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「"習1強"時代 進むか構造改革」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

中国共産党の重要方針を話し合う5年に一度の党大会が18日から始まりました。党の総書記を兼ねる習近平国家主席は、この機会を通じて、権力の一段の強化をはかろうとしていると言われます。
いわば習1強時代ともいわれる中で、中国の経済発展のカギを握る構造改革はどれだけ進むのか。
きょうはこの問題について、北京からお伝えします。

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党大会初日の政治報告で、習主席は、「この5年間に、経済の安定した成長や、汚職の摘発など、幅広い分野で成果をあげた」と、これまでの実績を強調しました。その上で2020年以降の30年間の中国の青写真を示し、このうち前半の15年間では、発展から取り残された地域や貧困層にも成長の恩恵がゆきわたるようにすることを目標に掲げ、後半の15年間に一段と強力な国家を築くとしています。そのために、まず、付加価値の低い重厚長大型の産業から、IT産業など次世代型の産業に人材や資金を振り向けてゆく考えを明らかにしました。
習総書記は、去年秋の共産党の重要会議で、「党の核心」と位置づけられました。
中国の最高指導者が「核心」と呼ばれたのは、建国の父毛沢東氏、改革解放を進めた鄧小平氏、それに江沢民氏の3人だけで、すでに現在の指導部で一段抜きん出た存在となっています。そして今回の一連の党の会議を通じて、党指導部に、自らの息のかかった人材を新たに加え、権力基盤を一段と強化する見通しです。

問題は、その強大な権力をつかって、どこまで改革を進めることができるかです。それを考えるうえで、まずはこの5年間の経済政策を検証します。

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習近平氏が総書記に就いた5年前、中国では、経済成長に伴って労働者の賃金が上昇。それまで低賃金を売り物に世界の工場として輸出を拡大し、二桁成長を続けてきたモデルの転換をせまられていました。それと同時に、大気汚染などの環境の悪化や貧富の格差といった高成長のひずみが大きな社会問題となっていました。

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こうした中で習指導部は、経済成長のスピードを、それまでの高速から中高速に切り替える方針を打ち出しました。同時に、経済のエンジンを、重厚長大型の産業から、IT産業など次世代型の産業に切り替え、新たな成長を呼び込もうとしたのです。こうした新しい経済発展の在り方は、「新常態」と呼ばれるようになりました。
改革のターゲットとなった重厚長大産業は、リーマンショックの後に、景気対策として大規模な投資が行われた結果、余剰な生産能力を抱えることになりました。

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鉄鋼やセメント、石炭といった産業です。こうした企業の多くは、非効率的な経営を続けて赤字を出しながらも、政府の庇護を受けて生き残る=ゾンビ企業と呼ばれています。習主席の目標は、こうした企業を淘汰して経済の効率をあげることでした。実際にその後、質の悪い製品をつくる小規模な鉄鋼メーカーの淘汰はかなり進んだと言われます。
ただ本格的な改革の前には、二つの大きな障害がたちはだかっています。

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一つ目は景気に与える影響です。
中国政府は2014年から、構造改革の動きを本格化させ、具体策として、非効率な企業の延命につながる公共投資を抑えました。
これは中国の公共投資と不動産の投資額の伸び率の推移です。

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2014年初頭には10%台後半だった伸び率は、15年の後半にかけて急激に縮小します。さらに中国政府は銀行を介さないシャドーバンキングと呼ばれる金融取引で不動産業者にお金を貸す動きを引き締めました。この結果企業の淘汰が進み、失業者が大量に出て景気が悪化しました。すると中国政府は、社会の混乱を招くことをおそれ、逆に投資を増やしました。

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しかし投資を増やせばゾンビ企業の延命につながってしまいます。これを見た習主席は、「これでは改革が先送りになる」と不快感を示したと伝えられています。投資は、再び抑えられることになりますが、その後も増えたり減ったりしていきます。改革というブレーキをかけ、景気が冷えすぎると投資というアクセルを踏むというジグザグ走行を繰り返してきたのです。

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改革を進める上で、慎重なさじ加減が求められるという現実を映し出すもので、習近平指導部の二期目も、改革と同時に景気への配慮が求められることになるでしょう。
構造改革を進める上で、もうひとつの障害は、ゾンビ企業の多くを占める国有企業の背後にいる共産党幹部の存在です。実は国有企業をめぐって、4年前、画期的な方針が打ち出されていました。

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舞台は、共産党の最高指導機関のひとつ「中央委員会」が開く「三中全会」と呼ばれる重要会議。この中で「政府と市場の関係を正しいものにする。資源の配分をする際には、市場に決定的な役割をになわせる」というコミュニケが採択されました。
それまでの国家主導型から、
「民間の資本を活用し市場の規律を重視した経済構造」への転換をはかる方針が示されたのです。背景には、国有企業が優遇されるあまり、活力のある民間企業の成長が進まないという問題意識がありました。
しかしこの改革には国有企業に強いつながりをもつ共産党幹部の根強い抵抗があります。こうした企業は、過去10年近くにわたって巨額の景気対策がもたらす恩恵で甘い汁を吸い続けてきました。その企業が淘汰されてしまえば、自らの既得権益を失うことになるわけです。改革の成否は、こうした抵抗勢力をどう押さえ込むかにかかっているのです。

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その際、どの企業を淘汰するか。そこには政治的な思惑がからむことも多いと言われます。その意味で国有企業改革は政治闘争の様相を帯びているともいえます。このため、腐敗退治を通じて共産党内ににらみをきかせることが、改革を進める上でも有効な手立てとなっているようです。
そうしたなかで、気になることがあります。

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先月中国政府の幹部が、「党の指導は国有企業の根っこであり魂だ」と発言し、国有企業の経営判断に党が深く関わることを求めました。当初の方針とは逆行しているようにも見受けられ、改革をどこまで進めようとしているのか、疑問視する声もあがっています。

また国有企業をめぐっては日本やアメリカなどから別の懸念の声が上がっています。
各国は、中国の国有企業が国からの事実上の補助金を受け、不当に安い価格で製品を海外に輸出していると批判を強めてきました。その急先鋒に立つのがアメリカのトランプ大統領です。中国からの鉄鋼製品の輸入が、アメリカの労働者の雇用を奪っているとして、制裁措置をちらつかせています。いまや世界第二の経済大国となった中国には、こうした批判の声にも耳を傾ける必要があるのではないでしょうか。

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中国の改革が成功し、持続的な成長を実現できれば、それは世界経済の安定にもつながることになります。その改革がグローバルスタンダードにそったものになるのか、あるいは中国流を貫いた特異なものとなるのか。
強大な力をにぎる習近平国家主席の今後の舵取りに、世界の目が注がれています。

(神子田 章博 解説委員)

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