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「オスプレイ配備と地元の不安」(時論公論)

増田 剛  解説委員

アメリカ軍の輸送機オスプレイが、今週から東京の横田基地に正式に配備されました。ただ、事故やトラブルが相次ぐオスプレイの配備に対しては、安全性への懸念が払拭されていないと、地元から不安の声があがっています。一方、佐賀空港への自衛隊のオスプレイ配備計画をめぐっては、8月下旬、佐賀県知事が受け入れを表明しましたが、地元では、反対意見が根強く、計画は遅れを余儀なくされています。各地で進むオスプレイの配備計画とその狙い、そして地元の不安について考えます。

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アメリカ空軍の輸送機CV22オスプレイ5機が、今月1日、東京の在日アメリカ軍横田基地に正式に配備されました。国内では、沖縄県以外への配備は、これが初めてとなります。
アメリカ軍は、当初、2019年10月以降に配備を開始するとしていましたが、今年の4月3日、突然、予定の前倒しを発表しました。その2日後、5機のオスプレイが横田基地に飛来、一旦離れたものの、6月下旬以降は、横田基地に留まり、正式な配備を待たず、すでに首都圏の上空で飛行を始めていることが確認されていました。
アメリカ軍は今後、段階的に5機を追加配備し、2024年頃までに、あわせて10機の体制にする計画です。
一方、基地周辺の6つの市と町で作る協議会は、声明を発表。在日アメリカ軍と日本政府に対し、安全対策を徹底するとともに、騒音など基地周辺の生活環境への影響を最小限に留めることや、運用に関する地元自治体からの要請に真摯に対応するよう要請しました。
また、基地に隣接する福生市内では、おととい、抗議集会が開かれ、180人が参加。オスプレイは、各地で墜落や緊急着陸を繰り返す「欠陥機」で、周辺を飛行することは、住民を危険にさらすものだと訴え、配備の撤回を求めました。

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では、配備にあたって、これだけの波紋を呼ぶオスプレイとは、どのような飛行機なのでしょうか。

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まず、オスプレイというのは愛称で、これは、急降下して魚を獲る、ミサゴという鳥の英語名です。

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正式名称はV22。アメリカ軍の新型輸送機で、ヘリコプターと固定翼の飛行機の特徴をあわせ持っています。航続距離やスピードも従来の輸送機より大幅に向上しており、ヘリのように垂直に離着陸できる能力を持ちながら、高速での長距離の移動も可能になりました。
その一方で、この複雑な構造ゆえに、高度な操縦技術が必要とされ、事故やトラブルも目立ちます。

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開発段階では、墜落事故が相次ぎ、おととし12月には、沖縄の普天間基地に配備されていた機体が、名護市の浅瀬で大破。去年8月にも、普天間基地所属の機体が、オーストラリア東部の沖合で墜落し、3人が死亡しました。今年6月には、横田基地に配備される機体が、鹿児島県の奄美空港に緊急着陸するトラブルも起きています。
アメリカ軍も、日本の防衛省も、オスプレイが、他の機種に比べて事故が多いわけではないとしていますが、防衛省によりますと、10万飛行時間あたりの重大事故の件数を表す事故率は、去年9月末の時点で、オスプレイの海兵隊仕様であるMV22が3.24となっています。海兵隊全体の平均値は2.72ですので、事実として、MV22の事故率は、平均より高くなっています。
では、なぜ、このオスプレイを横田基地に配備するのでしょうか。
横田基地に配備されたのは、オスプレイの空軍仕様であるCV22という機種で、特殊作戦部隊の輸送を主な任務としています。
特殊作戦とは、高度な訓練を受けた部隊が敵の勢力下に潜入し、空爆の誘導をしたり、敵のかく乱工作を行ったり、要人を襲撃したりする作戦をいいます。このため、CV22は、暗闇の中でも地形を詳しく把握できる暗視装置を装備し、地形に沿って低く飛ぶ能力も強化されています。防衛省は「CV22の横田基地への配備は、日本や周辺の有事の際に、アメリカ軍の特殊作戦部隊の迅速な展開を可能にし、抑止力の向上につながる」と強調しています。

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ただ、首都圏にある横田基地を拠点とする以上、人口密集地を飛行することは避けられません。また、CV22の特性をふまえれば、夜間や低空の飛行が頻繁に行われるのではないかという懸念があるのは当然でしょう。運用にあたっては、徹底した安全対策はもちろん、騒音対策など住民生活への配慮が強く求められます。
一方、佐賀空港への配備計画はどうでしょうか。
防衛省は、今年度以降4年間にオスプレイ17機を順次導入し、佐賀空港に配備する計画です。背景には、中国が東シナ海への進出を強めている現状があります。中国の動きをにらみ、政府は、南西諸島防衛を強化する必要があると考えていて、今年3月、長崎県佐世保市に、水陸機動団という新しい部隊を発足させました。水陸機動団は、敵の離島への侵攻に対し、速やかに上陸・奪回するための水陸両用作戦能力を備えた部隊です。
陸上自衛隊は、この水陸機動団の隊員や物資を離島などに輸送するため、航続距離が長く、ヘリのような機動性も備えたオスプレイを活用したい考えで、オスプレイを水陸機動団の拠点からできるだけ近くに置いておきたい、そのためには、佐賀空港の立地が最も適当だと考えているのです。

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ただ地元では、配備予定地となっている空港西側の土地を所有する漁業者を中心に、反対意見が根強くあります。予定地の造成によって、海の環境が変わり、漁業、特に、有明海名産のノリの育成に影響が出るのではないかと心配しているんです。

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こうした中、8月24日、佐賀県の山口知事は、「国防政策には、協力する立場だ」として、配備を受け入れる考えを表明しました。この直前、山口知事は、小野寺防衛大臣(当時)と会談し、▽国が佐賀空港を管理する県に、着陸料として20年間で100億円を支払うこと、▽それをもとに、県が、有明海の漁業の振興のための基金を作ることで合意しており、突然の受け入れ表明は、この合意を受けたものでした。

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これを受けて防衛省は、配備予定地の地権者と交渉に入りたい考えでしたが、漁業者の慎重姿勢は変わらず、今も用地の取得は進んでいません。また、県が空港の開港時に漁協と結んだ公害防止協定の関連文書には、「自衛隊との共用は考えていない」と明記されているため、この改定も必要になります。

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オスプレイは、安全なのか。漁業への影響はないのか。そもそも佐賀でなくてはならないのか。政府が、不安や懸念を強める地元を説得するためには、オスプレイ配備の緊急性・必要性に加え、安全性や環境への影響などについて十分に説明を尽くし、疑問に答え、地権者の理解を得ていく努力が欠かせません。

現在、沖縄の普天間基地に配備されているオスプレイは24機で、計画通り、横田基地に10機、佐賀空港に17機が配備されれば、2024年頃までに、国内のオスプレイは、日米あわせて51機になる見通しです。その一方で、日本以外にオスプレイの導入を決めている国はなく、アメリカでも、陸軍は導入を見送りました。
こうした中で、今回の横田基地への配備を機に、これまで沖縄県民を中心にくすぶっていた安全性への懸念が全国に広がるのは確実です。日米両政府には、安全対策への一層の取り組みと、地元へのきめ細かい情報提供が強く求められます。

(増田 剛 解説委員)


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