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「衆院選 緊迫する北朝鮮情勢と安全保障論議」(時論公論)

増田 剛  解説委員

ニュース解説「時論公論」です。
衆院選の争点を掘り下げるシリーズ。
テーマは「外交・安全保障」、特に、北朝鮮情勢への対応と安全保障関連法、そして、憲法9条の改正論議について考えます。

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核実験を強行し、日本の上空を通過するミサイルを立て続けに発射した北朝鮮。朝鮮半島情勢は緊迫の度合いを強めています。
こうした中で行われる今回の衆院選は、安全保障政策が重要な争点として浮上しています。NHKの最新の世論調査でも、投票先を選ぶ際に最も重視する政策課題として、「外交・安全保障」が15%と、「社会保障」「経済政策」に次いで、3番目につけました。これは、従来の選挙ではなかった異例の傾向で、各党は、有権者の関心がかつてないほど高まっているこの機会に、日本の外交と防衛のあり方について、真剣な議論を行う必要があると考えます。

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まず、北朝鮮の脅威にどのように対応するのか、各党の考え方をみていきましょう。
自民党は、「国際社会による圧力強化を主導し、すべての核・ミサイル計画を放棄させることを目指すとともに、拉致問題解決に全力を尽くす」としています。
公明党は、「北朝鮮の挑発は、国際社会の差し迫った脅威だ」として、「制裁の実効性を高め、『対話と圧力』の原則で、核・ミサイル・拉致などの包括的解決に取り組む」としています。
希望の党は、「国際社会と緊密に連携し、制裁の厳格な実施を働きかける。制裁・圧力は、対話を導くための手段で、拉致被害者の帰国にも全力で取り組む」としています。

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共産党は、「経済制裁の強化と一体で、『対話による平和解決』に力を尽くす」としています。
立憲民主党は、「北朝鮮を対話のテーブルにつかせるため、圧力を強める。平和的解決に向け、外交力で取り組む」としています。
日本維新の会は、「国際社会と連携して断固たる措置を実施する」としています。
社民党は、「粘り強い外交努力で平和的解決を目指す」とし、日本のこころは、防衛力のいっそうの強化を主張しています。

このようにみていきますと、北朝鮮に厳しい態度で臨むことについては、各党とも、大きな意見の違いはみられません。「圧力」に重点を置く表現の党がある一方で、「対話」に重点を置く党もあり、温度差があるのは確かですが、対話と圧力のどちらに重きを置くにせよ、片方を否定する党はありませんし、そもそも、対話と圧力は、相互に補完するもので、二者択一ではありません。

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先月、国連安保理は、北朝鮮に対し、石油の供給制限を含む厳しい制裁決議を採択しました。安倍総理は、「いま必要なのは、対話ではなく圧力だ」として、国際社会に制裁の厳格な履行を呼びかけています。ただ、当面は、圧力を優先するにしても、圧力路線をテコに、今後、どのような外交政策を展開して、核・ミサイルの放棄に向けた北朝鮮の譲歩を促していくのか。
また、アメリカのトランプ大統領は、「すべての選択肢がテーブルの上にある」として、軍事力の行使も辞さない姿勢を示しています。
ただ、こうした圧力強化には、緊張をより高める副作用があります。米朝間の応酬がエスカレートする中で、両国が互いの意図を見誤り、思わぬ形で武力衝突が起きる懸念も拭えません。圧力強化の過程で発生し得る偶発的な軍事衝突をいかにして避けるのか。
与野党には、こうした論点で、議論を深めていくことに期待したいと思います。

次に、集団的自衛権の行使を限定的に容認する、安全保障関連法に対する各党の評価をみていきます。北朝鮮の脅威から、日本を防衛するための法整備として、この法律が有効なのか、また、憲法上、適切なのか。この点では、各党の意見が分かれています。

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自民党・公明党・日本のこころは、北朝鮮の脅威が高まる中で「日本を守るのは、自衛隊と日米同盟の力だ。安保法制は、日米の絆を強くする」「安保法制がなければ、国民の命とくらしを守ることはできない」として、その意義を強調しています。

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日本維新の会は、安保法制を認めた上で「自国防衛を徹底する形で、集団的自衛権行使の要件を厳格化する」としています。
一方、希望の党は、「安保法制を巡る与野党の不毛な対立から脱却し、厳しい安全保障環境に党派を超えて対応する。現行の安保法制は、憲法に則り、適切に運用する」としました。
安保法制を認めながらも、かつてこの法律を憲法違反だとして反対した民進党出身の前議員が、多数、参加していることに配慮し、「憲法に則り、適切に運用する」ことを条件としています。

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これに対し、共産党、立憲民主党、社民党は、安保法制は憲法違反だとして、廃止を求める立場です。
このうち、立憲民主党は、北朝鮮の脅威には個別的自衛権で対応できるとして、「領域警備法の制定と憲法の枠内での周辺事態法の強化で、現実的な安全保障政策を推進する」としています。
2年前、国論が二分される中で、成立した安全保障関連法。
この2年間に、自衛隊の護衛艦がアメリカ軍の補給艦を守る、「平時の米艦防護」や、自衛隊の補給艦がアメリカ軍のイージス艦に給油を行う「平時の物資提供」など、安保法制に基づく新たな任務が、政府の公式発表がない中で、次々と実施されてきました。
今回の選挙では、こうした具体的な運用のあり方も含めて、安保法制の評価を問い直す動きが出ています。

最後に、安全保障政策に密接に関連する自衛隊の位置づけ、特に憲法9条改正の是非について、各党の主張をみていきます。

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自民党は、「初めての憲法改正を目指す」として、具体的な改正項目に「自衛隊の明記」をあげています。ただ、同じ与党でも、公明党は、「多くの国民は、自衛隊の活動を支持し、憲法違反とは考えていない」として、慎重な姿勢を示しています。
野党では、希望の党が、「自衛隊を憲法に位置づけることについては、国民の理解が得られるかどうかを見極めた上で判断する」としています。日本維新の会は、「国際情勢の変化に対応し、国民の生命・財産を守る9条改正」を公約に盛り込むなど、積極的な姿勢です。
一方、共産党は、「海外での武力行使を可能にする9条改悪は許されない」とし、立憲民主党も、「違憲の安保法制を前提とした9条の改悪に反対する」としています。社民党も、「憲法を変えさせない」と反対の立場です。
日本のこころは、自主憲法の制定を主張しています。
憲法9条について、安倍総理は、戦争の放棄を定めた1項と、戦力の不保持を定めた2項をそのまま残した上で、自衛隊の存在を規定する条文を追加するという考えを打ち出しています。
そして、この提案は、国会の議論を活発化するために、一石を投じたものだと説明しています。
国の根幹である憲法の改正には、国民の幅広い合意が必要です。
各党は、議論が生煮えの段階で拙速に結論を出すのではなく、むしろ、今回の選挙を、国民的な議論を喚起するための第一歩として位置づけてほしいと思います。
ここまで、安全保障や憲法改正といったテーマについて、各党の主張をみてきました。こうした問題は、従来、多くの国民にとって、身近に感じられないテーマだとされてきましたが、北朝鮮情勢に注目が集まる中、今や、最も重視される政策課題に浮上しています。
だからこそ、各党は、いたずらに国民の不安をあおるのではなく、地に足のついた、現実的な論戦を行うことが求められますし、私たちも、冷静に各党の主張を見極め、将来の国のかたちを見据えた賢明な選択を行う「眼」を養うことが大切だと思います。

(増田 剛 解説委員)

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