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「動き始めたトランプ再選の攻防」(時論公論)

髙橋 祐介  解説委員

アメリカ政治は出口の見えない混迷状態です。メキシコとの国境に“壁”を建設する予算をめぐる対立から、政府機関の一部閉鎖は過去最長1か月を超え、およそ80万人の職員に給与が支払われないなど、影響が広がっています。共和・民主両党を激しい対立に突き動かしているのは、トランプ大統領が再選を目指す来年=2020年の大統領選挙に向けたそれぞれの思惑です。早くも動き始めた“トランプ再選”をめぐる攻防の行方を考えます。

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ポイントは3つあります。

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▼まず“国境の壁”建設の是非は来年の大統領選挙で最大の争点になる可能性があります。▼次に民主党の大統領候補としてトランプ大統領に挑戦する人物はどのように決まるか?▼そして共和党はどのよう戦略で“トランプ再選”を目指すでしょうか?

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トランプ大統領が向こう1年の施政方針を示す一般教書演説は、アメリカ議会で来週(1月29日)に予定されていました。ところが、民主党の指導部は、閉鎖されている政府機関が再開されない限り、演説を延期するか書面で提出するよう大統領に促し、受け入れを拒んでいます。トランプ大統領は「民主党が演説をキャンセルしたのは恥ずべきことだ」と反発し、議会とは別の場所で代わりの演説を行う案も検討しています。

一般教書演説が取りやめとなれば、100年以上前、当時のウィルソン大統領が今の議会演説の形を復活させて以降、初めてとなりますから、まさに“前代未聞”です。対立が一向に解けないのは、大統領も民主党の指導部も“国境の壁”を建設する是非では、互いに一歩も退かない姿勢をみずからの支持層にアピールしたいからでしょう。

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“国境の壁”の建設は、トランプ氏が大統領選挙に名乗りを挙げたその日から訴え続けてきたいわば「公約の中の公約」です。就任以来この2年間、「歴代の誰より公約を達成してきた」と自負するトランプ大統領にとって、断じて譲れない一線です。
そのため、壁の建設費用を予算に盛り込むことに民主党が同意するなら、子どもの頃に親に連れられてアメリカに入国し、正式な在留資格を持たない不法移民の若者たちに対する救済措置を3年間延長しても良いという妥協案を示しました。
しかし、民主党の指導部は、この妥協案を即座に拒絶。民主党もまた来年の大統領選挙で“トランプ再選”を阻止するため、“国境の壁”が象徴する移民政策を最大の争点にしたいからです。

民主党による来年の大統領選挙に向けた候補者選びは、すでに始まっています。

(ハリス上院議員の立候補CM)
「この国の未来は皆さんからの声にかかっています/アメリカの価値観を守る戦いのため/私は大統領に立候補します」

▼今週、西部カリフォルニア州選出のカマラ・ハリス上院議員(54)が立候補を表明しました。ジャマイカとインドからの移民を両親に持つハリス氏は、地方検事や州の司法長官を務め、議会上院ではトランプ政権の移民政策を厳しく追及してきました。▼前のオバマ政権で住宅都市開発長官を務めたヒスパニック系のフリアン・カストロ氏(44)もすでに立候補を表明したほか、▼東部マサチューセッツ州選出のエリザベス・ウォーレン上院議員(69)も立候補に向けた準備委員会を立ち上げました。

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▼ジョー・バイデン前副大統領(76)や▼前回クリントン元国務長官と指名を争ったバーニー・サンダース上院議員(77)など、立候補を検討中とされている人も含めると、20人以上がひしめく混戦が予想されています。「女性」「若者」「マイノリティ」という今の民主党が支持基盤と頼む3つの旗印で政権奪還をめざします。

なぜゴールはまだ遠い先なのに、スタートラインの動きが今から活発化しているのでしょうか?民主党の候補者選びが、これまでとは仕組みが変わるからです。

ゴールから逆にたどると、まず来年11月の大統領選挙でトランプ大統領に挑む人物は、7月の民主党大会で大統領候補に指名されます。指名にあたって「特別代議員」と呼ばれる党内の有力者には今回から投票権が原則なくなり、予備選挙の一般党員による投票で最も多くの代議員を獲得した人物が選ばれます。

しかも、これまで6月に行われてきた西部カリフォルニア州の予備選挙が、3月の各州の予備選挙が集中する「スーパーチューズデー」に前倒しされます。民主党の地盤で、全米で最も人口が多いカリフォルニアを制した人物は、圧倒的な優位で戦いを進めることが出来ますが、そこで勝利するためには、高い知名度と資金力そしてマイノリティからの支持も必要となります。

このため、各候補は来年2月、中西部アイオワの党員集会や東部ニューハンプシャーから始まる予備選挙よりずっと前から、選挙キャンペーンを本格化しなければなりません。
民主党は、ことし6月から早くも候補者同士のテレビ討論会を始める計画です。有力候補の絞り込みは早まり、来年の今ごろは数人程度になっているかも知れません。

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では、そうした民主党候補からの挑戦をトランプ大統領は退けることが出来るでしょうか?こちらは、保守系のフォックス・テレビが、中間選挙のあと先月(12月)いまの政府機関の閉鎖が始まる前の段階で実施した世論調査です。
トランプ大統領が「再選される」と答えた人が39%に対し、「再選されない」と答えた人は52%でした。この数字は、最近の大統領の支持率と不支持率に、ほぼ一致します。
大統領に対する共和党内からの支持に大きな揺らぎは見られません。しかし、そうした従来の支持層だけでは、再選は果たせないかも知れないのです。

無論、相手の民主党候補に誰がなるかによって、こうしたデータは変わっていくでしょう。しかし、前回のヒラリー・クリントン氏のように、トランプ氏に勝るとも劣らないほど好感度が低い、いわば“嫌われ者”を今回も民主党が選ぶことは考えにくいのが現状です。こうした再選への道のりの険しさを知っているからこそ、トランプ大統領は今、政府機関の閉鎖も辞さず、“国境の壁”の建設を訴えて、支持固めを加速しているのかも知れません。

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政府機関の閉鎖がさらに長引けば、トランプ大統領の支持率も低下する可能性はあります。しかし、逆に、政府機関の閉鎖が続く中でも、“トランプ再選”に有利なデータもあります。ヒスパニック系の有権者を対象に今月(1月)アメリカの公共放送が行った世論調査では、トランプ大統領の支持率は50%に達し、先月(12月)の前回より19ポイントも上昇しました。好調なアメリカ経済のもと、ヒスパニック系の失業率が記録的に改善したことが、主な要因とみられています。
ヒスパニック系の有権者は、少なくとも“反トランプ”一色ではありません。従来の支持層だけでは再選が心許ない大統領にとって、ヒスパニック票の取り込みは、大きなカギになるでしょう。だからこそトランプ大統領は今、ヒスパニック系の有権者が高い関心を寄せる不法移民の若者の救済措置を検討しているのかも知れません。

トランプ大統領の再選の成否は、アメリカ経済が今後も好調を維持できるか、そして、ロシア疑惑などの追及をかわせるかによって、大きく左右される見込みです。
おそらく大統領の胸中に今、再選への道筋を確かなものにすること以上に重要な懸案はないでしょう。政府機関の閉鎖にとどまらず、中国との貿易摩擦も、北朝鮮との非核化交渉も、あらゆる場面で再選に有利とみれば妥協も厭わず、逆に不利とみれば解決策も見つからないまま問題を放り出す可能性を排除できません。早くも動き始めた“トランプ再選”をめぐる攻防は、そんな大統領の“実利志向”にますます拍車がかかっていく現実を物語っています。

(髙橋 祐介 解説委員)

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