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「インフルエンザ猛威 何が起きているのか」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

インフルエンザの患者が、かつてないペースで急増しています。
国立感染症研究所が発表したインフルエンザの感染状況によると、2019年1月27日までの1週間に、およそ220万人の患者が医療機関を受診したと見られ、過去、最も多くなりました。
インフルエンザの流行で、いま国内で何が起きているのかをみながら、その対策を考えます。

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下図は1週間にインフルエンザで医療機関を受診した患者の数が全国でどれくらいいるのかを推計したものです。

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2017年から18年にかけての昨シーズンは、A型インフルエンザとB型インフルエンザの流行が重なったため、それまでにない高い山になりました。今シーズンは、年明けから急激に増え、こうした統計を取り始めた1999年以降で最も多くなりました。すべての都道府県で警報レベルの数の感染者が報告されています。今シーズンの患者の数は、累計で764万人と推定されています。

なぜ急激に増加したのかは、まだわかっていません。

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ここで、どの種類のウイルスが広がっているのかを見てみます。流行するインフルエンザのウイルスには、「H1」というA型と、「H3」A香港型とも呼ばれるA型のウイルス、それに「B型」のウイルスがあります。昨シーズン、B型の感染者も比較的多かったためか、今シーズンはB型がほとんどありません。昨シーズン少なかったH1の感染が広がって、それにやや遅れてH3が重なるように増えてきて、全体として急激な増え方をしていると見られています。詳しいことは、今後の分析を待たなければなりません。

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さらに特徴として、重症になるケースを見てみると高齢者が圧倒的に多く、さらに15歳未満の子どもも重症が目立ちます。

このうち、お年寄りについてみてみますと、兵庫県の養護老人ホームで入所者と職員あわせて74人が感染して、お年寄り7人が死亡するなど高齢者施設での集団感染が相次いでいます。

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高齢者施設の感染対策としては、十分な休養やバラスの良い食事、手洗いの徹底、マスクの着用、ワクチン接種といった一般的な予防策と併せて、施設の中にウイルスが持ち込まれるのを防ぐことが基本になります。
具体的には、面会の時間や人数の制限を行うことと、外部との出入りの多い施設の職員が持ち込まないよう職員の健康管理が重要です。
感染者が見つかった場合について、専門家がポイントとして指摘するのは、まだ感染していないお年寄りや職員に予めインフルエンザの治療薬を飲んでもらう「予防投与」です。感染拡大の対策に有効とされています。ただ、これも感染が広がらないうちに素早く対応しなければ、十分な効果は期待できないといいます。
こうした対策は、感染症の専門家がいる病院でも容易ではないといいます。

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高齢者施設に専門家が常駐することは難しいと思いますが、事前の対策や患者がみつかったときの対応について、常に専門家と連携できる態勢をつくることが重要です。そうした備えができているか点検することが求められます。

一方、子どもで注意しなければならないのが「インフルエンザ脳症」です。

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高熱が続いて、脳の機能が低下し、意識障害やけいれんなどを起こします。大人も脳症になりますが、多くが子どもです。これまでのシーズンを見ても、例年100人前後がインフルエンザ脳症になっています。死亡するケースは、最近少なくなったといっても、数%ほどあり、後遺症が残ることも少なくありません。今シーズンは、例年を上回るペースで脳症の患者が増えている恐れがあると指摘されています。
インフルエンザ脳症は、早い場合は発熱から数時間で症状があっという間に進みます。実は、日本など東アジアでは、体質的にインフルエンザ脳症になりやすい人が多いことがわかっています。
意識障害などがないか、家族など周囲の人が注意してあげることが大切になります。

もうひとつ、子どもで注意が必要なのが「異常行動」です。

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異常行動は、女子より男子に多いとされています。具体的には窓から飛び降りようとしたり、突然、立ち上がって部屋から出ようとしたりする行動です。昨シーズン95件が報告され、今シーズンも異常行動の可能性のある転落事故などが起きています。
対策としては、玄関や窓の鍵を閉める、子どもを寝かせるのはマンションならベランダのない部屋に、一戸建てでは2階ではなく1階にするなどの配慮が必要とされています。異常行動は、発熱から2日後までが多いということです。

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インフルエンザ脳症と合わせて、子どもは発熱などの症状がでてから2日間くらいは、特に注意が求められることを知っておかなければなりません。

この冬のインフルエンザをめぐっては、専門家が治療薬に注目しています。それは、日本の製薬会社が開発した新しい薬「ゾフルーザ」です。

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薬を何日も飲み続けるのではなく、1回飲むだけで治療効果があるという使いやすさが大きな特徴です。承認されたのは2018年3月で、本格的に使われたのは今シーズンからにもかかわらず、すでに多くの患者に処方されています。
この薬、専門家が注目しているのは「使いやすさ」より、むしろ「薬の効き方」にあります。

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インフルエンザのウイルスはヒトの体の中で細胞に入り込みます。

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細胞内で数を増やし、細胞から出て行きます。

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タミフルなどの薬は、増えたウイルスが細胞から出て行くのを抑えるのに対して、ゾフルーザは、細胞の中で増えるのを抑えます。

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薬の作用が、他と違うのです。

このため、将来、タミフルなどが効かないタイプのインフルエンザウイルスが現れた場合でも、ゾフルーザは効果がある可能性があります。

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いわばインフルエンザに対する「新たな攻撃手段」として期待されているのです。これは、人類が経験したことのない新しいウイルスによる新型インフルエンザの治療にも有効な手段になる可能性があります。

そうした期待の一方で、心配されていることがあります。

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国立感染症研究所によりますと、この薬を使った患者2人から薬が効きにくいように変化した「耐性を持つウイルス」がみつかりました。

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仮に、耐性のウイルスがヒトからヒトにうつると、そのウイルスが広がって、薬の効果がなくなり、治療に使えなくなる恐れがあります。過去には、耐性ウイルスによって、そうなった薬もあります。

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ゾフルーザの場合、心配されている耐性ウイルスの感染は報告されておらず、医療機関で患者に対する処方が継続されています。
ただ、こうした状況について専門家の間からは、現状のように多くの人に使うと耐性のウイルスができる機会が増えることにもなりかねず、薬の使い方を限定したほうが良いという指摘も聞かれます。

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患者にとっては、1回飲むだけという使いやすさのメリットはありますが、一方でこれまでにない効き方の薬だけに、新型インフルエンザ対策の切り札として持ち続けるために、慎重に使うべきだとする考えです。

毎年、流行するインフルエンザだけでなく、新型インフルエンザの治療薬として、どう位置づけるのか、さらなる議論が必要だと思います。

インフルエンザが猛威を振るう中、高齢者や子どもの対策が必ずしも十分でないことが表面化しています。どのような対策が足りないのか、世界中が警戒している新型インフルエンザの出現に備えて、どう対策を進めるのか、患者や医師、専門家や製薬会社など、それぞれの立場であらためて見つめなおすことが求められています。

(中村 幸司 解説委員)

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