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「白人至上主義で揺れるアメリカ」(時論公論)

別府 正一郎  解説委員

【始めに】
建国以来、人種差別撤廃の歩みを進めてきたアメリカで、白人が最も優れた人種だと主張する白人至上主義団体がかつてないほど公然と活動するようになっています。各地で、これに抗議するデモ隊と衝突し、8月には死者が出るなど対立はエスカレートする一方です。自由や平等というアメリカが掲げる理想はどうなっているのか。アメリカ社会で先鋭化する対立とその波紋について解説します。

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【解説のポイント】
①まず、「白人至上主義団体の実態」を見ます。
②次に、「アメリカ社会に広がる衝撃」を分析します。
③最後に、この問題が「世界に与える影響」について考えます。

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【バージニア州での衝突】
先月(8月)12日、アメリカ南部のバージニア州のシャーロッツビルに全米の注目が集まりました。
各地から、白人至上主義などを掲げるグループのメンバー数百人が集結し、これに抗議するグループと殴りあうなどして15人がけがをしました。また、抗議のデモ隊に、車が突っ込んで女性1人が死亡し、19人がけがをしました。

【白人至上主義団体とは】
白人至上主義団体には様々なグループがあります。

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▼南北戦争後にできたKKK、クー・クラックス・クラン。黒人へのリンチ事件などを繰り返した秘密結社で、白い三角形の頭巾で知られています。
▼また、ネオナチといわれるグループ。
▼さらに、最近目立つようになっている「オルト・ライト」。オルトは「代替」を意味する「オールタナティブ」という言葉を短くしたもので、「もうひとつの右翼」と呼ばれています。その名の通り、伝統的な右翼とは一線を画し、若い白人男性がネットでつながっているようなグループです。「白人は神に選ばれた人種だ」などという優越思想を掲げている点ではほかのグループと共通しますが、アメリカの人口構成で30年後には白人が半分以下に転じると予測されていることへの危機感を前面に出し、白人こそが、差別是正措置によって損をしていると被害者意識を丸出しにしているのが特徴です。
様々な人種が暮らすアメリカでは、いずれもきわめて少数の過激な団体と考えられていましたが、シャーロッツビルに大挙したのです。専門家やメディアは、「こうした人種差別グループは存在していたが、ここまで公然と活動するようなことはかつてなかった」と驚きをもって受け止めています。

【その規模と拡大の背景】
アメリカのNPO「南部貧困法律センター」では、特定の人種や集団を攻撃する団体を「ヘイト・グループ」と呼んで、全米で917団体あることが確認されたとしています。これは過去の調査と比べても、多い方だということです。しかも、実態を把握しにくい、ネット空間だけで活動するグループも多く、実際には、さらに多いと分析しています。

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拡大の背景には、トランプ大統領の誕生があると指摘されています。オルト・ライト運動の中心人物にしても、「本人が望もうが望むまいが、トランプ大統領は仲間だ」と話しています。グローバル化の影響で苦境に立たされる白人貧困層の境遇を理解する人物を当選させることが出来たと考え、勢いづいているのです。

【アメリカ社会に広がる衝撃】
では、なぜ、白人至上主義団体とその活動が、アメリカ社会に衝撃を広げているのでしょうか?
アメリカは、法の下の平等を掲げながらも、アフリカから連れて来られた黒人奴隷制度が歴然と存在し、平等は白人だけのものという大きな矛盾を抱えてスタートした国です。しかし、1860年代の南北戦争で、奴隷制度の存続を主張した南部連合が敗北し、奴隷解放が実現しました。また、1950年代、60年代の公民権運動では、差別の撤廃が進みました。問題があるからこそ、自由や平等という理想を追い求めるのがアメリカという国のあるべき姿なのだ、と考えられているなかでは、白人至上主義は、国の理念への挑戦と受け止められるのです。

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こうした中で、バージニア州で白人至上主義団体が集結したのは、南北戦争で南軍を率いたリー将軍の銅像を公園から撤去する計画に反対するためでした。

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リー将軍や南軍兵士の銅像などは、南部を中心に、1500件あまりが確認されています。おととし、南部サウスカロライナ州の教会で、人種差別的な考えを持ち、南軍の旗を好んでいた白人の男が、教会で黒人の男女9人を殺害する事件を起こしたことをきっかけに、こうした銅像などを撤去する動きが出ています。
しかし、白人至上主義を掲げる団体は、銅像などは人種差別の象徴ではなく、あくまで南部の誇りを示す歴史的な遺産だと主張しています。

【問題を拡大させるトランプ大統領の発言】
トランプ大統領の発言も衝撃を広げました。

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衝突を受けて、トランプ大統領は、当初、白人至上主義団体を明確に非難したなかったものの、批判が強まると、衝突の2日後にはKKKなどを名指しで非難しました。しかし、その翌日の8月15日、「一方のグループは悪かったが、もう一方のグループも非常に暴力的だった。双方に責任がある」と述べました。
白人至上主義が国の理念にも反するものだとされる中で、相対的に論じたことで擁護したとの印象を与え、差別は絶対に許されないものだという規範が崩れているとして、強い批判を招きました。

【先鋭化する対立】
ただ、白人至上主義団体に対抗する勢力の中にも過激な主張を掲げる団体が一部で目立つようになっているのも事実です。
そのひとつが、「ファシズムへの反対」を意味する「アンチ・ファシズム」を短くした「アンチ・ファ」と呼ばれる極左集団です。その実態は詳しくは知られていませんが、1月のトランプ大統領の就任式の日に、首都ワシントンで暴動を起こしたことで注目されました。
また、「黒人分離主義」などの過激な思想を掲げる黒人の団体も急速に増えています。黒人が白人と結婚することに反対するなど、ほかの人種との共存を否定しています。

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アメリカ社会での対立はいっそう、先鋭化しています。「パンドラの箱」が開いてしまったかのようだ、と表現する専門家もいます。

【世界への波紋】
最後に、この問題の世界への影響について考えてみたいと思います。
国連の人種差別撤廃委員会は、バージニア州での衝突後、トランプ大統領を念頭に、「アメリカ政府の最も高い地位にいる高官が、人種差別に基づく発言や事件が広がっていることについて、明確に拒絶し、非難していないことに困惑している」とした上で、「そうした対応が、世界のほかの国や地域にとっても、悪しき前例になるのではないかと深く懸念する」との声明を発表しました。

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様々な人種が暮らすアメリカは、様々な民族や宗教から成る世界の縮図のような国でもあります。それだけに、アメリカで、人種差別をあからさまに表現する風潮が広がることで暴力や混乱が生じれば、世界のほかの国への悪影響が懸念されているのです。
公民権運動を率いたキング牧師は、徹底した非暴力主義を貫きながら、法や制度に風穴を開けて差別の撤廃を進めると共に、人種間の和解も目指してきました。
時代背景は違えども、当時も経済格差は深刻な問題でした。アメリカが、世界に範を示すことが出来るのは、自由や平等それに共存という理想を追い求めているからこそだということを、今一度、思い起こしてもらいたいと思います。

(別府 正一郎 解説委員)

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