NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「ラスベガス銃乱射 繰り返される悲劇」(時論公論)

髙橋 祐介  解説委員

アメリカ史上最悪の銃の乱射事件が起きました。トランプ大統領も現地ラスベガスを慰問。今なお謎が多い犯行動機の解明や、再発防止に向けた捜査が進められています。
世界でも飛び抜けて多いおよそ3億丁もの銃が出まわり、年間3万人の命が銃によって失われているアメリカ。なぜ、こうした悲劇は一向に後を絶たないのでしょうか?
事件を手がかりに、“巨大な銃社会”アメリカの現状と課題を考えます。

j171005_00mado.jpg

ポイントは3つあります。

j171005_01.jpg

① まず「抜け穴だらけの銃規制」。
犯行に使われたとみられている殺傷能力の高い銃は、法律によって規制されているはずでした。どのようにして入手が可能だったのでしょうか?
② 次に「世論の分断」。
合衆国憲法は、一般市民が銃で武装する権利を保障しています。そうしたアメリカ特有の事情のもと、銃規制の是非をめぐる対立は、収まらないどころか、激しさを増しています。
③ そして「安全への課題」。
はたしてトランプ大統領は、悲劇の連鎖を断ち切る手立てを見いだせるでしょうか?

トランプ大統領は、事件から3日後、メラニア夫人を伴って、まだ衝撃からさめやらない惨劇の痕を視察しました。いつもは破天荒な言動で知られるこの人が、表情を時折こわばらせ、病院でけが人を見舞い、救出にあたった関係者らの労をねぎらいました。
アメリカは団結を取り戻し、銃による暴力と戦わなければならない。そうした銃規制の強化を求める声が今、事件をきっかけに改めて高まっています。しかし、トランプ大統領は、銃規制の強化に踏み込むのかどうかには、一切触れませんでした。

j171005_02.jpg

これまでの警察の調べによりますと、容疑者の男は、ホテルの32階の部屋から数百メートル先のコンサート会場をめがけて、およそ10分間、銃を無差別に乱射したことがわかっています。その状況から銃の専門家は、引き金をひいているだけで連射が可能な自動小銃か、自動小銃並みに改造した銃が使われた可能性を指摘します。

実際、容疑者の男は、ホテルの部屋で見つかったものと、2軒の自宅のあわせて3か所で47丁の銃を所有していました。また、銃に装着すると弾倉が空になるまで連射できる、いわゆる「フルオート射撃」を可能にする部品も12個押収されました。周到に準備を重ね、計画的な犯行に及んだとの見方が強まっています。

アメリカでは、自動小銃は、1986年以降、一般には禁止されています。しかし、それ以前に製造された数十万丁にのぼる古い銃は、規制対象から除外されているのです。しかも、半自動小銃を自動小銃並みに改造できる部品は、州ごとに規制が異なり、多くの州で合法的に入手が可能です。事件が起きた西部ネバダ州は、比較的規制が緩く、こうした銃を個人が所有できる数にも、弾倉に込める弾丸の数にも、制限はありません。
いわば“抜け穴だらけの銃規制”が、多くの犠牲者につながった可能性を否定できないのです。

j171005_03.jpg

なぜ、そうした抜け穴を連邦レベルで包括的に塞ぐことが、これまで出来なかったのでしょうか?最大の要因は、合衆国憲法によって、一般市民が銃で武装する権利が保障されているからです。
憲法制定の直後に加えられた修正第2条は、「人民が武器を保有し、かつ携帯する権利は、これを侵害してはならない」と定めています。私たち日本人は、とかく銃は規制を強化すべきという立場だけから、問題を捉えがちです。しかし、アメリカは、ヨーロッパの圧政から逃れた人々が、武器を手に立ち上がり、自由の旗のもとに集った共和国です。自分の身は自分で守る。そのためには銃は手放せない。そうした自由と自助の意識が、この条項には色濃く反映し、200年以上経った今も、銃規制の強化を難しくしているのです。

j171005_04.jpg

ただ、世論は、時代とともに変化します。
こちらは、アメリカ国民の銃に関する意識を毎年調査したものです。四半世紀近く前、1993年の調査では、「銃を規制すべきだ」とする人は57%、「銃を所持する権利を守るべきだ」とする人は35%でした。
その後も「銃を規制すべきだ」とする人が「所持する権利を守るべきだ」とする人を上回っていました。ところが、2010年の調査で、両者はそれぞれ46%と、初めて同じとなりました。以後は毎年ほぼ拮抗していることがわかります。なぜ銃規制の是非をめぐる世論は、このように膠着したのでしょうか?
きっかけと考えられるのは、2009年、銃規制に積極的なオバマ前政権の発足への反動でした。このままでは、銃で自分の身を守る権利が奪われかねない。保守層がそうした危機感を募らせたからでしょう。

j171005_05.jpg

オバマ前大統領は、1期目の政権発足にあたって、銃を購入する際、犯罪歴や精神疾患の有無など身元調査を徹底することや、殺傷能力の高いライフル銃などの規制強化を公約しました。
しかし、当初は、みずからの高い支持率と、当時の議会で民主党が多数を占めていた強みを頼りに、共和党への歩み寄りを拒み、銃規制には、実質的な成果を残せませんでした。現に、2012年、東部コネチカット州の小学校で起きた銃の乱射事件では、多くの幼い命が奪われ、銃の規制強化が全米で議論されました。
しかし結局、共和党の反発で法案は議会を通らず、オバマ前大統領は、自らの権限だけで発する大統領令で、いわば一方的に規制を打ち出しました。
そして、政権交代のあと、トランプ大統領は、ことし2月、今の議会で多数を占める共和党とともに、オバマ時代の銃規制を葬り去ったのです。

j171005_06_2.jpg

そうした政治的な対立に拍車をかけたのが、銃規制に強く反対する有力なロビー団体、NRA=全米ライフル協会です。「銃が人を殺すのではなく、人が人を殺すのだ」。銃による自衛の権利を主張するNRAは、そんなスローガンを掲げています。
銃規制に積極的なオバマ前政権の発足後、「銃が買えなくなるかも知れない」と考えた人たちが銃を盛んに購入した結果、銃産業は逆に活況を呈し、NRAの会員数も初めて500万の大台に載せました。
潤沢な資金力と動員力を活かして、NRAは、去年の選挙キャンペーンで、トランプ候補に日本円で30億円、共和党の有力な上下両院議員らにも合わせて6億円を超える政治献金を行いました。
トランプ氏は、ことし4月、現職の大統領としては、およそ30年ぶりにNRAの年次総会で演説。近年まれに見るほど“NRAの主張に寄り添う大統領”となったのです。

このため、今回の事件をきっかけに、銃の規制強化がただちに動き出す可能性は、ゼロではなくても、決して高いとは言えません。
無論アメリカ建国以来の自由は尊重されるべきです。とりわけ大都市を離れた地方には、ときに自衛のための銃が必要となる現実があるのもまた確かです。
しかし、単独犯が短時間に58人を殺害し、500人近くにけがさせたような殺傷能力の高い銃が、事実上、野放しになっている現状は、自衛の範囲をはるかに超えて、明らかに異常です。
銃による暴力には、銃で対抗するしかないのか。銃規制の是非をめぐる論争が世論の分断を生み、そうした分断が有効な手立てを阻む“負の連鎖”から抜け出せるのか。今回の事件が、銃規制の推進派と反対派、双方に歩み寄りを促すきっかけとなるよう望みます。

(髙橋 祐介 解説委員)

キーワード

関連記事