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「2019年 社会保障 『全世代型』への転換を進めるために」(時論公論)

藤野 優子  解説委員

2019年、社会保障は、二つの意味で大きな節目を迎えます。

ひとつは、10月に予定されている消費増税によって、子育て支援などを強化して「全世代型」社会保障への転換が加速されること。
もうひとつは、この増税後、今度は、現役世代が急速に減少する2040年代に向けた改革論議が、今年本格的にスタートすることになります。

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【解説ポイント】

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「全世代型」の社会保障を目指して、今年、消費増税に伴って予定されている制度改革の中身とその課題。また、2040年代はどのような社会になり、政府はどんな改革を進めようとしているのか。
そして、今後増加する単身世帯をモデルとした社会保障にかえるために何が必要かを考えます。

【今年の変更点】
まず、今年、消費増税で社会保障の何が変わるのか。

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今回の改革は、2012年から始まった社会保障制度改革国民会議が、団塊の世代が全て75歳以上になる2025年に向けて、「全世代型」の社会保障への転換を打ち出したことがスタートでした。
消費税の負担を求める代わりに、子育て世帯など現役世代まで支援を広げて、「全世代」を支援する社会保障にする。そして、高齢者にも、経済力に応じた負担を求め、支え手に回ってもらおうというものです。

消費税率が8%に引き上げられた2014年から第一弾の改革が実施され、二回の増税延期などを経て、今回の10%への引き上げで、予定されていた一連の改革(いわゆる社会保障と税の一体改革)が実施に移されることになります。

【幼児教育無償化】
具体的な内容をいくつか見ていきますと、柱は、増税分の財源を毎年およそ7800億円かけて実施される、幼児教育・保育の無償化です。

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少子化対策のために、
▽幼稚園、認可保育所などに通う3歳から5歳までの利用料を一律に無料にし、
▽認可外の施設などを利用している人にも、ひと月3万7000円までの補助を出す方針です。
少子化に歯止めをかけなければ支え手が細り、高齢者向けの年金や医療も抑制せざるを得なくなります。このため、子育て世帯への支援を増やしていく方向性は一定の前進といえるでしょう。

しかし、この制度設計をめぐっては、まだ問題があります。
一つは、待機児童の多い地域の保護者からは、無償化よりも、まずは待機児童対策や保育士の確保を優先してほしいという声が上がっていることです。
無償化すれば、利用を希望する人が増え、待機児童の解消が遅れるのではないかという懸念もあります。
また、スタートから5年は、全ての認可外施設を利用している人も補助の対象にしていることに、「安全性や質は大丈夫か」という懸念が自治体などから出ていて、安全性や質の確保について、政府と自治体の協議が続いています。

全ての人に消費税の負担を求めて、新たなに実施する無償化。同じ子育て支援でも貧困世帯への支援も不足しています。

多くの人が納得できる制度設計にするためにも、まずは、高所得者は除外するなど、段階的に無償化を進め、待機児童解消のめどが立ったところで、一律の無償化に移行することも選択肢ではないでしょうか。

もし、予定どおり実施するのであれば、早い時期に、各地域の待機児童が急増していないか、安全性に問題はないかを検証をし、柔軟に制度を修正していくことが求められます。

【低所得対策】
このほか、低所得者への支援も拡充されます。

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▼低年金で低所得となっている高齢者にひと月最高で5000円の支援金が支給されるほか、▼低所得者の介護保険料の軽減なども実施されることになっています。

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こうした子育て支援、低所得者支援の対策など、今度の消費増税による増収分5兆7000億円のうち、2兆8000億円が社会保障の強化に充てられ、残りは借金の返済に充てられることになっています。

【2025年以降の社会の姿】
しかし、ここまでの取り組みだけでは、社会保障改革は不十分です。
むしろ、2025年以降が人口構造上さらに厳しい時代に入ります。

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これは世代別の人口の推移です。
このように2025年までは、高齢者が急増する時代で現役世代の減少は緩やかです。
ところが、2025年以降2040年代にかけては、現役世代が急減していくのです。
しかも、高齢者はまだ増え続けます。
加えて、未婚率の上昇で、2040年には単身世帯が4割に増加すると推計されています。しかも、社会人になる頃に就職氷河期だった団塊ジュニア世代は、いまも非正規やパートで働く人たちが多くて未婚率も高く、そうした世代が高齢期を迎えるため、生活保護を受ける高齢者の急増が心配されているのです。

【支え手を増やすために】
このため今年、政府は、支え手を増やすために、新たな社会保障改革の議論を本格化させます。高齢者の健康寿命を延ばし、働きたい高齢者には働き続けてもらおうというものです。

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具体的には、3年間かけて改革を進めるとしていて、まずは、
▼意欲があれば、70歳まで働き続けられる雇用環境をつくる、そして、
▼年金の受け取りを、希望すれば75歳以上に遅らせることができるようにすることや、
▼一定の収入がある高齢者の年金を減額する今の仕組みを見直すなどの
年金の改革案を年内にもまとめる予定です。

しかし、このように支え手を増やしただけで、暮らしの安心が確保できるわけではありません。今は非正規で働く人が増え、単身世帯も増加し続けているにもかかわらず、社会保障制度は、高度成長期につくったサラリーマンと専業主婦の世帯をモデルとした設計のまま。年金も医療も介護も、セーフティネットとして機能させていくためには、単身世帯を標準とした制度につくりかえていく必要があるのです。

【単身モデルの社会保障に】
では、雇用や家族の変化に合わせて、単身世帯を標準とした社会保障にかえていくために、何が必要なのか。

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まず、低年金で低所得に陥る高齢者の増加を防ぐために、受け取り額の比較的手厚い厚生年金に非正規やパートで働く人の多くが加入できるよう、制度の見直しを急がなければなりません。非正規やパートで働く人の多くは、国民年金に加入している人も多く、保険料を支払えずに将来低年金、低所得になる恐れがあるからです。
また、社会保障の柱に「住まいの保障」をしっかりと組み込み、住宅補助や地域の空き屋などの活用をもっと進めていくことも必要です。一人暮らしで持ち家のない人は、老後に家賃を払えなくなり、住まいを失う可能性があるからです。

さらに、今、医療や介護も在宅サービスを広げる改革が進められていますが、一人暮らしの高齢者に、必要な医療、介護、そして生活支援のサービスを届けるために、地域で支えあう仕組みづくりも新たに求められます。

【負担と給付の将来像を】
そうした単身モデルの社会保障につくり直した上で、将来必要となる負担を「全世代」でどう分かち合っていくのか。負担増や給付の削減に向けた改革の全体像と工程表を早く示す必要があります。将来の社会保障の姿を示すことが、現役世代の安心につながり、消費の拡大や少子化に歯止めをかけることにもつながっていく、そうした好循環を生み出すことが必要なのです。

平成の時代、社会保障は、非正規で働く人の増加といった雇用の変化や、単身世帯の増加といった家族の変容にあわせた改革が停滞しました。
こうした改革の遅れが、今後20年以上続く現役世代の急減を招いたことは否定できません。
急速な技術革新も進む中、平成の時代の教訓を活かして全ての世代に必要な保障を組み込んだ社会保障制度に創りなおすことできるのか。それとも同じ失敗を繰り返すのか。今、その分岐点にきているように思います。

(藤野 優子 解説委員)

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