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「総崩れの原発輸出 原子力政策見直しを」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

日立製作所は、イギリスで進めていた原発計画について、事業継続は困難と判断し、凍結することを正式に決定。
原発輸出は政府が成長戦略の柱と位置づけ。でも三菱重工が手がけるトルコへの輸出も暗礁に乗り上げており、事実上すべて頓挫することに。
ただこの問題、単に輸出をやめれば済む話しではない。
輸出で技術や人材を維持する狙いがあっただけに原発の安全を保てるのか、また今後も原発に頼るのかどうか原子力政策そのものの見直しが不可欠。

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▽なぜ原発輸出が頓挫したのか
▽今、原子力産業はどうなっているのか
▽求められる原子力政策の見直し、  以上3点から水野倫之解説委員の解説。

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「民間として経済合理性がない」
原発輸出の凍結の決定にあたって、日立の東原社長は何度も強調。
2国間の案件であれ、民間としてこれ以上時間と費用を浪費できないというわけ。

日立は2012年から、イギリスの原発子会社を通じて中部の島に原発を2基建設して2020年代前半に運転することを目指し、準備。

ところが原発の安全基準が世界的に強化され、建設費が当初の1.5倍の3兆円に膨らむ見通しと。
そこで日立は中西会長がイギリスのメイ首相に直接、発電した電力の高値での買い取りを要請。しかしイギリスでは風力発電など再生可能エネルギーの価格が急激に下がっていることもあって、原発の価格だけが上昇することへの批判も。
結局希望通りの買い取り価格や、追加の支援も困難となり凍結と判断されたわけで、撤退も視野に入る。

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運転中CO2を出さない原発は温暖化対策になり1兆円を超える契約も見込めることから、政府は2000年代半ばから輸出の旗を振った。

国内で原発を作る日立、三菱、東芝のメーカー3社もこれに応え、東芝がアメリカの原子炉メーカー「ウェスチングハウス」を買収するなど、動きが活発となっていたまさにその時起きたのが福島の事故。

世界的に原発への不安が高まったが、政府は「事故の教訓を生かして世界の原発の安全強化に貢献する」と理屈をつけ、輸出政策を継続。
しかし規制の強化で原発市場は一変。事故前1基あたりの建設費が5000億円だったのが1兆円以上に高騰し、計画が軒並み遅れ。
東芝はアメリカの計画の遅れで損失が拡大、撤退時期も遅れたため1兆円を超える巨額の損失で経営危機に。
ほかにもリトアニアが、日本の計画を国民投票で否決。ベトナムも日本への発注を白紙撤回。
安倍総理がエルドアン首相へのトップセールスで三菱重工が受注を決めたトルコの計画についても、事業費が膨らんで継続は困難な情勢。日本の原発輸出は事実上すべて行き詰った。

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世界的に見ても実績を積んでいるのは国家が丸抱えの中国やロシアくらい。
いまや原発は民間単独では採算を取りづらくリスクが高いビジネスであることがわかったわけで、採算がとれないのであれば手を引くのは当然。
日立は今年度、3000億円の損失を計上することにしており重い代償を払うが、判断が遅れて東芝の二の舞にならなかっただけよかったという評価もできる。

にもかかわらず政府は、世耕経済産業大臣が「原発を使いたいと思っている国はまだあり、日本の技術が世界に貢献していける可能性はある」と述べて、方針は変更しない考え。
福島の事故で流れが変わることを見通せなかった政府の甘い判断もあるわけで、輸出に頼る戦略は転換を。

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ただこの問題、政府が輸出政策をやめて、企業が損失処理をすれば終わり、というわけにはいかない。国内の原発をどう位置づけるか、国の原子力政策そのものの見直しをしていかなければならない問題。

各メーカーが力を入れていたのは、輸出によって国内の原発技術の維持、そして人材育成を図ろうとしていた背景があるから。

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再稼働は9基にとどまり、メーカー3社の原子力関連の人員は2015年までの3年ですでに1割減った。
今後は増える老朽原発の廃炉にも対応していかなければならず、幅広い技術と人材の厚みを維持していくことが必要。
しかし人材不足を補おうにも、原子力関連の仕事に就こうという学生も激減。就職説明会の参加者は事故前に比べ8割減。

各メーカーは技術や人材は、原発を作り続けていないと保てないと主張。
今後国内で原発の新設や増設は可能か。
政府はエネルギー基本計画で原発を重要電源と位置付け、2030年に全電源の最大22%をめざし、その後も脱炭素化の選択肢と位置づけて原発を維持する方針を明示。
しかし新増設については一切触れず、曖昧な姿勢に終始。
国民の間に根強い反対があるからで、今後も新増設は簡単にはいかない。

こうした状況の中、今まさに稼働している原発の安全が確保できるのか、そして廃炉が決まった原発を安全に解体していけるのかが大きな問題に。
原発はこれまで、政府が決めた方針に民間が従う「国策民営」だったわけで、
原発の安全、そして廃炉を支える技術、人材をどう確保していくのか、政府が早急に道筋を示さなければ。
さらに技術や人材の確保が難しければ、原発をたたんでいくことも考えなければならず、今後も原発に頼るのかどうか原発の位置づけを再検討することが不可欠。

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これまでも再検討の機会はあったが、去年のエネルギー基本政策の議論では再エネに主眼が置かれ、原発について突っ込んだ議論は行われず。
また先月、高速増殖炉もんじゅの後継炉を今世紀半ば頃につくる方針が決められたが、推進側だけで議論。
日立の東原社長は、今回、メーカーとして技術・人材の維持が非常に難しい状況にあることを認めたうえで、「エネルギーをどうするのか、原子力をどうするのか国民と一緒になって議論しなければならない」と述べ、国民的な議論の必要性を強調。

政府は原発輸出が頓挫した今こそ、推進側だけでなく国民各層の代表も入れて国民を巻き込む形で原子力政策の見直しの議論を進めていかなければ。

(水野 倫之 解説委員)

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