IT・デジタル企業は9パーセントあまりしか納めていないということです。
「グーグルやアマゾンだけが得をしているのではないか」こういった批判の声も上がる中、国際税制をどう変えるかが、課題となってきました。
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【対立する各国の主張と難航してきたルールづくり】
しかしどんな企業に、どのような根拠で、どこまで課税を強化するのか。
各国の主張は大きく食い違い、これまで新しいルールづくりは難航してきました。
巨大IT企業への課税強化に踏み切りたいヨーロッパ勢に、フェイスブックやアップルなど巨大IT企業を多く抱えるアメリカは猛反発。
「デジタル企業を狙いうちするようなルールは、到底、認められない」と反対してきました。
また、アリババやテンセントなど同じくデジタル企業を抱える中国も、慎重な姿勢をみせてきました。
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その結果、議論がなかなかすすまず、国際的な合意を待てずに、独自のデジタル課税を先行して実施すると決める国も出てきています。フランスやインドはことしから、イギリスは来年から、独自のデジタル税を導入すると発表。不平等な課税に対する国民の不満や、自らの国の財源不足などがその背景にあるとみられています。
こうした国独自のデジタル課税は、新しい国際税制ができるまでの、あくまで過渡的なものですが、国際的なルールづくりが遅れれば、各国独自の課税が乱立しかねません。
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【動き出した議論】
そこで、なんとか新たな国際的なルールをまとめられないか。
ことしのG20財務大臣会合で一定の政治的な合意を得るべく、議長国である日本と、OECD・経済協力開発機構が連携し、今、議論を加速させようとしています。
こうした中、最近、新しい動きもみえてきました。
OECDが発表した最新の論点ペーパーによりますと、「拠点なくして課税なし」という原則の見直しに、各国が合意。その上で、国際課税ルールを変えるためのいくつかの提案も出されました。
このうち、一つは、イギリスが提案しているもの。
課税対象はあくまで巨大IT企業をターゲットにしています。その国に企業の拠点がなくても、消費者がオンライン契約を結んだり、サービスを利用したりしたことが確認できれば、その利用実績に応じて、課税ができる、という主張です。

たとえば、東京在住の田中さんが「旅行と海が好き」とSNSに書き込みます。
その情報がデータ解析され、海外のビーチリゾートのウェブ広告が送られてくる。
それに対し、田中さんが「いいね!」を押したり、旅行の契約をすれば、新たな利益が生まれる。
そこで、この「いいね!」のクリック数やオンライン契約数を国別に集計し、その国ごとに、課税ができるようにするというものです。
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そして、注目すべきは、デジタル課税に反対してきたアメリカが別の提案を出してきたことです。
こちらはIT企業だけでなく、より幅広い分野のビジネスを課税強化の対象としているのが特徴です。
企業の拠点がなくても、その国に向けてブランド力を高めたり顧客基盤を強めたりするための投資やマーケティング活動が行われ、それに応じた売り上げが出れば、利益の一部に課税できる、としています。
たとえば、外国のスポーツ用品メーカーが日本の消費者に商品カタログや広告を送るなど、プロモーション活動を行ない、その結果、消費者がスニーカーを買ってくれれば、その利益の一部を、日本政府が課税できるという案です。
特徴としては適用範囲が広く、「デジタル課税」というよりも、「デジタル経済時代の新しい形の法人税」の提案にも聞こえます。また、税金がマーケティングの対象となる国により多く配分され、消費者の数が多い国が有利になる提案にもなっています。このため、人口が多く、大きな市場を抱える中国やインドも、この案に賛同してくるのではないか?という指摘もあがっています。
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これまではこうした議論にのること自体を避けていたアメリカですが、高まる国際世論に配慮しつつ、自国に有利なルールを提案してきたといえるでしょう。
国際金融当局の幹部は「デジタル課税にずっと難色を示してきたアメリカが対案を出してきた意義は大きい。イギリス案とアメリカ案をあわせてなんらかの折衷案を生み出せるのではないか」と話しています。

【「100年に1度の大仕事」とG20議長国日本への期待】
さて、このように見てきますと、元々は巨大IT企業により多く税金を納めてもらうにはどうすればよいか?
という問題意識から始まった「デジタル課税」の議論ですが、いまや新しい時代の法人税とはなにか?どんな形の課税が公平になるのか?といった、より、大きな議論に発展していることがみてとれます。モノの売り買いだけでなく、国境を越えてやりとりされるビッグデータが巨大な富を生むデジタル経済へと時代は変わっています。
今後は巨大IT企業だけでなく、さまざまな会社が、デジタル家電やカーナビに蓄積された大量のデータを使って、消費者の開拓につなげたり、次の技術の開発に役立てたり、といったことも考えられます。このため、何を課税の根拠とし、どの企業にどの国で税金を納めてもらうのか。
専門家は今回の新しいルールづくりは「これまでの税制を抜本的に変える100年に一度の大仕事」だといいます。
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各国の隔たりが大きく残る中、日本はG20の議長国として、その大仕事に道筋をつけられるかが注目されています。合意に向けたハードルは依然として高く、時間との戦いもあります。
が、国際協調が年々難しくなっているG20で、具体的な成果を出せる<チャンス>でもあります。
時代の変革にあわせた新たな国際ルールの土台を築くため、日本がリーダーシップを発揮できるかが、今、問われています。

(櫻井 玲子 解説委員)

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