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「東芝再建 この先も いばらの道」(時論公論)

今井 純子  解説委員

東芝は、経営再建のカギを握るとしてきた半導体事業の売却先について、アメリカ、日本、韓国のグループに決め、先週、契約を結びました。交渉が二転三転した挙句、ようやく決着した形です。これで、東芝は、経営再建に向けて、一歩前に踏み出したことになりますが、先行きには、なお、いばらの道が待ち受けています。この問題について考えます。

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【ポイント】
解説のポイントは、
▼ 交渉は、2つのグループの間で、迷走しました。
▼ そして、売却先は決まりましたが、実現までには、まだハードルが残っています。
▼ さらに、売却できても、その先にも、大きな課題が残っています。
この3点です。

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【交渉の経緯】
(経営再建のカギとなる半導体事業の売却)
東芝は、アメリカの原子力事業の失敗で、今年3月の時点で5500億円を超える債務超過に陥りました。2年連続で債務超過になると、上場廃止となり、より深刻な経営危機に陥る心配があります。このため、東芝は、ドル箱の半導体事業の子会社「東芝メモリ」を、来年3月までに2兆円以上で売却しなければいけない。こうした事態に追い込まれているのです。

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(迷走した交渉)
売却先をめぐる交渉は迷走しました。
▼ 東芝は、6月に、アメリカのファンド・ベインキャピタルが中心となり、日本の官民ファンド、韓国の半導体メーカーなどでつくる日米韓のグループと優先的に交渉することを決めました。
▼ ところが、8月には、アメリカの半導体大手・ウエスタンデジタルを中心としたグループとの交渉を加速します。その後も、2つの陣営の間で、交渉は迷走を続け、

(日米韓に売却)
▼ 最終的に、落ち着いたのは、日米韓のグループに、東芝自らと光学ガラスメーカーのHOYA(ほーや)、そして、半導体の買い手であるアップルなどのアメリカの企業が加わったグループです。東芝は、ここに東芝メモリを2兆円で売却することを決め、先週、契約にこぎつけました。

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(交渉迷走の背景には、決断力のなさ、主体的な経営力のなさ)
東芝は、おととし不正会計問題が発覚して以降、屋台骨を揺るがすような事態が相次ぎ、経営が機能していないという批判が高まっていました。今回の交渉でも、半導体事業の主導権を日本に残したいとする経済産業省、そして、一刻も早い決着を求める主力銀行から、圧力を受けるたびに揺れ動き、自ら設定した売却期限を何度も先送りしたことで、決断力のなさ、主体的な経営力のなさを、世の中にさらけ出す結果となりました。

【売却までのハードル】
では、売却先が決まったことで、東芝は、来年3月までに債務超過の穴を埋めて、上場を維持することができるのでしょうか。東芝は今月24日の株主総会で、株主の承認を得た上で、売却を進める考えですが、実現までには、まだ、高いハードルが待ち受けています。主に2つ挙げたいと思います。

(WD訴訟)
一つ目は、ウエスタンデジタルによる訴訟です。
ウエスタンデジタルは、東芝と半導体事業で提携をし、四日市の工場を共同で運営していることもあり、「自分の同意なしに他社に売却することは契約違反だ。認められない」として、国際仲裁裁判所に申し立てを行っています。この訴訟は、交渉を進める上で、最大の障害にもなりました。

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日米韓のグループは、裁判所の判断がでる前でも、買収資金を払い込むとしていることから、東芝は、3月までに、必要な資金を得られるとしています。しかし、ウエスタンデジタルは、今回の契約を受けて、新たに、売却の差し止めを求める仮処分を申請する考えも示しました。こちらは、売却が完了する前に判断がでる可能性があって、もし、差し止めの判断が出た場合、東芝は、3月までに必要な資金を得られない心配が残ります。

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(競争法のハードル)
二つ目のハードルは、来年3月までに、日本の独占禁止法にあたる各国の競争法の審査をクリアできるのかという点です。
東芝は、フラッシュメモリーの市場で、世界2位のシェアを占めています。今回、売却先に、世界5位のSKハイニックスがいるため、健全な競争が損なわれないか、各国の審査が厳しくなる可能性があります。日米韓のグループは、
▼ SKハイニックスが、当初は、出資ではない形で資金を出すこと。
▼ そして、その後も10年間は15%を超える議決権は保有しない。つまり、経営に大きくたずさわらないこと。
こうした条件をつけたことで、各国の審査を通りやすくなるとみています。ただ、来年3月までには、半年を切っています。通常、審査は半年以上かかるとされていて、それまでにクリアできない場合、売却の資金を得られないおそれがあります。そうなると、別の方法で、資金を調達して、債務超過を解消しなければならなくなりますが、台所事情が厳しい東芝にとっては、非常に難しい事態となります。

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【売却の先にもいばらの道】
では、仮に、こうしたハードルを乗り越えることができ、上場廃止を免れた場合、東芝の先行きには、明るい光が見えるのでしょうか?残念ながら、日米韓グループの一員として再出発することになる「東芝メモリ」についても、そして、残される東芝本体の再建についても、その先に、なお、いばらの道が待ち受けていると言わざるをえません。

(半導体でも首位との差が拡大)
まず、半導体事業です。もともと東芝がつくっていた半導体、「NAND型フラッシュメモリー」は、スマートフォン向けやデータセンター向けに、需要が急速に拡大している、注目の半導体です。東芝メモリは、世界2位のメーカーで、高い技術力を誇っています。しかし、今年の4-6月のシェアは、一年前より、3点7ポイント減らしています。

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一方、首位のサムスンは、2点5ポイント伸ばしていて、東芝の売却交渉が迷走している間にも、さらに、競争力を強化するための大規模な投資を決めています。

再出発する東芝メモリには、多くの新しい経営陣が関わることになります。すばやい意思決定が競争力を決めるとされる半導体事業で、これだけ大勢の経営陣が迅速に動いて、サムスンの後を猛スピードで追うことができるのか。懸念する声が上がっています。

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(東芝本体の稼ぐ力は?)
そして、東芝本体。東芝の4月から6月の決算を見てみると、営業利益967億円のうち、90%あまりを、今回売却が決まったメモリ事業が稼いでいます。白物家電や医療機器など、優良な事業はこれまでに売却しており、残されたほかの事業は、軒並み赤字です。東芝は、鉄道や水処理のシステムといった社会インフラ事業を主力に再建をめざすとしていますが、どれだけ収益を増やしていけるのか、大きな課題が残ります。さらに、東芝に見切りをつけた人材の流出も相次いでいます。このままでは、東芝の土台が内側から崩れかねないという指摘もあがっています。

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【まとめ】
なんとか、売却の交渉をまとめた東芝ですが、経営再建に向けた本当の山場はこれからで、今後も、瀬戸際の経営を迫られることになりそうです。しかし、東芝は、なお世界で15万人を超える社員を抱えています。経営陣は、責任をもって難局を乗り越え、自らの力で、再建をめざすことが求められていると思います。

(今井 純子 解説委員)

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