今回取り上げるのは、
日本の将来を大きく左右することになる、転換点というべきテーマ、
外国人労働者の受け入れ拡大問題です。
衆議院で、改正法案の本格的な審議が始まりました。
[ 何が焦点か? ]
政府は新たな制度を来年4月からはじめることを目指しています。
そのためには、改正法案の今国会での成立が不可欠だとしています。
これに対し野党側はこの法案の審議には十分な時間が必要で、
成立を急いではならない、と主張していまして、
今国会、最大の対決法案となっています。
当面の焦点は三つ。
▼政府が作ろうとしているあらたな「在留資格」、
その制度設計は十分なのか?
▼次に、日本の雇用への影響や受け入れ態勢はどうなるのか?
▼そして、この新たな制度と密接につながることになる、
技能実習制度をどうするのか?
この3点について考えます。
[ 深刻な人手不足 ]
まず、なぜ、外国人労働者の受け入れを急ぐのか?
いうまでもなく、深刻な人手不足に陥っているためです。
日本で働く人は、今後さらに減っていきます。
厚生労働省などの推計では就業者数、つまり働く人の数は
2040年には、今よりもおよそ1000万人も減ってしまいます。
社会を支えるのに必要な、様々な仕事の担い手が減り、
税金や社会保障の保険料を払う人も減ってしまう。
これは、大変な事態です。
そこで、海外の人に、もっと日本にきてもらって、働いてもらおうというわけです。
しかし、これは簡単なことではありません。
なぜなら、そもそも日本は、
これまで、外国からの労働者を厳しく制限してきたからです。
医者やIT技術者など、高度な専門知識を持つ人、
いわゆる高度人材は受け入れていますが、
農業やサービス業などの、いわゆる単純労働では、
原則として労働者を受け入れていません。
いやいや、街では多くの外国人が
コンビニや外食チェーンで働いているではないか!
そう思われるかもしれませんが、
多くの場合、その人たちは研修生や留学生という立場できていて、
正式には、労働者という立場を与えられていません。
そのいわば、ごまかしが、実は、様々な深刻な問題につながっているわけですが、
それは、また後でふれたいと思います。
[ 新たな在留資格とは ]
まず、最初の焦点。
外国人が日本に住んで働くためには、「在留資格」が必要です。
これまで受け入れてこなかった単純労働の分野で
事実上新たに労働者を受け入れるためには、
新たな在留資格が必要になる、ということで、
法案では、二つの新たな資格を作ります。
それが、特定技能1号と、特定技能2号です。
▼特定技能1号は、一定の試験などを受けて、
日本語や仕事の能力が、ある程度ある、とみなされた場合に資格が与えられます。
在留期間は、通算で5年間、家族を呼び寄せることは認められません。
一方、▼特定技能2号は、1号よりも、より高い能力が必要とされ、
1号の人が試験に受かれば、2号に移ることも可能です。
こちらは、家族を呼ぶことが許されて、また、在留期間も更新が可能です。
事実上、永住への道を開くことになるとみられています。
肝心なのは、この、1号、2号、
それぞれの求められる能力のレベルが具体的にどういうものなのか?
今後、職種ごとに詳しい説明が必要になってくると思いますが、
それは、まだ明確ではありません。
[ 日本への雇用の影響は? ]
次は、雇用への影響です。
この人たちが、どういう仕事で、どれだけ入ってくるのか?
問題はそこです。
政府は現在、対象として、14の業種を検討しています。
しかし、実際にどの業種が本当に対象になるのか、
また、対象になったとしても、それが、1号だけなのか、
それとも1号、2号両方なのか、といったことは法案には明記されず、
後日、政府が省令で定めるとしています。
つまり役所の判断で決められる、ということです。
また、それぞれの業種で、どれくらいの人が入ってくるのか?
これも、きょうの国会質疑で何度もとりあげられましたが、
政府は、受け入れの規模については近日中に示すと述べるにとどまっています。
このように、法案が審議入りしたといっても
まだ肝心な部分については明確になっていない部分が多く、
野党からは、法案は生煮えだ、という批判もあがっています。
[ 受け入れ態勢は? ]
さらに受け入れ態勢はどうなるのか?
これも気になるところです。
というのも、外国人労働者は同時に、外国人生活者でもあります。
社会として、地域として、学校として、企業として、
どう受け入れ、共存していくのか?総合的な取り組みが必要です。
実は、政府は、今、関係省庁を集めてこの受け入れ態勢について
総合的な検討を進めています。
しかし、その取りまとめは来月になる見込みです。
外国人の受け入れは、労働力として、どれだけ必要か?という視点だけでは足りません。
社会や地域が、どれだけ受け入れ可能なのか?という視点も、
本来なら、セットで考えるべきです。
政府は早急に判断材料を示してほしいと思います。
[ 技能実習をなぜ残すのか? ]
ここまでは、改正法案が目指す将来の話しについて見てきたわけですが、
最後は、今、まさに日本が直面している課題、技能実習生をめぐる問題です。
きょうから質疑がはじまった本会議場には、
訴えるような目で審議の行方を見守る
アジアなどからきた実習生や支援者のひとたちの姿がありました。
技能実習というのは、今、すでに行われている制度ですが、
これが、実は、新たな制度と密接な関係があります。
どういうことか? こういうことです。
技能実習とは本来、海外への技術移転という国際貢献を目的として行われているものです。
しかし、実態は、農業や飲食業などの、
単純労働や低賃金労働の受け皿になっている面があります。
厚生労働省によりますと、
去年、この制度をめぐって指導・監督をした、およそ6000の事業所のうち、
実に、7割で法律違反がありました。
賃金不払いや、違法残業、それに暴力や虐待など、
様々な人権侵害があったことが明らかになっています。
また、毎年、多数の失踪者が出ていることでも問題になっています。
実は、今回の法案では、この技能実習の経験が3年以上あれば、
さきほど説明した、この特定技能1号に、試験なしで移れる仕組みになっています。
つまり、技能実習制度が、新たな制度の前段として位置づけられているわけです。
これについて、きょうの国会質疑でも
野党側から、新たな制度を作るなら、
本来は技能実習制度は廃止、または大幅に見直すべきだという質問が出ました。
これに対し、安倍総理大臣は、
「一部で法令違反などの問題があることは承知している。
制度の適正化や、実習生の保護をはかっていく」とこたえています。
技能実習をめぐっては
アメリカの国務省がその報告書の中で
「日本では強制労働が行われている」として
技能実習の問題を毎年のように指摘しています。
問題や課題があることが明らかになっている制度をあえて存続させるなら、
政府として、具体的に、どう制度を適正化し
そして、実習生をどうやって保護していくのか
今後は、もっと具体的な取り組みを示していくことが
必要になってくると思います。
日本の大きな転換点となる決断です。
しっかり考えていきたいと思います。
(竹田 忠 解説委員)
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