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「衆院選公示 問われるものは」(時論公論)

伊藤 雅之  解説委員

第48回衆議院選挙が、きょう公示されました。今月22日の投票日に向けて激しい選挙戦がスタートしました。各党の対決の構図と政策上の争点をみながら、この選挙で問われるものを考えます。

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衆議院選挙が行われるのは、3年前の12月以来です。過去2回は、自民党が圧勝し、「安倍1強」といわれる政治状況が続きました。

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衆議院選挙は、政権を選択する選挙です。衆議院の定員は、前回より10議席減って、465議席。今回の選挙は、安倍政権の継続の是非を最大の焦点に、過半数の233議席をめぐって、3つの勢力を中心に争われる構図になっています。

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3つの勢力のひとつは、与党の自民、公明両党です。これまでの実績を訴え、過半数の233議席以上を獲得し、政権を維持したいとしています。
もう一つは、安倍政権と対決姿勢を鮮明にする希望の党と、政権には是々非々の立場の日本維新の会です。両党は、東京と大阪で選挙協力を行います。
また、野党のうち、共産党、立憲民主党、社民党の勢力は、希望の党とは一線を画して、連携を強め、安倍政権を退陣に追い込みたいとしています。

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もうひとつの焦点は、衆議院で憲法改正の発議に必要な3分の2を、どういう勢力が占めるかです。選挙結果は、憲法改正が具体的な政治日程として、浮上してくるかどうかを左右します。

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さらに、この3つの勢力の力関係です。与野党が伯仲すれば、選挙後の国会で、予算案や法案の取り扱いなどに影響が出ることも予想されます。衆議院の解散を機に、再編される形になった野党の主導権をどこが握り、政権との距離をどうとるのかも注目点です。

今回の選挙には、小選挙区と比例代表あわせて1180人が立候補しました。
小選挙区では、289の選挙区に、936人で、衆議院選挙に、いまの制度が導入されてから最も少なくなっています。競争率は3.2倍で、定員の削減もあり、ほぼ前回並みです。一方、比例代表では、単独の候補者は、244人です。
3つの勢力が争う構図は、小選挙区に反映されています。

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自民・公明の与党と、野党側の希望と維新、それに共産、立憲民主、社民の3つの勢力が、それぞれ候補者を擁立した選挙区は208。全体のおよそ7割になります。こうした選挙区の中には、同じ勢力から複数の候補者が出ているところもあります。この208の選挙区のうち、自民、希望、立憲民主の3党の争いになる15の選挙区など、3つの勢力から1人ずつ、3人が争う構図の選挙区は、135です。ここでの戦いが、選挙全体の行方を占うことになりそうです。

次に選挙の争点をみます。まずは、各党の政治姿勢です。衆議院の解散から、選挙の構図が固まるまでの間の動きを含めて、安倍政権の森友学園・加計学園の問題への対応、野党側では、新党の理念や政策、政党間の連携のあり方などが問われます。

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政策上の争点は多岐にわたります。NHKの最新の世論調査で、投票先を選ぶ際に最も重視することを6つの政策課題をあげて尋ねたところ、社会保障が最も多く29%、経済政策、外交・安全保障などが、これに続きました。社会保障と経済政策、それに財政再建を考える上で、重要な争点は、消費税率の引き上げの是非です。各党の主張を見ると、再来年10月の10%への引き上げを前提としているのは自民、公明両党で、使いみちを変更して、子育て世代への投資を充実させるとしています。これ以外の党は、経済に与える影響などから、凍結や中止を訴え、与野党の対立軸になっています。

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また、原子力、エネルギー政策では、原発ゼロや「フェードアウト」など「脱原発」を掲げているのは、希望、公明、共産、立憲民主、維新、社民の6党です。ただ、脱原発を目指す政党の中でも、原発の再稼動について、厳格な安全基準や地元の理解のための法整備などを条件に、希望、公明、維新が容認する立場を取るなど、目標達成の時期や、具体的な手法にも違いがあります。
さらに国の基本を定める憲法改正があります。憲法改正は、予算や法律と違って、最終的な是非は、国民投票で有権者が判断します。国会は、国民に改正を提起するか、する場合、何を問うかを決める役割があります。
安全保障政策と密接に関係する自衛隊の明記や、9条改正を議論の対象にあげているのは、自民、希望、維新、日本のこころの4党です。公明は、自衛隊を多くの国民は憲法違反の存在と考えていないと慎重な姿勢を示し、共産、立憲民主、社民は、9条の改正に反対する姿勢で一致しています。
このように、今回の選挙で、重要な政策課題で、各党の立場の違いは明確になっています。ただ、それが課題ごとに、与党と野党、選挙の協力関係だけでは必ずしも括ることができず、全体として複雑な構図になっています。
それだけに、選挙結果によっては、政権の枠組みとは別に、与野党を超えた政策ごとの連携が進む可能性も秘めていることになります。

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次に今回の選挙に対する有権者の関心をみます。NHKの世論調査では、「非常に関心がある」と「ある程度関心がある」と答えた人を合わせると76%、「あまりない」、「まったくない」という人を合わせると20%でした。
投票に行くかどうかでは、必ず行くと答えた人は、56%で、先週の調査に比べて3ポイント高くなりました。

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グラフは、過去の衆議院選挙の投票2週間前のNHKの世論調査の結果と、実際の投票率を示したものです。折れ線の紫色が選挙に関心があると答えた人、緑は、必ず投票に行くと答えた人の割合です。調査方法が異なるため、今回と単純に比較することはできませんが、これまで、実際の投票率は、選挙に関心があるという割合よりは低く、必ず投票に行くという割合の付近を上下する傾向にあります。
衆議院選挙の投票率は、前回は、52.66%で、2回続けて過去最低を更新しています。投票率の低下に歯止めをかけることができるかどうかも重要です。
これはもちろん有権者の意識にかかっていますが、選挙に臨む、政党、候補者にも有権者の関心を高める大きな責任があることを忘れてはなりません。

これまでみてきたように政権を選択する今回の選挙は、3つの勢力の争いであると同時に、重要政策ごとに各党の立場の違いが鮮明で、複雑な構図になっています。
こうした場合、各党、候補者は、とかく自らの主張の正しさや相手に比べて優れている点を訴えることが中心になりがちです。しかし、有権者にとっては、政策の実現に向けたプロセスや実現の可能性も知りたいところです。政策を実現する上で、何が立ちはだかる困難で、それをどう乗り越えようとするのか、政策の副作用も含めて、丁寧に説得する姿勢が必要です。
今回の選挙戦が、政党、候補者どうしの争いだけでなく、政党、候補者と、その主張をしっかり見極め判断する有権者との間で、良い意味での緊張関係のもとで、進むことを期待したいと思います。

(伊藤 雅之 解説委員)

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