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「衆院選・子育て支援・社会保障改革を問う」(時論公論)

藤野 優子  解説委員

私たちの暮らしと老後の生活は一体どうなっていくのか。

今回の衆議院選挙でも、社会保障政策が有権者の最も関心の高いテーマとなっています。

しかし、今回も各党の公約には、子育て支援などの充実策ばかりが目立ち、これからの厳しい超少子高齢化の時代を見据えた負担増のあり方や社会保障改革の将来像については議論が深まらず、私たちの将来不安に応える内容になっているとは思えません。

各党が重要政策に掲げている子育て支援策などの論点と、今、議論すべき社会保障の課題は何かを考えます。

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では、各党はどんな子育て支援策を掲げているのか。大きくわけると、限られた財源の中で所得制限を一部入れている与党と、できるだけ広く子どもを支援しようという立場の野党と考え方の違いが見られます。
自民党は、これまでの高齢者中心の社会保障から「全世代型の社会保障」に転換し、2020年度までに、3歳から5歳までの全ての子どもを対象に幼稚園や保育園の費用を無償化する、低所得家庭の子どもに限って、高等教育の無償化をはかるとしています。
公明党は、2019年までに、0歳から5歳のすべての子どもを対象に、幼稚園、保育園の費用を無償化し、年収590万円未満の世帯を対象に、私立高校の授業料の実質無償化を目指すとしています。

日本のこころは、子育て世代を支援し、安心して子どもを産み育てられる環境の整備を目指すとしています。

希望の党は、幼稚園、保育園の無料化、大学の給付型奨学金を大幅拡充するとしています。
共産党は、義務教育期間中の制服や教材などの教育費の負担解消。幼児教育・保育、高校授業料の無償化などを掲げています。 
立憲民主党は、中学生までの子どもに支給されている児童手当と高校授業料の無償化、この所得制限を廃止するなどとしています。

日本維新の会は、全ての教育の無償化を憲法に盛り込み、幼児教育・保育・高等教育を無償化するとしています。
社民党は、高校の授業料を直ちに無償化し、保育園や幼稚園の費用も負担軽減しつつ無償化を目指すとしています。

急速な現役世代の減少と少子化に一刻も早く手を打たなければ、今後、社会保障や経済活動は維持できなくなる。そうした危機感が広がり、子育て支援の拡充のための議論がようやく始まったことは一定の前進といえるかもしれません。

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しかし、実現のための財源はどうするのか。
政府の推計では、3歳から5歳までの子どもたちの幼児教育、保育の無償化だけでも、7000億円を超える財源が必要です。これに0歳から2歳の子どもたちも対象に含めるとあわせて1兆2000億円。高校の授業料無償化や大学の奨学金の拡充まで含めると、さらに財源が必要です。

自民党と公明党は、2019年10月に予定どおり消費税率を10%に引き上げ、借金の返済に充てる予定だった増収分の財源の一部を子育て支援に使うとしています。しかし、これではまた財政健全化が遅れ、将来世代へ負担を先送りするのと同じではないかという指摘が出ています。
一方、消費増税は凍結、反対という立場の野党は、「国会議員自ら身を切る改革」や「歳出の削減」、「税制全体の見直し」などを掲げていますが、それが果たして恒久的な安定財源になり得るのか。また、具体的な改革の工程表まで示さなければ、それが実現可能なのか、
有権者にとってプラスなのか、マイナスなのかも判断できません。

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また、本来、子育て支援とは、親への経済的な支援だけが軸なのかも立ち止まって考える必要があります。
保育所を利用できない待機児童の問題。子どもを預けて働かざるを得ない人も多く、これは緊急の課題です。多くの党が待機児童対策を進めると公約に掲げていますが、無償化等との優先順位をどうつけるのか。保育士不足の解消のために大幅な待遇改善にあてる財源も必要ですし、保育の質の低下への対策も必要です。所得の多い世帯まで無償化すれば、格差の是正につながらないのではという意見もあります。
各党には、子育て支援のあるべき姿について、それぞれの理念や考え方を論戦の中で明確に示してほしいと思います。

ここまで、各党の子育て支援策とその財源についてみてきましたが、社会保障の分野には、これからの超少子高齢化の厳しい時代を見据えて、今から議論を進めておかなければならない課題が他にも山積しています。

そのひとつは、団塊の世代がすべて75歳以上となる2025年以降、医療や介護のサービスをどう提供していくかという問題です。

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この時期には、医療費が今の1.4倍の54兆円、介護費は2.1倍の20兆円に膨らむと推計されています。もちろん、今後新しい技術を取り入れるなどして効率化を積極的に進める必要はありますが、それだけでこの巨額の財源を賄えるとは思えません。その費用を誰がどう負担しあうのか。いま40歳以上が負担している介護保険料をもっと若い人にも負担してもらうかどうかといった議論もありますが、同時に預貯金などの「資産」も勘案して、経済力のある高齢者の負担を上げることや、所得の多い人への年金課税の強化、所得税や相続税なども含めた税制全体をどう見直すかという論議も始める必要があります。

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また、いま政府は、住み慣れた地域や自宅で必要な医療や介護を受けられるよう、訪問診療や訪問介護の体制の整備を進めようとしていますが、その人材も不足しています。特に深刻なのは介護。2025年には介護士が38万人不足するとみられています。家族の介護で仕事をやめざるを得ない人たちの増加を防ぐためにも、地域で介護や医療を支える人材をどう確保するのか。
与野党とも、介護現場で働く人たちの待遇改善などを公約に掲げていますが、どこまで改善できるのか。また、果たして待遇改善だけで間に合うのか。外国人の力ももっと頼ることになるのであれば、その人たちやその家族の生活基盤や教育をどう保障していくのかについても議論しなければなりません。

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そして、その後さらなる課題に直面します。今度は、団塊ジュニア世代(今の40代)が高齢期に入る2030年代後半以降の社会保障をどう見直すかという問題です。この世代は、就職氷河期の頃に社会人となったため非正規で働き続けている人も多く、一人暮らしで低所得の高齢者の増加が懸念されています。このため、「夫婦で老後を迎える」ことを前提としている今の社会保障制度を、「一人暮らしで低所得の高齢者」を支える制度に大きく転換していくことが求められているのです。
しかし、各党の公約をみると、具体的な中身が示されていないものが多く、将来の社会保障の全体像をどう変えていくのかという議論に至っていません。

超少子高齢化が一段と進むこれからの時代。そうした時代にも私達のセーフティネットとなり得る社会保障制度をつくるには、制度全体をどう再構築し、どれだけの負担が必要となるのか。そうした議論が一向に進まないことが、私たちの将来不安を増幅させています。
また、少子化対策、未来への投資というなら、そもそも地域や社会の中で、子どもたちがのびのびと育つための環境を作り直すことから始めなければなりません。
各党には、2~3年先の足元の議論に終始せず、10年先、20年先の社会の変化を見据えた、これからの新しい社会保障の具体的な未来像について論戦を深めてほしいと思います。

(藤野 優子 解説委員)

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