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「死刑の情報公開は」(時論公論)

清永 聡  解説委員

【前説】
7月13日。2人の死刑囚に対する死刑が、執行されました。去年11月以来のことです。私はその翌日、執行の経緯を知りたいと考え、法務省に情報公開請求を行いました。
その結果、文書が8月中旬と9月上旬の2回に分けて開示されました。7種類、69枚あります。しかし中身は、全体の半分以上が1ページの全部を黒く塗りつぶされていました。どのような経緯で2人が執行されたのか、うかがい知ることはできません。
日本の死刑は「秘密主義」と指摘されています。この文書はそれを象徴しているかのようです。死刑に関する情報の必要性を伝えます。

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【解説のポイント】
解説のポイントです。
黒塗りの文書、そこから見えてくるものはなにか。
確定から執行までの期間に大きな差があること。
最後に議論が止まっている現状です。

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【死刑は今】
日本の執行は事前には一切秘密にされ、本人にも直前まで伝えられません。執行後に法務省から名前と生年月日、犯罪の内容、執行場所が公表されるだけで、経緯や審査の内容は明らかにされていません。
法律は、再審請求中など一部の期間を除き、確定から6か月以内に死刑を執行するよう定めていますが、実際には確定後も執行されないままの死刑囚が、全国で120人を超えています。ただ、確定後は外部との面会や手紙のやりとりも厳しく制限され、生活の様子を知ることはほとんどできません。
つまり「刑の執行」と「死刑囚の処遇」この2つの具体的な状況が非公開のため、「秘密主義」という批判も上がっているのです。

【再審請求中の死刑の経緯は】
執行された2人のうち、西川正勝元死刑囚は、平成3年にスナックの女性経営者4人を殺害したとして、死刑が確定しました。本人は再審・裁判のやり直しを求めている最中でした。再審請求中の執行は異例です。法務大臣は「一般論として、再審請求中でも当然棄却が予想されるときは、やむを得ない」としています。しかし一方で「再審を決めるのは裁判所であり、法務大臣が判断することではない」という指摘もあります。

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そもそも、なぜこの人が執行されたのか。文書には死刑執行の命令を出すよう求める「上申書」。そして審査、決裁、執行命令などがあります。
このうち「死刑執行について」という決裁文書は、一部だけでも文字が読めるのは表紙を含めて3枚だけ。その後は20枚に渡って1ページすべて黒塗りされた紙が並び、何が書かれているのかは分かりません。

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ただ、別の文書に取材の手がかりがありました。確定の5か月後に執行の命令を出すよう求めた「上申書」。ここに当時の杉浦正健法務大臣の名があります。
杉浦さんは、今は政界を引退し、弁護士をしています。自分の名が書かれたこの文書を見てもらいました。
杉浦さんは「文書を見た覚えがない」と話しています。杉浦さんは死刑に反対の立場で、大臣のときも執行していません。そのため「死刑に関するものなら記憶に残るはずで、大臣宛になっているがおそらく形式的な文書だ。実際の審査は官僚主導で進んでいる」と指摘しています。
決裁や審査では計13人の幹部や大臣などのサインや印が押され、慎重に検討している印象を受けます。しかし上申書から11年の間、何を審査し、どうして選ばれたのかは、分からないままです。

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杉浦さんは、「死刑囚には個別に事情があり、法務官僚が主導して検討することには一定の合理性もある」と考えています。「その代わりに、なぜ執行を判断したのか、国民に説明する義務がある」と指摘しています。

【死刑の執行には変化が】
実は、死刑が確定してから執行までの平均期間は変化しています。過去の原稿や市民団体の資料などを元に、傾向を把握するために平均を計算してみました(期間の月数は切り捨てで計算)。

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期間が徐々に短くなっていることが分かります。かつては平均で9年以上ありました。しかし、最近は平均3年あまりです。
さらに実際は確定後も40年以上執行されない人がいる一方で、1年前後で執行されるケースもあります。1年間に執行される人数も、ゼロの年もあれば15人の年もあります。大きく異なるのはなぜか。そして凶悪な事件を恣意的に選ぶといったことはないのか。情報がなければ、こうした点を検証することもできません。

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【裁判員裁判の死刑の経緯は】
執行された2人のうちもう1人。住田紘一元死刑囚は、平成23年に元同僚の女性に対する強盗殺人などの罪に問われ、裁判員裁判で死刑が確定していました。裁判員の死刑が執行されたのは3例目です。しかし、こちらも大半が黒塗りでした。
裁判員の経験者からは自分たちが判決を出した死刑囚が、その後反省しているのかなどを知りたいという声も上がっています。情報公開を求める申し入れも行われています。

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この文書を見た元裁判員の男性は、「死刑を言い渡す役割を国民に担わせながら、あとは知らせるつもりがないという国の姿勢では、国民の司法に対する理解は得られない」と話しています。

【止まった議論】
法務省はかつて、平成22年から2年近く、死刑のあり方に関する勉強会を開いてきました。当初、「情報提供」もテーマの1つでしたが、議論は死刑制度の賛否に集中し、進展しませんでした。
法務省は消極的な理由について、「本人の心情の安定」を挙げています。特に執行に関する情報が明らかにされれば、本人が不安になって動揺し、自殺したり抵抗したりすることを懸念しています。
しかし、およそ30の州で死刑制度が存続しているアメリカの場合、死刑囚と面会することも幅広く認められ、報道機関が取材することもできます。アメリカの死刑情報をまとめている民間団体のホームページには、執行方法や使われた薬物、そして今後の執行予定日も明らかにされ、関係者が立ち会うことも可能です。

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日本でも被害者の遺族から、希望者には執行の通知や、立ち会えるようにすべきだという意見もあります。現実には、プライバシーに関する部分もあるため、「執行」と「死刑囚の処遇」のすべてを明らかにすることは、難しいでしょう。しかし、裁判員裁判による死刑の執行も始まり、被害者支援の充実も求められる中で、今のやり方が妥当と言えるのか。どこまで公開するかを検討する時期に来ているのではないでしょうか。

【賛否議論の前提として情報公開を】
上川法務大臣は先月、就任後の会見で、死刑について「日本は法治国家であり、厳正に行っていく」と述べています。
死刑制度を巡っては、賛成と反対の立場から様々な意見が交わされています。しかし、国民の間で必ずしも関心が高まっていると言えないのは、情報が明らかにされないことと無関係ではないはずです。
日本の死刑制度はどうあるべきかを考え、活発な議論を行うためにも、前提となる情報の公開に努めることを、求めたいと思います。

(清永 聡 解説委員)

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