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「2024パリ、2028ロス・同時決定の意味するもの」(時論公論)

刈屋 富士雄  解説委員

国際オリンピック委員会IOCの総会で、東京オリンピック・パラリンピックの後の次回開催都市が決まりました。2024年がフランスのパリ、そしてその4年後の2028年がアメリカのロサンゼルスと、11年後の開催都市まで決定しました。2大会同時決定は、96年ぶりになります。今夜の時論公論は、異例の2大会同時決定の背景とその意義について考えます。

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今日の解説のポイントは、まず2大会同時決定の経緯を振り返りその背景を見てみます。そして2028年大会までの、今年からの11年が、オリンピックの未来にとってどんな意味を持つのかを確認します。その上で2020年の東京大会に期待されること、さらに2026年の冬の大会に名乗りをあげている札幌市に、立候補にあたって求められることを考えます。

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まず2024年大会の開催都市決定の流れを振り返ります。
今から2年前の2015年の9月、2024年大会の開催都市に、正式に立候補したのは、ハンガリーのブダペスト、ドイツのハンブルク、イタリアのローマ、そしてフランスのパリ、アメリカのロサンゼルスと5都市でした。

しかしその後、招致を断念する都市が相次ぎました。
その理由は、開催費用への不安と市民の不支持と伝えられています。
つまり最近のオリンピック大会の開催費用の増大が、大きな壁になっています。

ロンドン大会は、費用に見合った成果はあったと高い評価を受けましたが2兆円が投入されました。ソチ大会は5兆円、リオデジャネイロ大会も、1兆数千億円と報じられています。

2年前に行われた2022年の冬のオリンピックの招致活動も、6都市が立候補申請を出しながら、次々と撤退し結局2都市しか残りませんでした。
IOCは、このまま行くと立候補都市が無くなってしまうという危機感の中で、
2024年大会の開催都市の選考に入りましたが、今回も撤退が相次ぎ、結局パリとロサンゼルスの2都市のみが残ったわけです。

しかしこの時、IOCのバッハ会長は、「大きくて魅力的な鳥が2羽、目の前にいる。どちらかを手放す手はない。」と語りました。

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大きくて魅力的な2羽の鳥とは、国際大会開催の実績も、能力も十分な都市、パリと、ロサンゼルスのことです。しかも、この2都市が提出した開催計画は、既存の施設や仮説施設が95%を超え、費用を抑えた極めて現実的で魅力的な計画だと評価されています。
IOCは、すぐに2大会同時決定する案を、理事会、臨時総会で決定し、パリ、ロサンゼルスの両都市と協議、調整して内諾を得た上で、今回の総会での正式決定になったわけです。

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パリは、前回からちょうど100年目にあたる2024年を目標に、都市開発計画とも絡めた準備をしてきただけに28年という選択肢はありませんでした。しかしロサンゼルスの方は、ほとんどが既存施設を利用する計画で、28年という選択肢があったため、話し合いはスムーズに進んだと言われています。しかも準備が長期にわたるため、IOCから2000億円の支援を受けることも決まりました。

IOCとしては、大会7年前に開催都市を決めるという原則を崩してまで、安定した開催都市を確保する道を選びました。それほど危機感がつのっていたと見ることができます。パリとロサンゼルスと話し合いがまとまった時、IOCのバッハ会長は、3者にとって「ウィン・ウィン・ウィン」とコメントし、「ゴールデンチャンス」と喜びを表現しました。

「ゴールデンチャンス」とは、何のチャンスなのでしょうか。
開催を希望する都市が無くなれば、オリンピックの存続が不可能になります。その原因は、現在のオリンピックの抱える様々な問題にあります。今回の2大会同時決定は、その山積する問題を解決するために、11年間という時をかせいだというのが多くの関係者の見方です。つまり、オリンピックの未来をかけた改革の大きなチャンスというわけです。

これまで、オリンピックの開催都市は、オリンピックムーブメントの普及を名目に、初めての都市が優先されてきました。しかし東京は2回目、パリとロスは共に3回目です。さらに、パリは、前回開催した時、初めて選手村を作り、マイクロホンを導入して場内アナウンスを行い大会運営に改革をもたらしました。ロサンゼルスは前回開催の時、商業化を導入し開催費用を確保、オリンピックの危機を救った実績があります。東京も含めた3大会で、オリンピックの未来を切り開こうというIOCの狙いが見て取れます。

オリンピックが存続するために、取り組むべき課題は一つや二つではありません。2014年、IOCは、取り組むべき改革の行動計画として40の提言を行いました。その主な内容は、①招致プロセスの健全化②大会の肥大化・費用負担の増大への対応③男女の格差是正④若者へのアピール⑤ドーピング対策などです。
立候補を検討する世界の各都市も、これらの問題を抱えるオリンピックを開催するするメリットを明確に説明できず、市民の支持を得られずに断念するケースが目立ってきています。

では、3年後、改革の先陣を切る形となった東京の果たすべき役割は、なんでしょうか。

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招致の段階では、東京は、オリンピックの抱える様々な問題に、一つの答えを出してくれそうな期待感が、IOCのコメントにも感じられました。
ところが、2度の立候補での招致活動費が238億円、招致の時の計画が、次々と白紙撤回や見直し、膨れ上がる開催費用を再検討を重ねて抑えても、1兆3850億円の巨額。
さらに大会後何が残せるかが未だ不明瞭と、東京の準備の歩みがそのままオリンピックが抱える問題を現しているとも言えます。

大会まで残り3年を切って、IOCが東京に期待するポイントがいくつか浮かび上がって来ました。招致の時から一貫して期待されている、安全で安定した運営と科学、医学などの高度な技術力に基づくドーピング対策。そして史上最多339種目に込められた、男女の格差是正と若者へのアピール。女子選手の比率が過去最高の、48,8%と、男女の格差がほぼ是正された大会という看板が東京にはかけられ、又若者に人気の新種目が増えました。

そしてロンドンが、大規模な都市開発を成功させ、国民の健康意識を変えたように、オリンピックがもたらすプラスの遺産・レガシーを、世界に明確に見せて欲しいということです。大会後に残る施設はもちろん、街中や日常生活の中でのスポーツ環境の整備や復興五輪としてのスポーツの持つ力、さらにオリンピックに続いて行われるパラリンピックを通して、施設や環境や精神面のバリアフリーを実現できるか。

開催都市としてのメリットを明確に発信することが、改革の先陣を切る東京の役割だと思います。

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オリンピックが大きな曲がり角を迎えている中で、札幌市が2026年の冬季大会に立候補を表明しています。これまでですと、開催都市決定の2年前、つまり今頃が立候補の受付になりますが、招致プロセスの見直しから一年短くなり、来年の10月が立候補の受付です。そして今月からIOCとの事前協議の受付が始まっています。しかし、JOCは、「まだ、様子を見ましょう」と、立候補へのゴーサインを出していません。

今回夏の大会が2大会同時に決定するなど招致プロセスが大きく揺れ動いています。今後の流れを見極めようというわけです。
これまでの常識から言えば、2018年韓国から、日本、中国と夏冬3大会連続アジアで行われた後に、パリが挟まるとはいえ又アジアというのは、地域バランスから考えても可能性は、ほぼありません。
しかし、オリンピック改革を目指す11年の中で行われる2026年の開催都市に求められるものが何なのか。立候補する都市の数や相手、2年後の取り巻く状況によっては、札幌にも可能性は出てきます。
JOCがその流れを読んで判断すると思いますが、札幌市に求められるものは、健全な費用計画に基づく現実的な計画とレガシーを意識した明確なビジョンです。
間違っても招致活動にお金を使う必要はありません。
オリンピック改革に手を挙げるような高い志が求められていると思います。
(刈屋 富士雄 解説委員)






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