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「地域共生社会 実現への課題」(時論公論)

飯野 奈津子  解説委員

時論公論です。
私たちの暮らしを支える、福祉の在り方を見直そうという動きが進んでいます。国が福祉改革の理念として掲げるのは、「地域共生社会」の実現です。公的な福祉だけに頼るのではなく、地域に暮らす人たちが共に支えあう社会にしていこうということです。その具体的な地域づくりについて、厚生労働省の検討会が提言をまとめました。

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きょうの解説のポイントです。

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●福祉の見直しを進める背景には、住民の福祉ニーズの多様化と少子高齢化があります。
●地域づくりのキーワードは「我が事・まるごと」です。
●先進的な地域の取り組みから、地域共生社会の実現に何が必要か考えます。

<なぜ福祉改革なのか>
まず、なぜ福祉の在り方を見直す動きが出ているのでしょうか

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今の福祉の仕組みは、高齢者は介護サービス、障害者は障害福祉サービス、子供は子育て支援といったように、対象者ごとに、相談窓口やサービスが分かれています。

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ところが最近は、介護と育児の問題を同時に抱える人や80代の親と働いていない50代の子が同居する生活困窮世帯など、複合的な課題を抱える家族が増えています。また身体が弱って掃除や料理が難しくなるなど、公的福祉の対象ではないけれど、生活に困っているという人も増えています。

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以前なら近くに住む人に助けてもらうこともできましたが、誰にも相談できないまま、地域から孤立して、問題を深刻化させるケースも少なくありません。

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一方、公的な福祉は、サービスを充実させるのにも限界があります。少子高齢化が進む中で、支援を必要とする高齢者が増え続け、支え手となる現役世代は減る一方だかからです。

<地域の課題を解決する枠組み>

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そうした中で打ち出されたのが、地域共生社会という考え方です。公的な福祉サービスだけに頼るのではなく、地域に暮らす人たちが共に支えあい、課題を解決する力を再構築しようというものです。そうした地域の在り方について、厚労省の検討会が「我が事」と「まるごと」をキーワードに提言をまとめました。
まず、住民同士のつながりが希薄になっている地域の基盤を強化します。

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困った人の問題を我が事と受け止めて行動できる住民を増やすこと。我が事の意識を醸成する働きかけが必要だとしています。住民が集える拠点を整備して、地域の在り方を話し合ったり、地域の課題を学んだりする機会を増やすことが、自分が暮らす地域に関心をもつことにつながります。

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そして、身近な圏域に、住民からの相談を丸ごと受け止める窓口を設けて、自分の相談だけでなく、気になる近所の人の相談も寄せてもらいます。近くに、家に閉じ困っている高齢者が住んでいるといった住民の気づきによって、地域で孤立している人の早期発見につなげる狙いがあります。

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寄せられる相談の中で、地域だけで解決が難しい問題は市町村につなげます。行政の側も縦割りをなくして、高齢、障害、子供に関わる機関だけでなく、住まいや雇用、医療など、あらゆる分野の人たちとネットワークを作り、個別の課題を丸ごと受け止め解決できる体制を整えます。

<評価>
さて、どうでしょう。

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提言で示されたのは、地域への関心を高めた住民と縦割りをなくした行政が一緒になって、地域で孤立している人たちを支えていくとうい、地域の姿です。実現はそう簡単ではありませんが、少子高齢化が進むこれからは、そうした形での支えあいが必要になるのだろうと思います。
ただし、支えあいの地域づくりを進めるために、国は何をするのか、その点が曖昧です。地域によって事情が違うので、具体的な進め方は地域で考えてくださいというのが国の立場ですが、それでは、福祉にあてる財源を確保できない国が、地域に役割をおしつけるだけと批判されても、仕方がありません。
国が本気で地域共生社会を実現したいと考えるなら、地域の動きを後おしする具体的な支援策を示す必要があります。その中でも私がもっとも重要だと思うのは、助け合いの地域づくりの要となる人材の育成です。地域によって誰がその役割を担うのか違うでしょうが、国が責任を持って、人材を育成することが、地域での取り組みを進める大きな後押しになると思います。

<先進事例からみる地域づくり>
国の動きに先駆けて、住民の支えあいの活動を広げる大阪豊中市でも、調整力に長けた専門職が、地域づくりの要となっています。どんな取り組みが展開されているのでしょうか。

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豊中市では、10年以上前から「ライフセーフティーネット」という3層の仕組みを作って、地域の課題解決を進めています。
小学校区ごとに「福祉なんでも相談窓口」を設け、研修を受けた住民ボランティアが相談を受けています。そして、「地域福祉ネットワーク会議」で地域の福祉関係者や住民ボランティアなどが、寄せられた相談をどう解決するか話し合います。市全体で取り組まなければならない課題は豊中市の「地域包括システム推進総合会議」が対応します。
この中で大きな役割を果たすのが、市の社会福祉協議会のコミュニティーソーシャルワーカーという専門職です。どんな役割を果たしているのでしょうか。

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どこの自治体でも対応に困っているごみ屋敷の問題。豊中市では、これまでに400件を超える問題を解決しています。その取り組みの要になっているのが、コミュニティーソーシャルワーカーです。
窓口に、近隣のごみ屋敷の悪臭について相談が寄せられると、住民ボランティアからソーシャルワーカーに連絡が入ります。ワーカーはまずその家を訪問。簡単には家の中には入れてもらえませんが、時間をかけて家主と関係を作ります。すると、多くの場合、ごみを溜め込んでいる家主自身が課題を抱えていることがわかります。認識知能が低下していたり、障害を抱えていたり。ワーカーは住民を集めてその課題を共有する勉強会を開き、その上で、住民ボランティアと一緒にごみを片付けていきます。同じ住民が手伝っている姿をみると、苦情を言ってきた人も声をかけてくれるようになって、ご近所のつきあいが始まるといいます。
一方、ソーシャルワーカーは市の推進総合会議に働きかけて、住民もまじえてごみ屋敷問題を解決する仕組みを作ります。片づけは、ボランティアとソーシャルワーカー。運搬は市の役割。本人が費用を負担できない時は、寄付金などで援助する。そうしたルールができたことで、ごみ屋敷問題への解決が進んでいるのです。

<地域づくりのポイント>

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こうした取り組みをみてもわかるように、地域の課題を解決するには、困っている人に寄り添い、住民が解決に向けて踏み出せるよう支援していく。そうした力を備えた人材が欠かせません。豊中市では、ソーシャルワーカに支えられながら、住民が課題発見から解決まですべての過程に関わる中で、暮らしやすい地域にするのは自分たちだという意識が住民の間に広がっています。
P住民ボランティアが一人暮らしの高齢者のためにサロンを開いたり、弁当を作って配ったり、気になる世帯をアポなしで訪ねるローラー作戦を展開したり。中には無償で土地を貸してくれるという住民も現れて、そこで定年退職した男性たちが野菜を作って子供食堂に提供するという助け合いも生まれています。

<まとめ>
国は今回の提言をもとに、地域共生社会のまちづくりの指針を来月中にまとめるとしていますが、指針を作ってあとは地域にお任せというのでは、納得は得られません。
豊中市のような取り組みが広がるよう、国が責任をもって要となる人材を育成するとともに、先進的な地域の取り組みを全国で共有できるような仕組みも作っていく必要があると思います。
そして、私たち一人ひとりも、自分が暮らす地域に目を向け、暮らしやすい地域にするために何ができるか、考えていくことが必要なのだと思います。
(飯野 奈津子 解説委員)




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