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「働き方改革 長時間労働どう是正」(時論公論)

竹田 忠  解説委員

< リード >
衆議院選挙の争点を掘り下げるシリーズ。
今回は働き方改革です。
もし、臨時国会が、冒頭解散されていなかったら、
今頃国会で、最大の論戦になっていただろう、と見られるのが働き方改革です。
それもそのはずです。
政府は、働き方改革の中でも、最大の柱である、長時間労働是正と、
そのための労働時間規制をめぐって、
議論の経緯も、そして内容も、趣旨が大きく異なる法案を、
一本化して、提出しようとしているためです。

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< 何が問われているのか >
どういうことかといいますと、
そもそも、政府が、働き方改革として打ち出した柱は二つです。
長時間労働是正と
正規・非正規の格差是正のための同一労働・同一賃金。この二つです。

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このうち長時間労働是正では、
事実上、青天井だった残業時間に、初めて明確な上限を決めるという、
大きな決定に漕ぎ着けました。
これは労働側がかねてから求めていたものですが、
経営側の反発が強く、実現できなかったものです。
それがなぜ、今回はできたのか?
政府と連合と経団連。政・労・使のトップが直接参加する会議を作り、
そこで、合意できたためです。
こうしてトップが合意した以上、その後の法案作成も、国会審議も、
きっと順調に進むだろう、そう思われていました。

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ところが、その流れが、突然、かわります。
それは、政府が、すでに国会に提出済みだった全く別の法案、
いわゆる高度プロフェッショナル制度を導入する法案を
この働き方改革法案と一本化する、という方針を打ち出したためです。

この法案は、連合が、残業代ゼロ法案として強く批判してきたもので
野党などの強い反発で、国会に提出以来、
2年以上、一度も審議ができていない、
いわゆる“たなざらし”状態となっていた法案です。
それを一本化することになったことで、
働き方改革をめぐる政治的な環境は
協調路線から、一転して、対決モードへと切り替わりました。
そこに、今度は国会が冒頭解散。
法案の一本化に強く反対していた野党第一党の民進党は分裂。
法案をめぐる環境は、混沌としてきました。

しかし、長時間労働の是正は、待ったなしの課題です。
毎年、200人前後の人が、
過労死や、過労自殺として認定されるという、深刻な事態が続いています。
働き方改革の議論が、加速するきっかけとなった、
電通の新入社員が過労自殺した違法残業事件。
先日、裁判で、電通に対し、有罪判決が言い渡されました。

さらに、NHKでも4年前、女性記者が過労死していた事実を、
今月4日、NHKが公表しました。
当時31歳。心不全で亡くなったのは
長時間労働による過労死と認定されました。
社員の命を守るのは、まず企業の責任であることは言うまでもありません。
しかし、その裏づけとなる法制度の整備も急がねばなりません。

< 各党の主張は? >
では、どうやって、働き方改革を前進させるのか?
各党の主張を見てみます。

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▽自民党は、
 長時間労働の是正と同一労働・同一賃金を実現するとしています。
▽公明党は、
 時間外労働に罰則付きの上限規制を導入する、としています。
▽希望の党は、
 長時間労働を規制し、柔軟な働き方を社会全体で支える、としています。
▽共産党は、
 残業代ゼロ法案に反対し、勤務間インターバルを導入する、と表明しています。

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▽立憲民主党は、
 長時間労働の規制、同一価値労働・同一賃金を実現する、としています。
▽日本維新の会は、
 労働時間ではなく、仕事の成果で評価する賃金制度にする、としています。
▽社民党は、
 「残業代ゼロ」に断固反対し、長時間労働を規制する、としています。
▽日本のこころは、
 労働時間の短縮と、同一労働・同一賃金を徹底する、としています。

このように、ほとんどの政党が、働き方改革の柱である、
長時間労働の是正と、同一労働・同一賃金の実現を訴えていて、
この点について、違いはほとんどありません。

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その一方、気がかりなのが、
高度プロフェッショナル制度についての対応です。
明確に反対を表明している政党が野党の中にある一方で、
明確に支持をしている政党が、実は一つもありません。
一部、似たような表現をしている政党はありますが、
明確な支持ではありません。
また、働き方改革を、政府と共に推進する立場である与党までが、
高度プロフェッショナル制度について、公約では全く言及していません。

< 論戦の焦点 >
働き方改革法案は、すでに法案要綱が作成され、
後は閣議決定を待つだけとなっています。
長時間労働をなくすためには、何が今後の論戦の焦点となるのか?
整理しておきます。

最初にも述べましたように、
働き方改革法案は、
長時間労働是正のための労働時間規制、という観点で見た場合、
規制の“強化”と、規制の“緩和”という、
二つの異なる顔を持っています。

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まず、規制“強化”の顔です。
残業時間について、罰則付きで明確な上限を設けたこと。
これは日本の労働法史上、初めて行われる、画期的な規制です。

ただ、問題はその水準です。
法案では一月の残業の上限が、最大で月100時間未満、となっています。
残業月100時間は、過労死の認定基準とされていて、
いわゆる過労死ラインと呼ばれています。
過労死ライン寸前まで働くことを、法律が許していいのか、そこが論点です。

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次は、規制の緩和の部分です。
これには二つあって、
一つが、高度プロフェッショナル制度です。
法律が定める労働時間規制から完全にはずす、という制度です。
労働時間の規制がなくなりますので、
時間外労働、つまり残業という概念そのものがなくなります。
いくら働いても残業代ゼロ、と批判されるのは、このためです。

金融ディーラーや研究開発など、高度の専門職で、
年収がおよそ1000万円以上の人が対象です。
時間に縛られない、自由な働き方が可能になる反面、
一定の結果が出るまで、えんえんと働くことになるおそれもあります。
どうやって歯止めを設けるのか?
法案はこの制度の対象者に、
年間104日の休日を義務づけることにしていますが、
健康確保策として、それで十分なのか、そこが焦点です。

そして、もう一つの規制緩和が、裁量労働制の拡大です。
裁量労働は、労働時間の規制は受けますが、
ある程度、自分の都合で時間を管理できる制度です。
実際に働いた時間ではなく、
あらかじめ決められた、みなし時間をもとに、賃金が支給されます。
現在は、一部の専門職や、企画・立案をしている人に適用されていますが、
これを法人への営業職にも広げます。

といっても、単純にモノを売る営業ではなく、
顧客の企業と一緒になって、
事業のあり方を考え、提案するような、
特定の場合に限って認める、としています。
しかし、裁量労働制をめぐっては
いわゆるブラック企業などが、
残業代を抑えるために悪用している事例が数多く報告されています。

裁量労働を拡大するなら、
こうしたことに対し、行政がどこまでチェックできるのか、
悪用の防止策も課題となってきます。

働く人の命と健康を守るために、
どのような規制や改正が本当に必要なのか?

各党は、ぜひ、論戦をたたかわせてほしいと思います。

(竹田 忠 解説委員)

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