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「衆院選と憲法改正の行方」(時論公論) 

太田 真嗣  解説委員

今月10日に公示される衆議院選挙は、きょう(6日)までに各党の政権公約がほぼ出揃い、ようやく全体像が見えてきました。長期政権を目指す安倍・自公政権に対し、新党を含めた野党勢力が政権交代に追い込めるかが最大の焦点です。しかし、この選挙の大きな論点のひとつとなる、憲法改正の問題に焦点をあてると、与野党対立の枠を越えた別の姿も見えてきます。今夜の時論公論は、3つ巴の争いとなる今回の選挙の構図と、憲法改正の問題について考えます。

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衆議院が解散されてから、まだ1週間あまりですが、この間、政治はまさに、「政界は、一寸先は闇」という名言の通り、日々情勢が変わる目まぐるしい動きを見せました。

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自民・公明の与党に対抗するため、民進党と自由党は、東京都の小池知事が代表を務める、希望の党に事実上合流しましたが、小池さんは、「全員を受け入れるつもりは、さらさらない」と主張。政権に是々非々の立場をとる、日本維新の会との選挙協力を進めました。

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一方、それに反発した、枝野氏ら民進党の一部は立憲民主党を結成。共産党と社民党は、立憲民主党と連携するとしています。また、日本のこころも比例代表に候補者を擁立する方針で、この結果、今回の選挙は、自民・公明の与党と、日本のこころ、希望、維新のグループ、それと、共産、立憲民主、社民のグループが争う『3つ巴』の構図となりました。

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こうした中、自民・公明両党は、「選挙のために集まった政党に、日本の安全、未来は任せられない」として、安倍政権の実績を強調し、政権継続を訴えています。日本のこころも政権を支持しています。

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これに対し、希望の党は、「しがらみ政治からの脱却」、維新の会は、「身を切る改革の実現」を訴え、共に「現実に即した、外交・安全保障」を掲げています。

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一方、立憲民主党は、「安倍政権をストップさせる」と強調。共産・社民両党は、希望の党などを「政権の補完勢力だ」と批判しています。

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衆議院の過半数となる233議席を、与党が確保し、安倍政権を維持できるか。それとも、野党勢力が、『一強』と言われる、いまの政権を覆せるか。それが今回の選挙の最大の焦点です。

その一方で、今回の選挙には、もうひとつ、注目されるラインがあります。それは、憲法改正案の発議に必要な衆議院の3分の2にあたる310議席を、どのような勢力が占めるかです。

第2次安倍政権発足以降、国政選挙では、憲法改正に前向きな、いわゆる“改憲勢力”が、議会の3分の2を獲得するかどうかが注目されるようになり、実際、去年の参議院選挙を経て、改憲勢力は、衆参両院で3分の2を占めました。しかし、その後も、国会での議論は、必ずしも前進しませんでした。なぜ進まなかったのか。もちろん、時々の政治的駆け引きなども影響しましたが、その最も大きな要因となっていたのが、国会運営を握る与党の自民党と公明党、それに、野党第1党の民進党が抱える、『それぞれの事情』と、それが生み出す『微妙なバランス』でした。

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憲法改正を党是とする自民党は、安倍総裁のもと、改正実現を、より前面に打ち出すようになりましたが、民進党は、常に党内に『改憲派』と『護憲派』の対立を抱え、どちらにも舵を切れない状況でした。憲法改正自体ではなく、「安倍政権のもとでの改正は認められない」と突っぱねたのは、党内対立を避ける、いわば折衷案です。
一方、憲法改正への温度差は、与党内にもあります。公明党は、今の憲法に、必要に応じて新たな条文を加える『加憲』という立場で、自民党が主張する9条改正には、強い警戒感もあります。民進党の内情を知りつつ、「改正には、野党第1党の協力が不可欠」と主張するのは、改正を急ぐ自民党へのけん制でもあります。自民党としては、なんとか議論を進めたいものの、強引に事を運べば、連立政権の土台が揺るぎかねない。そうした、いわば『三すくみ』の状態が続いてきました。
しかし、民進党の分裂によって、こうした政治状況は大きく変わることになります。今後、憲法問題をめぐる政治のパワー・バランスはどうなるのか。今回の選挙の行方は、これまで以上に、今後の憲法論議のあり方、スピード感に大きな影響を与える可能性があります。

では、憲法改正について、各党は、次の選挙で何を訴えるのでしょうか。

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自民党は、「初めての憲法改正をめざす」として、改正項目として、『自衛隊の明記』『教育の無償化』、『緊急事態対応』『参議院の合区解消』の4項目を挙げています。
一方、同じ与党でも、公明党は、公約そのものには明記せず、党の基本姿勢を示すに止めました。自衛隊の明記は、「理解できなくはないが、いま必要なのは、法の適切な運営と実績の積み重ねだ」としています。
また、日本のこころは、「日本の国柄を大切にした、自主憲法の制定」を訴えています。

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一方、希望の党は、「9条を含め、憲法改正の議論を進める」としています。その上で、「自衛隊の存在を含め、時代にあった憲法のあり方を議論する。『国民の知る権利』『地方自治の分権』を明記する」としています。また、維新の会も、『教育無償化』や『統治機構改革』、『憲法裁判所の設置』を3本柱と位置づけた上で、「国際情勢の変化に対応し、国民の生命・財産を守る9条改正」も公約に盛り込みました。

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これに対し、共産党は、「無制限の海外での武力行使を可能する9条改憲は許さない。変えるべきは憲法でなく、憲法をないがしろにする政治だ」としているほか、立憲民主党は、「未来志向の憲法を構想する」とした民進党の方針を踏襲することにしており、「安全保障関連法を前提とした憲法改正は認められない」と主張しています。また、社民党は、平和主義など、憲法の3原則を順守し、憲法の理念を生かして政策提起を進める」としています。

今回、自民党は、憲法改正を初めて公約の重点項目にあげましたが、具体的な改正案やスケジュールは示しませんでした。他方、全体を見渡すと、9条も含めて憲法改正に前向きな政党でも、優先順位や、特筆している項目に違いがあるほか、憲法改正、そのものに反対、あるいは慎重な政党もあり濃淡は様々です。
憲法のあり様は、与野党の超えた国の根幹に関わる問題です。それだけに、今後、選挙戦を通じ、各党の立ち位置や意見の違いが、有権者により鮮明に映るよう、充実した論戦を期待したいと思います。

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最後に、憲法の問題を考える上で忘れてならないのは、今回の選挙が、いわゆる“1票の格差”をめぐり、最高裁判所から『違憲状態』とされた、衆議院の状況を改善する取り組みでもあるという点です。「違憲状態とされる議会に、憲法を語る資格はあるのか」という指摘は非常に重いものでした。その意味でも、今回の選挙は、憲法改正問題が、現実の政治課題として国会の議論のテーブルの乗る、新たなスタートとなるかもしれません。
憲法改正は、最終的には国民が判断することになりますが、それには国会での充実した議論が欠かせません。そのために、誰を代表として衆議院に送るべきか。有権者として、各党の議論にじっくり耳を傾け、貴重な1票を行使したいと思います。

(太田 真嗣 解説委員)

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