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「ポストゴーン 日産・ルノーの行方」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

ゴーン前会長の逮捕に大きく揺れた日産とルノーが、再出発に向けて動き始めています。日産の西川社長とルノーのスナール新会長は、日本時間の明日にも初めてのトップ会談を行うことにしています。日産は組織の体制をどう見なおし、ルノーとの新たな関係をどのように築いていくべきか。この問題について考えていきたいと思います。

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解説のポイントは三つです
1) 不正を見逃さぬ組織へ
2) 水面下で続く提携の主導権争い
3) グローバル競争に欠かせぬ協調

まずポストゴーンにむけた組織の立て直しについてです。日産は今月、組織のあり方や業務の進め方などを見直す第三者をまじえた委員会を立ち上げました。そこでは何が焦点となるのか。一連の事件を振り返りながら具体的にみていきます。

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東京地検特捜部によりますと、ゴーン前会長は、有価証券報告書に報酬を少なく記載したことに加え、18億円あまりの含み損を抱えた私的な為替取引を日産に付け替えた。さらに、この損失の信用保証に協力したサウジアラビア人の実業家の会社に、日産の子会社から当時の為替レートで12億8000万円余りを不正に支出させたとして特別背任の罪に問われています。

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これに対し、ゴーン前会長は、報酬は確定していなかったとしたうえで、為替取引の付け替えについては、「日産になんら損害を与えていない」としています。しかし、同時に、この取引は、会社から円建てで受け取る報酬をドルに両替した場合に変動しないようにするものだったと説明しており、そうした私的な取引を一時的にせよ会社に肩代わりさせた行為については、「公私混同だ」という指摘が出ています。実際に証券取引等監視委員会も、当時この取引の存在を把握し、関係した金融機関に違法性の疑いがあると指摘していたということです。
またサウジアラビア人実業家への支出について、ゴーン前会長は、「日産の業務を推進してくれたことに対する相応の対価を支払ったものだ」と説明しています。しかしこの資金は、CEOリザーブと呼ばれる、本来は自然災害への見舞金などを想定した予算から、趣旨にそぐわない使い方をされていたという指摘も出ています。

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さらに、こうした一連の事件とは別に、日産の内部調査では、ゴーン前会長が、日産とルノーの統括会社から、ほかの取締役に知らせない形で、およそ10億円の報酬を受け取っていたことも明らかになりました。

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このようにゴーン前会長による「公私混同」や「不透明な支出」が行われた背景には、前会長の周辺で起きていることに対し、監視の目が行き届かない状況になっていたこと。また、ゴーン前会長の行為を不正だと認識した社員がいたとしても、組織として食い止めることができない実情があったものとみられます。日産は第三者の専門家を交えた委員会で、ゴーン前会長が一人で決めていた役員報酬を社外取締役なども交えて決める「報酬委員会」を設置することを検討。また、経営のチェック機能を強化するための取締役会の構成や、重要な経営の意思決定のあり方などについて見直しを行ない、6月の株主総会までに新たな方向性を打ち出すとしています。今回の事態を招いた原因についてつきつめて考え、同じような問題が二度と起きないような体制を築くことが求められています。

次に日産とルノーの今後の提携関係をめぐる両者の主張の争いについてみてみます。

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両社の間では、去年11月のゴーン前会長の逮捕以降、緊張した関係が続いていました。日産がゴーン前会長をただちに解任したのに対し、ルノーは、「不正を認定する十分な証拠がない」としてルノーのトップからの解任を留保。ルノーの筆頭株主のフランス政府もそれを支持してきました。

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しかしその後フランス国内では、マクロン政権の政策が大企業や富裕層寄りだとして激しい批判を浴びる中で、不正が伝えられたゴーン前会長に対する市民の怒りの声も高まりました。こうした中でフランス政府もトップの交代を要求。ゴーン前会長に対する両者のスタンスが一致したことで、ポストゴーンの動きが本格化することになりました。
しかし今後の道のりは平たんではなさそうです。

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関係者によりますと、ルノーの筆頭株主であるフランス政府は、日本政府に対し、ルノーと日産の提携関係を強化するために両社を経営統合させたい意向を伝えていたことが先週明らかになりました。

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ルノーは日産の株式の43%を保有する大株主ですが、日産は、車の販売台数や売上高でルノーを大きく上回ります。フランス政府としては日産との関係を強化することでルノーの収益を安定させ、国内の雇用を守りたいと考えているものとみられます。これに対し日産の内部からは、収益だけでなく技術面でもルノーに優っているという自負もあり、ルノーからの自主性を一段と高めたいという正反対の思いが聞こえます。

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日産は、今年4月に臨時の株主総会を開いて、ルノーのスナール新会長を日産の取締役に加えることにしていますが、ここでも両者の対立の火種は残っています。スナール氏はゴーン前会長と同様、高い地位での幹部のポジションを求めていますが、日産の内部では、ゴーン前会長が、日産の大株主であるルノーのトップを兼務したことで「権限の過度な集中」を招いたという認識を強めています。今後両者の間では、資本関係だけでなく、日産の取締役人事も含めた主導権争いが水面下で続くことになりそうです。

ただ両者が内輪の争いにエネルギーを費やすばかりでは、グローバルな競争から取り残されることになりそうです。

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自動車業界は、いま大きな変革期を迎えています。世界最大の自動車市場をもつ中国が、2025年までに自動車販売の20%を電気自動車などにする目標を設定するなど、各国で電動化への要求が高まっています。さらに自動運転技術の開発など、莫大な研究開発費がかかることになり、一社単独で乗り切るのは容易ではありません。こうした中、今月に入ってからも、ドイツのフォルクスワーゲンとアメリカのフォードが、商用車などの分野で提携することを決めたほか、電気自動車や自動運転についても協議を続けていくことで合意。また、トヨタ自動車が、電動車の基幹部品となるリチウムイオン電池をパナソニックと共同で生産することで手を結ぶなど、国境や業種を越えた提携の動きが活発になっています。

日産とルノーはこれまで、提携のスケールメリットをいかし、部品の共通化や研究開発費を分担することで、収益の改善につなげてきました。国境を越えた提携が効果を挙げた背景には、資本の上では支配する側にたつルノーが日産の自主性を重んじたことがあったといわれます。

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こうした経緯を踏まえ、日産の西川社長は「両社が相乗効果を発揮するには、お互いの自主性を尊重することが大前提だ」と主張。ルノーが、資本の論理を振りかざせば、両者の関係が壊れるとけん制しています。これに対し、スメール新会長も、「日産との提携の長所である信頼関係を強化していきたい」と強調。ルノーにとっても、大株主の立場で経営統合をごり押ししたところで、日産の優秀な社員がルノーによる支配を嫌って流出してしまえば、元も子もないということになるでしょう。お互いがお互いを必要とするという共通の認識を前提に、資本の論理を超えたところで信頼関係を築くことができるのかが、重要なカギとなりそうです。

各国の自動車メーカーがグローバル競争での生き残りをかけて提携の相手を探る中、日産とルノーが双方の自主性を維持しながら、より密接な関係を築いて相乗効果を高めていくことになるのか。注目していきたいと思います。

(神子田 章博 解説委員)

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