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「御嶽山噴火3年 登山者・観光客の避難対策は」(時論公論)

松本 浩司  解説委員

【リード】
ニュース解説「時論公論」です。63人が犠牲になった御嶽山の噴火からきょうで3年になりました。それ以前の日本の火山防災は麓の町の対策に重点が置かれ、火口周辺にいる登山者や観光客の安全対策はあまり考えられていませんでした。この災害を受けて大きく見直された火山防災の取組みはどこまで進んで、どんな課題が残されているのかを考えます。

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【御嶽山の教訓】
3年前のきょう、長野・岐阜の県境にある御嶽山が突然、噴火しました。火山学的には小規模と分類される水蒸気爆発でしたが、紅葉シーズンの土曜日で山頂付近に多くの登山者がいたことから63人が犠牲になる、戦後最悪の火山災害となってしまいました。

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これを教訓に国は火山の防災対策を大きく見直しました。見落とされがちだった火口周辺の登山者や観光客の対策にも重点を置き、突然噴火したり、異常が観測されたりしたときにいち早く避難してもらう態勢づくりに取り組んできました。

【対策はどこまで進んだか】
対策はどこまで進んだのでしょうか。

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登山者などの避難対策が必要なのは全国49の火山のまわりの120市町村です。
これらの市町村は「警報の伝達」や「立ち入り規制」など6項目について具体的な対策を立て防災計画に明記するよう義務付けられました。
6項目すべてを明記しているのは全体の4分の1の30市町村にとどまっています。
一方、噴火の記録が少なくハザードマップができていない、などの事情はありますが、ひとつも計画ができていない市町村も23ありました。

項目ごとに見てみますと、対策が最も進んでいるのは「警報などの伝達」で8割近くにのぼります。この取組みが活かされたケースがあります。

【情報伝達の取組み】
先月10日の未明、全国の火山を監視している気象庁の火山監視・警報センターに緊張が走りました。長野・岐阜の県境にある焼岳で空振を伴う地震が8回続けて発生したのです。監視カメラはいつもと違う場所で噴気があがっている映像を捉えました。

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火口周辺に「警報」を出す基準には達しませんが、これまで観測されたことのない「異変」です。
ちょうどお盆休みの時期。山にはご来光を見ようというおおぜいの登山者が入っています。

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気象庁は午前3時半、長野県や岐阜県などに電話で状況を伝え、その後注意を呼びかける「臨時の解説情報」を発表します。両県は警察と連絡をとりあって登山口に人を派遣して登山者に情報を伝え、エリアメールでも注意を呼びかけました。
問題は登山道には携帯電話の電波が届かない場所が多いことです。
そこで岐阜県側では登山届けを出していた男性の携帯に電話をかけ、まわりの登山者に伝えるよう依頼。男性は下山をしながら30人ほどの登山者に情報を伝えました。

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さらに警察のヘリコプターが上空から拡声器を使って情報を伝え、登山を中止し引き返した人もいました。

今回は注意報にあたる情報でしたが、その後、警報に切り替えられたり、注意報のまま噴火が起きる可能性もあります。御嶽山の噴火の前、地震が増えて同様の情報が出されていたのに登山者に伝わっていなかった苦い経験から、県や市などが情報伝達の計画を立て話し合っていたことが素早い対応につながりました。

【避難路確保の課題】

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市町村に求められている6項目のなかで一番遅れているのが「避難路」の設定です。3分の2の市町村でまだ計画が立てられていません。

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なぜでしょうか。
火山の場合、人気があって整備されている登山道は眺望のよい火口沿いが多く、火口から離れるのに時間がかかります。より早く火口から離れることのできる登山道は普段利用が少ないため整備されておらず指定が難しいケースが多いといいます。整備をするにも管理者が誰なのか、はっきりしないこともしばしばで指定が進まない原因になっています。

また火口付近まで観光地になっている場合、大勢の観光客を誰が誘導して、どのように避難させるのか、とても難しい問題です。悩みながら計画づくりを進めている自治体のひとつが北海道東部の活火山「アトサヌプリ」を抱える弟子屈町です。

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アトサヌプリは標高500メートルの活火山で、最後の噴火は数百年前ですが、20年前に活動が活発になったことがあります。観光バスで乗り付けて火口の溶岩ドームのすぐ近くまで行くことができるため人気の観光スポットになっていて、多いときは外国人観光客を含め数百人が火口周辺に滞留します。

万一噴火が起きたとき観光客をどう避難させるのか。
弟子屈町の計画では、まず観光客を200メートル離れたレストハウスの地下室に避難をさせます。建物は鉄筋コンクリート造りで、地下であれば一時的に安全が確保できると考えています。御嶽山の災害以降、ヘルメットやハンドスピーカー、車いす用のスロープなどを整備しました。

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ここで自衛隊や警察が救助に来るのを待ちますが、到着には少なくとも2時間はかかり、その間に噴火が大きくなれば救助に来れなくなることも考えられます。そこで噴火が小康状態になったら観光客を誘導し自力で避難するルートを検討しました。

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候補は温泉街に向かうルートと市街地に向かうルートふたつあります。市街地に向かうルートは距離は短いのですが、途中に分かれ道がたくさんあります。「火山灰が降ると昼間でも真っ暗になり道がわからなくなる」という専門家の助言を受けて、町は分かれ道がなく、まっすぐ温泉街に向かうルートを避難路に決めました。温泉街の明かりを目標にできるほか、救助隊もこの道を来るので途中で合流できる可能性もあります。
こうした弟子屈町の取組みは、同じように火山間近の観光地を抱える市町村からも注目されています。

【進まぬ避難施設の整備】
もうひとつ、対策が進まないのがシェルターなど退避施設です。

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全国49の火山のうち退避施設があるのは14火山。御嶽山の災害のあとも国の助成制度を使って新たに整備されたのは5ヶ所ほどです。
助成の対象が公的な施設に限られていることから、自治体は民間の山小屋の屋根の補強も対象にするなど制度を柔軟にしてほしいと要望しています。

【まとめ】
火口周辺の安全対策を進めるために何がポイントになるでしょうか。

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▼49すべての火山で自治体などの協議会が作られていますが取組みには差があります。まだ防災対応の目安となる噴火警戒レベルの設定やハザードマップもできないところがあります。先進地域を参考に取組みを急ぎ、国も後押ししてほしいと思います。

▼避難計画づくりがうまくいっている火山は、自治体や気象台、警察・消防それに大学など関係する人たちが定期的に情報交換の場を持ち、いわゆる「顔の見える関係」が築かれています。日常的なネットワークづくりが重要になっています。

▼そして避難路や退避施設の整備も急ぐ必要があります。助成制度を柔軟にしたり、例えば国立公園については国が直接整備するなど踏み込んだ対応が求められています。

今、多くの山で紅葉が見ごろになって秋の登山シーズンを迎えています。火山を抱える自治体や防災機関は今の備えを確認する必要があります。そして火山観光や登山の安全性を高めるために、御嶽山の災害を教訓にした新たな防災体制づくりを急いでもらいたいと思います。

(松本 浩司 解説委員)

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