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「臨時国会開会 国会論戦の焦点」(時論公論)

権藤 敏範  解説委員

秋の臨時国会がきょう召集されました。安倍総理にとっては最後の任期3年の行方を占う重要な国会です。今国会には、深刻な人材不足を補うため、外国人の受け入れ政策を大きく変える法案が提出されますし、憲法改正をめぐる議論も焦点となります。
政府・与党が、この国会にどう臨むのか。野党はどう対じしていくのか。国会論戦の焦点について考えます。

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きょうから始まった臨時国会。安倍総理は、冒頭の所信表明演説で、「次の3年、国民と共に新しい国創りに挑戦する。挑戦者としての気迫は、いささかも変わらない」と、今後の政権運営にかける思いを述べました。
そして、「今こそ、戦後日本外交の総決算を行う」と強調したように、あす(25日)から3日間、中国を訪問して、習近平国家主席らと会談することにしています。
総理が、所信表明のあと、すぐに外国を訪問するのは異例のことです。長期政権での経験を生かせる外交で、まずはアピールしたいという思いがあるのでしょう。
ただ、野党幹部が、「外交は、総理の一番の売りだが、最近は、相手に押し込まれているのではないか」と指摘するように、手詰まり感も漂います。
アメリカとの二国間交渉をめぐっては、自動車の関税引き上げを当面、回避することなどで合意しましたが、今後、トランプ政権が、厳しい要求をつきつけてこないとも限りません。
北朝鮮情勢でも、安部総理は、拉致問題などの解決に向け、キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長と直接、会談することに意欲を示していますが、その道筋が見えているとは言えません。

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安倍総理は、来月(11月)には、ASEAN関連の首脳会議やG20サミットなどに立て続けに出席しますが、こうした課題を解決する手腕はもちろん、3期目の集大成につながる目に見える成果も問われることになります。

では、その足元の国会は、どうでしょうか。
会期は、12月10日までの48日間。
政府・与党は、▼一連の災害からの復旧・復興に向けた今年度の補正予算案の早期成立を目指していますが、▼立憲民主党など野党側は、先に安倍総理が表明した、来年10月の消費税率10%への引き上げに反対の意向を示しており、軽減税率などの対策のあり方も含めて大きな議論になりそうです。
また、▼外国人材の受け入れを拡大するために、新たな在留資格を設ける出入国管理法の改正案や、▼憲法改正をめぐる議論の行方も注目されます。

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中でも、最大の焦点は、出入国管理法の改正案の取り扱いです。
現在、就労目的での在留を認められているのは、医師や研究者など高度な専門性をもった人たちだけ。建設や介護などの分野で働いているのは、就労目的以外で日本に来た留学生によるアルバイトや、働きながら技能を学ぶことになっている技能実習生などです。
この改正案は、人手不足が深刻な分野に限定して、高度な専門性がなくても就労を認める新たな在留資格を設けるもので、さらに、高い技能を持つと認められた外国人には、永住の道もひらけます。

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政府は、来年4月から制度をスタートさせるため、速やかに法案を成立させたい考えですが、受け入れる仕事の分野が決まっていないほか、技能の具体的な水準やそれを測る手法なども定まっていません。
では、なぜ、政府は、法整備を急ぐのでしょうか。
背景には、深刻な人手不足に悩む業界からの強い要望がありますし、政府としても、この状況を改善しないと、内閣支持率の源泉となっている好調な経済にも影響しかねないという危機感があるのでしょう。
ただ、野党側は、「移民政策への大きな転換になりかねない話を拙速に進めるのは問題だ」と批判していますし、与党内からも、「受け入れる仕事の分野が決まっていないのに議論はできない」と慎重な意見が出ています。
これは、外国人材の受け入れ政策の大転換となるでしょうから、将来の課題まで見据えた議論を積み上げていく必要があると思います。

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また、憲法改正をめぐる議論の行方も焦点です。
最後の任期となる安倍総理にとって、憲法9条の改正は、自身のレガシーとしても、ぜひとも実現したいところでしょう。この国会で、自民党の「自衛隊の明記」など4項目の条文案を、衆参の憲法審査会に提示することに意欲を示しているのも、その表れだと思います。このため、党の憲法改正推進本部などの体制を一新し、自身に近い議員で固め、下村本部長らが、提示に向けて調整を進めています。
ただ、これには、野党側が反発していますし、与党の公明党も慎重な姿勢を崩していません。背景には、自民党の条文案が憲法審査会に提示されれば、一気に改憲論議が進められてしまうという警戒感があるのでしょう。
また、憲法審査会には、憲法改正の是非を問う国民投票法の改正案が、継続審議となって残っていますので、まずは、この改正案を成立させる必要があります。
さらに、憲法改正をめぐっては、自民党内にも慎重論が少なくありません。参議院選挙を控える議員は、「強引に進めれば、選挙に影響が出る」と懸念を隠しませんし、ベテラン議員にいたっては、「失敗すれば政権が行き詰る」と苦言を呈します。
改正論議で、国会の責任がきわめて重いのは言うまでもありません。国民が納得できるような、丁寧な議論が欠かせないと思います。

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一方、野党側は、この国会にどう臨むのでしょうか。
野党側は、財務省による決済文書の改ざんを踏まえ、留任した麻生副総理兼財務大臣の政治責任や、森友学園や加計学園の問題を、引き続き、追及することにしています。
また、新内閣を、「自民党総裁選挙の論功行賞で、派閥の入閣待機組を集めた、『在庫一掃内閣』だ」と揶揄していて、すでに、柴山文部科学大臣の教育勅語をめぐる発言や、週刊誌が報じた、片山地方創生担当大臣の国税当局への口利き疑惑などが取りざたされています。このため野党側は、こうした問題点を指摘し、説明責任を果たすよう求めるなど、初入閣した12人の閣僚の資質をただしていく方針です。
ただ、先の通常国会では、立憲民主党と国民民主党の対応が割れてギクシャクするなど、国会戦術で対立する場面も見られただけに、結束できるのかが課題になります。
「野党が弱いと民主主義が育たない」という指摘もあることから、国民の共感を得られるような議論を展開し、野党としての存在感を示せるのかが問われることになります。

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さて、来年は、4月に統一地方選挙、夏に参議院選挙が行われる、12年に1度の年です。
この国会でも選挙をにらんだ与野党の駆け引きが活発になることは確実です。
ただ、先月(9月)の沖縄県知事選挙や今週(21日)の那覇市長選挙で敗れた与党側の幹部からは、「来年の参議院選挙も厳しい」という声が早くも聞こえてきます。

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選挙に勝つ事で求心力を保ってきた安倍総理としては、残りの任期でも自身の政策を進めていく上で、負けられない戦いです。
対する野党側も、参議院選挙の1人区で、候補者を一本化できるかなどが、今後の政治決戦への試金石となります。

来年11月には、戦前の桂太郎を抜いて、憲政史上、最長の在任期間となる、安倍総理は、きょうの演説で、「長さゆえの慢心はないか。そうした国民の懸念にもしっかりと向き合っていく」と強調しました。
「安倍1強」と言われる政治状況に対し、国民の間に懸念する声もある中、充実した議論はもちろん、政治に緊張感を取り戻すことが、与野党双方にも問われることになります。

(権藤 敏範 解説委員)


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