「辺野古移設工事再開 強まる沖縄の反発」(時論公論)
2018年11月05日 (月)
西川 龍一 解説委員
沖縄のアメリカ軍普天間基地の名護市辺野古への移設をめぐり、国は沖縄県の埋め立て承認の撤回の効力を一時的に停止する決定を行いました。埋め立て予定地の現場では中断していた工事が再開され、沖縄の反発は強まるばかりです。
▽移設工事中断・再開の経緯
▽沖縄はもとより、国会や専門家からも今回の国の手法には疑問が相次いでいます。何が問題視されているのか。
そして▽深まる国と沖縄県の対立に出口はあるのか。
以上3点をポイントにこの問題を考えます。
国が普天間基地の名護市辺野古への移設工事の再開に向けて手続きに入ったのは、移設反対を掲げて当選した沖縄県の玉城デニー知事の誕生から半月後のことでした。
移設工事は、亡くなった沖縄県の翁長雄志前知事の遺志を受け継ぎ、県が今年8月31日に行った埋め立て承認の撤回によって法的な根拠が失われ、中断していました。工事の再開を目指す防衛省は、10月17日、行政不服審査法に基づいて埋め立ての法律を所管する国土交通大臣に撤回の効力を一時的に停止する執行停止の申し立てと、撤回の取り消しを求める審査請求を行いました。
国土交通省は、それから2週間後の10月30日、県の埋め立て承認撤回の効力を一時的に停止することを決定。
その2日後の11月1日、沖縄防衛局は、現場の海域で立ち入り禁止区域を示すフロートの設置作業を始めるなど工事を再開しました。
政府が工事を急ぐのは、「世界一危険とも言われる普天間基地の危険性を一刻も早く取り除く」というのが理由です。岩屋防衛大臣は撤回の執行停止の申し立てを行った際、「最終的な目的は普天間の危険性の除去と全面返還。そこに向かって進みたい。」と強調しました。
それでも今回の国の一連の対応には、「県民の気持ちを逆なでするものだ」という憤りの声が沖縄だけでなく、国会の論戦の中でも聞かれるほか、法律の専門家からも手法を疑問視する意見があります。
背景にあるのが、選挙で示された沖縄の民意との乖離です。9月に行われた沖縄県知事選挙で、玉城知事の得票は39万票余り。政府与党が支援する候補に8万票の大差を付け、沖縄県知事選挙では過去最多の得票でした。全県選挙で、再度辺野古移設に反対する県民の意思が示された形です。さらに知事選後に行われた那覇市と豊見城市の市長選挙でも玉城知事を支持するグループが応援する候補が相次いで当選しました。こうした民意を背景に、玉城知事は先月総理官邸で実現した安倍総理大臣との会談で、問題の解決に向けて対話の継続を求めました。翁長前知事が安倍総理との面会を果たしたのは当選から4か月後でしたから、早期の面談が実現した形です。この際、安倍総理は、「米軍基地の多くが沖縄に集中している現状は、到底、是認できるものではない。今後とも県民の皆さまの気持ちに寄り添いながら、基地負担の軽減についてひとつひとつ着実に結果を出していきたい」と述べています。
沖縄の人たちにしてみれば、気持ちに寄りそうと言うのなら、選挙で示された民意をどう考えるのか。沖縄の基地負担の軽減と言いながら、県内での基地移設を強いるのでは、軽減とは言えないのではないかという疑問があります。1度だけの会談でこうした疑問への回答がないままの強硬措置に、県民の中からは「沖縄は日本として認められていないのではないか」との声も聞かれます。
一方、行政法の専門家からは、今回の防衛省が取った対抗措置は法の乱用だとの指摘が上がっています。先月26日には、行政法の研究者110人が賛同する声明が出されました。今回の防衛省の対抗措置は、行政不服審査法に基づいて行われました。この法律は、そもそも国や自治体の違法または不当な処分に関して国民が迅速な手続きのもとで不服申し立てを行うためのものとされています。声明では、国の機関が一般の国民と同じ立場で審査請求や執行停止申し立てを行うことが妥当なのかと批判しています。さらに、防衛省も国土交通省も同じ国の行政機関ですから、いわば身内が身内の申し立てを審査することになり、第三者性や中立性、公平性が担保されないとしています。
この問題については、開会中の国会でも質問が相次いでいます。政府は「国の機関であっても一般私人と同様の立場で審査請求をなしうると解釈できる」という説明を繰り返しています。安倍総理は「法律に基づき必要な法的手続きが行われたと認識している」と答弁しています。中立性・公平性が担保されないとの疑問には「いずれも当たらない」という答えです。
では、深まる国と沖縄県の対立に出口はあるのでしょうか。結論から言えば、このままでは県はもとより国にとっても厳しい状況です。
まず、沖縄県です。県は今後、国と自治体の争いを調整する第三者機関である国地方係争処理委員会に審査を申し立てる方針です。ただ、審査が続く間も国は工事を中断する必要はありません。最終的には今回、国交省が出した承認撤回の効力停止の決定を取り消すよう求める訴訟に踏み切ることも視野に準備を進めています。しかし、切り札とされる承認撤回を封じられることになれば、法的な対抗策は見当たらないのが実状です。
県がもう一つ見据えるのは、辺野古移設をめぐって埋め立ての賛否を問う県民投票の実施です。県民投票は県議会で条例が成立し、来年4月末までに実施されることが決まりました。ただ、工事を止めさせる法的拘束力はありません。また、埋め立てに反対する票が過半数となっても投票率が低ければ、真の民意と言えるのかとの批判が強まる可能性もあり、県にとっては両刃の剣との見方もあります。
一方、国側にもここに来て、想定外の事態が生じています。埋め立て予定地に大量の土砂を運ぶための港が使えるメドが立たないことがわかったのです。この港は、ことし9月の台風で一部が被害を受けて使えない状態で、県の指導を受けた地元の町は、防衛省が行った港の使用許可の申請書類の受け取りを拒否しています。土砂は海上から運ぶことが国と県の間で決められています。土砂が運べなければ本格的な埋め立て工事は出来ません。フロートの設置が終わり次第、11月中に本格的な埋め立てを始める方針の防衛省にとっては思わぬ障壁です。
移設工事再開の知らせを受けた玉城知事は、「極めて残念」としながらも「対話で解決策を導きたい」との姿勢を崩していません。玉城知事は、今週再び上京し、安倍総理や菅官房長官ら政権幹部との会談を希望しています。土砂投入のメドが立たない以上、国は闇雲に工事を急ぐ必要はないのではないでしょうか。まずは対話を重ねた上で糸口を見つけることは、国、県双方に課された責務ではないでしょうか。
10月行われたNHKの世論調査で、普天間基地の移設を進める政府の方針への賛否について聞いたところ、賛成と答えた人は23%だったのに対し、反対は32%、どちらとも言えないは36%でした。国内全体の世論を見ても「辺野古移設が唯一の解決策」と繰り返すばかりの政府の方針は、必ずしも理解されているとは言えないのが実状です。これまで犠牲を強いられ続けてきた沖縄の人たちに寄りそうとはどういうことなのか。在日アメリカ軍基地の問題は沖縄だけの問題ではないということを改めて国民全体で考える必要があります。
(西川 龍一 解説委員)
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