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「辺野古土砂投入 対話は終わりなのか」(時論公論)

西川 龍一  解説委員

沖縄のアメリカ軍普天間基地の名護市辺野古への移設工事で、国はきょう埋め立て予定地の海に初めて土砂を投入しました。土砂の投入というこれまで以上に海の原状回復が難しくなる新たな局面です。ただ、沖縄では来年2月に移設の是非を問う県民投票の実施が決まっていることもあり、国が対話を一方的に終わらせる形で工事を進めることに県民の反発はさらに強まっています。今夜はこの問題について考えます。
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辺野古の海への土砂の投入は、きょう午前11時前から始まりました。護岸で囲われた海の中に重機を使って土砂を入れていました。予定地の海では埋め立てに反対する人たちがカヌーを出して「海を殺すな」などと抗議しました。沖縄県の玉城知事は「このような行為は沖縄県民の反発を招き、県民の怒りはますます燃え上がる」と憤りをあらわにしました。
今回埋め立てられるのは護岸で囲われたおよそ6ヘクタールの区域です。埋め立て区域は全体で160ヘクタールとされていますから、全体の4%程度の区域です。国は今後、残る護岸工事を進め、護岸が完成した区域から順次土砂を投入して全体を埋め立て、その上に新たな基地を建設する計画です。
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国は当初、ことし8月をメドに埋め立て地への土砂の投入を計画していました。しかし、翁長前知事の急逝や、県が埋め立て承認を撤回したことで、工事は中断しました。その後、国が県の承認撤回の効力を停止する決定を行ったことから工事は再開されました。これに対し、翁長知事の遺志を受け継ぐ形で辺野古移設阻止を掲げて大差で初当選を果たした玉城知事が国との対話を求め、先月1か月間、国と県との協議が行われました。この間土砂の投入は見合わされていましたが、話し合いは平行線のまま終了。きょうの土砂投入となったのです。
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工事を止めて行われた1か月の協議で、国と沖縄県はそれぞれどのような主張を行ったのでしょうか。
国が土砂投入を急ぐ理由は、「世界一危険とも言われる普天間基地の危険性を一刻も早く取り除くには、辺野古移設が唯一の解決策」という1点です。そのためにも工事の遅れを取り戻す必要があるという主張です。土砂の投入に先立って、きのう改めて玉城知事は岩屋防衛大臣、菅官房長官と相次いで会談しましたが、ここでも政府が繰り返したのは「辺野古が唯一の解決策」でした。
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一方、沖縄県側が示したのは、工事期間の長期化と基地建設費の高騰という2つの新たな試算です。先月の国と県の協議の最終日、安倍総理大臣と会談した玉城知事は、
▽このまま工事を進めても新たな基地の運用には13年かかると想定されること
▽その後、埋め立て地域は地盤が軟弱なことが新たにわかり、改良工事なども含め基地の建設費用は当初の予定をはるかに上回り2兆5千億円に上ると試算されることを示し、
「県知事選挙で再度示された移設反対の民意を政府は真摯に受け止め、工事を中止すべきだ」と求めました。防衛省は県の主張に根拠はないとしていますが、沖縄県の謝花副知事と杉田官房副長官との協議を含め、政府側から県への答えはないままです。
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沖縄からすれば、辺野古移設阻止を掲げた玉城知事が過去最多得票で当選を果たしたことで移設反対の民意を示したにも関わらず、「唯一の解決策」以外の理由を示さないまま、工事を急ぐ政府の姿勢は理解しがたいものがあります。一方で、政府にはもう一つ土砂投入を急ぐ理由があります。来年4月には衆議院議員を辞職して県知事選に臨んだ玉城知事のあとを決める衆議院沖縄3区の補欠選挙が、夏には参議院選挙が控えています。沖縄では国政選挙で辺野古移設容認を掲げて当選した候補はいないだけに、争点化は避けたいというわけです。海への土砂投入というある意味後戻りの出来ない状況まで工事が進んだという移設の既成事実化が本音という指摘もあります。
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では、土砂投入という移設工事の新たな局面を迎え、玉城知事に工事を止めるための手立てはあるのでしょうか。
玉城知事は、土砂の投入で後戻りができなくなるとは思っていないとして、機会あるごとに行政でどういう手立てがあるか協議するとの考えです。ただ、県にとっては、埋め立て承認の撤回が切り札とされてきましたから、法律的な対応は難しいというのが大方の見方です。一方で、その撤回の効力を国土交通省が停止したのは違法だとして、県は国の第三者機関「国地方係争処理委員会」に審査を申し出ています。国土交通省の関与が違法であることが認められれば、必要な措置を行うよう勧告などが行われることになります。ただ、審査期間中も国は移設工事を止める必要はありません。係争処理委員会は3年前にも同じ構図で県の申し出を却下していることもあり、県にとって厳しい状況です。
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もう一つは、来年2月24日に実施される辺野古移設の是非を問う県民投票です。実施に向けた署名集めを行った市民グループは、県知事選挙では争点が辺野古移設問題だけではないとして民意が無視されるのなら、対象を1つに絞った県民投票で改めて辺野古移設反対の民意を示すことができると考えています。ただ、県民投票の結果に法的な拘束力はありません。菅官房長官は先月28日の記者会見で県民投票が移設計画に与える影響について「まったくないと思う」と述べました。投票が行われる前からここまで言い切ることには、疑問の声もあります。一方で県民投票の事務作業を行う市町村の中には、作業を行うかどうか態度を明らかにしないところもあり、普天間基地をかかえる宜野湾市議会は、県民投票に反対する意見書を可決するなど、足並みの乱れも見られます。中には移設によって辺野古の人たちが基地問題に苦しむことは認められないが、そのことによって普天間基地が固定化することになるのではというジレンマに悩むという人もいます。基地問題は白か黒かで割り切れるほど単純ではないことの現れです。
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沖縄の人たちの中には、なぜ過重な基地負担を担わされている沖縄だけがこうした問題に苦しめ続けられなければならないのかという思いが強まっています。そうした中、一連の事態について本土側で、在日アメリカ軍基地の問題は沖縄だけの問題に矮小化してはいけないという動きが始まっています。今月6日、東京の小金井市議会が普天間基地の代替施設の必要性を全国で議論し、必要なら沖縄以外の全国すべての自治体を候補地として民主的な手続きによって解決することなどを求める意見書を採択しました。都内では、文京区議会も辺野古移設の中止を求める請願をことし7月可決しています。こうした動きは、まだ一部にとどまっていますが、国の安全保障に関わる以上、国全体の問題として考えるのは当然でしょう。移設工事の費用は全額国が負担します。新たな基地の建設がわれわれの税金で賄われるということ1つとっても、国民一人一人に関係することとして受け止めることが必要です。
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岩屋防衛大臣は、きょうになってアメリカとの合意である2022年度の普天間基地の返還は難しいとの認識を示しました。丁寧な説明とは裏腹に、これまで沖縄側に説明がなかったことが明らかにされた形です。地元の理解がないまま辺野古移設を強行すれば、県民の不信がほかのアメリカ軍基地に向かうことを懸念する声もあります。玉城知事との対話の窓口を閉ざすことなく、県側の疑問にこそ誠心誠意の説明を果たすことが国の責務ではないでしょうか。
(西川 龍一 解説委員)

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