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「対北制裁決議 効果は?」(時論公論)

出石 直  解説委員
増田 剛  解説委員

国連の安全保障理事会は、北朝鮮に新たな制裁を科す決議を採択しました。北朝鮮はこれに強く反発、対抗措置を取るとしています。外交担当の増田委員とともにお伝えします。

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解説のポイントです。
▽今回の決議は、核実験から一週間あまりという異例の速さで採択されました。中身よりはスピードを重視した形です。
▽その背景には、制裁の強化に慎重な姿勢を示していた中国やロシアへの配慮がありました。国際社会が一致した行動を取るためにはその意向を無視することはできなかったのです。
▽果たして今回の制裁措置で、北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止することはできるのでしょうか。制裁の効果について考えます。

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北朝鮮が6回目の核実験を強行したわずか3日後にアメリカは新たな制裁決議の原案をメンバー国に示しました。北朝鮮の生命線とも言える原油の全面禁輸、キム・ジョンウン委員長の資産凍結、北朝鮮の船舶に対する臨検など、これまでにない厳しい内容でした。
しかし中国、ロシアとの協議の結果、アメリカは当初の原案を修正し、原油については現状維持、キム・ジョンウン委員長の資産凍結は見送り、北朝鮮の船舶に対する貨物検査も北朝鮮の同意を得たうえでと、かなり抑制された内容に落ち着きました。

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【日本政府の受け止め】
(増田)安倍総理は、「決議が、全会一致で迅速に採択されたことを高く評価する」と述べています。政府内では、新たな決議が、北朝鮮の核実験から1週間という短期間で、しかも、中国・ロシアの賛成も得て、全会一致で採択できたことを評価する意見が大勢です。
その一方で、原油の輸出制限が、事実上の現状維持に等しい内容にまで修正されたことについては、「ちょっと残念だ」という感じでしょうか。当初、アメリカのヘイリー国連大使が「最強の制裁が必要だ」と述べ、安倍総理も「異次元の圧力をかけるべきだ」と述べて、期待値が上がっていましたから、落差が大きいということでしょう。

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【原油の輸出制限への期待】
(増田)そうですね。現在、日本に切迫している脅威は、ミサイルです。ミサイルを発射するには、燃料が必要ですし、ミサイルを運搬する車両を動かすにも、ガソリンが必要です。石油の供給が減れば、北朝鮮は、ミサイルの運用に支障をきたすことになりますので、ミサイル発射を相当程度、抑制できると期待していました。
その一方で、ある外務省幹部は、「今回、まがりなりにも、原油の輸出制限が、制裁のメニューにあがったことの意味は大きい」と強調しています。一度メニューにあがれば、今後、更なる北朝鮮の挑発があっても、それに応じて、輸出制限を強化することができるとみているのです。原油の禁輸については、制裁の最後のカードとして温存する必要があったという側面もあるのでしょう。

【制裁決議の実効性】
(増田)今回の決議では、このほかガソリンや軽油などの石油精製品について、原案どおり200万バレルまでという新たな輸出制限が設けられました。日米の当局は、石油関連全体の輸入量が3割削減されることになるとしています。加えて、繊維製品の輸出禁止や、各国が北朝鮮労働者に新規の就労許可を与えることを禁止することも、盛り込まれました。

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日本政府は、特に繊維の輸出禁止について、「核やミサイルの資金源を締め付ける有力な手段になる」と歓迎しています。繊維は、北朝鮮の総輸出額のうち7億ドル、3割近くを占めています。すでに石炭や海産物の輸出も禁じられており、(画)菅官房長官は「今回と過去の決議を完全に実施した場合、北朝鮮の輸出による外貨収入の約90%の削減が見込まれる」と述べています。

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また、河野外務大臣は、現在、中東諸国を歴訪中ですが、この中には、北朝鮮から千人単位で出稼ぎ労働者を受け入れている国があります。河野大臣は、訪問先のエジプトで演説し、中東地域で働く北朝鮮の労働者が、北朝鮮の外貨収入源になっているとして、制裁強化の抜け道にならないよう、協力を呼びかけました。

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【中国、ロシアへの配慮】
今回の制裁内容は、最終的には制裁の強化に慎重な姿勢を示していた中国とロシアに配慮した形となりました。当初、アメリカが示していた厳しい内容の原案では、中国やロシアは拒否権を行使せざるをえないだろうと見られていました。北朝鮮の核・ミサイル開発に対する安保理決議でこれまで拒否権が行使されたことは一度もありません。採決の前日になってアメリカが譲歩し原案の修正に応じたのは、トランプ大統領が11日の採決に強くこだわっていたことに加え、中国やロシアが拒否権を行使することになれば国際社会が割れていると印象づけてしまうという懸念があったためと見られます。

【制裁の効果は?】
では今回の制裁決議、果たしてどこまで効果があるのでしょうか。ここからは制裁の効果についてみていきたいと思います。北朝鮮の貿易は中国が圧倒的に多く9割近くを占めています。制裁が効果を発揮するかどうかは中国次第であることは一目瞭然です。中でも私が注目しているのは中国からの原油の取り扱いです。韓国の統一省によりますと、北朝鮮はここ数年400万バレル前後の原油を輸入しています。2013年まではその大半が中国からでした。しかし中国政府が発表している貿易統計では2014年以降北朝鮮への原油輸出はゼロが続いています。にも関わらず北朝鮮の原油輸入量に変化が見られないのはなぜでしょうか。ロシアからの輸入が多少増えているとは言え、貿易統計に乗らない何らかの方法で中国から北朝鮮に原油が供給されている可能性は排除できません。
抜け穴があっては制裁の意味がありません。中国が果たすべき責任は重大と考えます。

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【まとめ】
(増田)北朝鮮問題を解決するためには、最終的には、対話が必要です。ただし、この場合の対話は、核やミサイルの放棄に向けた真剣な対話です。
北朝鮮は、核を保有することが、国家の存続にとってプラスになると考えています。
その発想を転換させ、むしろ、核を保有することは、国際社会の非難と制裁を招き、国家の存続にとってマイナスになると、気づかせなくてはなりません。そのためにも、今は、厳しい制裁を科し、圧力を強化することが必要です。外交的・経済的圧力に、軍事的圧力も組み合わせ、「これ以上、圧力をかけられたら、体制を維持できない」と思わせるところまでいかなければ、効果はないでしょう。
よく、「対話と圧力」と言われますが、「圧力、その上で、対話」です。
今回の決議がきちんと履行されるよう、国際社会が緊密に連携し、監視を強めていくことが、その第一歩になると思います。

もうひとつ強調しておきたいのは、制裁の目的は核・ミサイル開発を止めることであって人々の生活を苦しめるものではないということです。確かに今回の決議は北朝鮮の外貨収入源に切り込んではいますが、あくまでも間接的な効果しか期待できません。国連安全保障理事会の専門家パネルのメンバーとして制裁の実施状況の調査に当たっていた古川勝久(ふるかわ・かつひさ)さんは次のように述べています。

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「ブースト型の核爆弾の製造に使われる水銀や弾道ミサイルの移動式発射台のタイヤなど消耗品の供給は今回の決議でも禁止されていない。核・ミサイル開発に直結する品目を包括的に禁止することを優先させるべきではないか」。核・ミサイル開発を阻止するという制裁本来の目的を見失ってはならないと思います。
北朝鮮は「決議が採択されれば、アメリカが考えもしない強力な措置を連続で講じる」とけん制しています。具体的に何を考えているのかは分かりませんが、何らかの形で新たな挑発に出てくる可能性はきわめて高いとみるべきでしょう。次に予想される事態への備えも怠ってはなりません。

(出石 直 解説委員 / 増田 剛 解説委員)

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