NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「対北朝鮮で連携は ウラジオストク日ロ首脳会談」(時論公論)

石川 一洋  解説委員
岩田 明子  解説委員

北朝鮮がこれまでにない威力の核実験を強行し、北朝鮮による核とミサイルが日本を含む北東アジアの安全保障を揺るがし、深刻な脅威となっています。
北朝鮮と目と鼻の先にあるロシア極東ウラジオストクで日ロ首脳会談が行われました。北朝鮮に対して圧力を強めたい安倍総理、あくまで対話を重視するプーチン大統領、アプローチの違いは埋められたのでしょうか。
日ロ首脳会談では北方領土での共同経済活動も重要な議題となりましたが、きょうは北朝鮮問題に絞って日本外交担当の岩田委員とともに解説いたします。

j170907_00mado.jpg

解説のポイントです。

j170907_01.jpg

●危機感は共有できたのか。
●圧力か対話か 日ロの溝は埋まったのか
●対北朝鮮、日ロそれぞれの役割は
日ロ首脳会談は日本時間の午後4時半から3時間以上にわたって行われました。注目は北朝鮮問題ですが、岩田さんどのような雰囲気だったのでしょうか

岩田) 会談の冒頭、プーチン大統領は安倍総理を来年5月のサンクトペテルブルクの経済フォーラムに招待するなど和やかな雰囲気で始まりました。会談は外相などを入れた少人数会合が一時間半、そして首脳同士、一対一のテタテが30分行われ、北朝鮮問題が集中的に話し合われました。

j170907_02.jpg

石川) さてまず北朝鮮の核とミサイルの開発に対して日ロは危機感を共有できたかです。
まず両首脳の会談後の記者発表をお聞きください。

プーチン大統領「北朝鮮による日本上空を越えるミサイル発射と核実験を断固非難する。ピョンヤンの行為は地域の安定と安全のために重大な脅威だ」
安倍総理「北朝鮮がこのような道を進んでいけば北朝鮮に明るい未来はない。このことを北朝鮮に分からせてその政策を変えさせる必要があります。日本とロシア両国は国連安保理の場などで今後も緊密に協力することで一致しました」
これまで北朝鮮の核とミサイルへの危機感という面では両国の認識に大きな差はありました。岩田さん、安倍総理は、プーチン大統領に日本の危機感をどう伝えたのでしょうか。

岩田) 今回の会談で、安倍総理大臣は、北朝鮮問題について、「新たな段階の脅威になったこと」をプーチン大統領との間で共有し、北朝鮮に対する圧力強化でロシアの協力を少しでも引き出すことが目的でした。

j170907_03.jpg

安倍総理が「過去最大規模の核実験で日本の上空を超えるミサイルは日本の国民世界全体への脅威だ。北朝鮮の政策を変えさせるためにも今はさらなる制裁圧力が必要だ。ウラジーミルの協力を得たい。」と訴えたのに対して、
プーチン「日本国民の懸念を完全に共有する。安保理の制裁強化も検討の用意がある」述べて、ロシアとして初めて制裁強化にも応じる考えを伝えました。


北朝鮮に対する危機感や国連安保理での制裁強化の必要性については、一定の共通認識を確認することができたと言えます。
ところでロシアは、一貫して北朝鮮との対話を主張する姿勢を崩さない理由は何でしょうか。

j170907_05_0.jpg

石川) プーチン大統領が日本の危機感を直接安倍総理の口から聞いた意味は大きいと思います。ただプーチン大統領は「安全を保証されない限り北朝鮮は草を食ってでも核兵器を作るだろう」と述べ、北の体制の安全を保障することと核を取引できないかというのがロシアのアプローチの基本です。

j170907_05_1.jpg

問題はプーチン大統領のアメリカに対する深い不信感です。
アメリカが北朝鮮やイランを理由に全世界にミサイル防衛を展開して、ロシアの核抑止力を阻害しようとしている、アメリカの狙いはロシアの封じ込めではないかという不信です。

★ここからは圧力か、対話か日ロ双方の立場の違いが埋まったかという点です。

今、国連の安保理で北朝鮮に対する新たな制裁決議について協議が始まっていますが、北朝鮮への石油の禁輸、この点で進展はあったのでしょうか。

j170907_09.jpg

岩田) まだその点では双方に意見の違いがあり、溝を埋めることはできませんでした。
今回の会談で、安倍総理が「圧力をかけるには石油の供給停止が必要だ」と協力を求めたのに対して、プーチン大統領は「石油の禁輸には賛成できない。北朝鮮の国民の生活を破壊し、暴発を許しかねない。シンゾウの考え方は理解するが、話し合いによって平和的に解決するか道はない。取り返しのつかないことになってはならない」と述べたということです。

j170907_EX01.jpg

j170907_EX02.jpg

安倍総理はプーチン大統領の対話を重視する姿勢を理解するとしつつ、中国やロシアが主張する「北朝鮮の核ミサイルの開発と米韓合同演習の同時停止・いわゆるダブルフリーズ」を踏まえ、アメリカは韓国との軍事演習の規模を実際に縮小させるなど、緊張緩和に向けた姿勢を実際に示しているのに、実際には核実験が強行されたことを指摘。今は対話をしても意味がなく、大切なことは国際社会の連携であり、中でもロシアの協力が不可欠だという考えです。

石川) ロシアは圧力強化を否定していませんが、同時にアメリカの提案しているいわばほぼ経済封鎖に等しい決議では、かえって北朝鮮を極端な行動に走らせてしまう危険があると考えています。制裁そのものをロシアも否定しているわけではなく、今後国連安保理で日米中ロなどの間で困難なすり合わせが行われるでしょう。

j170907_08.jpg

★さて次は北朝鮮の問題を解決するために日ロはそれぞれどのような役割をすべきでかです。私は、北朝鮮の核とミサイルの脅威にさらされている日本こそ、北東アジアの安全保障についてより積極的なイニシアティブを取るべきではないかと思っております。

岩田) 安倍総理は、ロシアについて、シリアや北朝鮮など、難しい国際社会の課題について、建設的な議論をする相手と位置付けています。安倍総理は、フォーラムでの講演で、地域と世界の秩序に対し、挑戦をやめない北朝鮮に対する憂慮を共有し、国際社会が平和と繁栄のために一糸乱れず行動すべきで、日ロが経済と安全保障の両面で関係を強化しなければならないと訴えました。いわば日本として北東アジアの安全保障についてロシアと真剣に話し合う用意があると表明したのです。これまでの日米韓の連携強化一辺倒から一歩踏み出したともいえます。

石川) 北朝鮮の問題を解決するためにも日ロの安全保障面での協力を深めるというアプローチでプーチン大統領が受け入れやすい論理だと思います。米ロの溝を埋めることはできるでしょうか。

j170907_EX03.jpg

岩田) 安倍総理は、アメリカのトランプ大統領にも北朝鮮の問題などではロシアとの協力が重要だと訴え、プーチン大統領との対話を促した経緯があります。ロシアとアメリカの対立の解消は難しいですが、たとえばシリアなどでは軍事面でもお互いに利益があれば協力しています。プーチン大統領とトランプ大統領、双方と強固な信頼関係がある安倍総理こそが、北朝鮮問題でも米ロの協力の仲立ちをすべきではないか。
プーチン大統領が制裁強化に踏み込んだことは成果だが、北朝鮮に対する日本とロシアの溝は埋まったとはいえません。安倍総理は核実験以来、トランプ、プーチンだけでなく様々な国の首脳と電話会談をした。日本は、今回の電話会談で象徴的なように、多くのチャネルを持つようになり、従来の対応よりも厚みが増したといえます。そうであるならば、日本主導で、関係国の利害を整理し、圧力とともに、水面下での対話の調整で主導権を発揮すべきではないか。

石川) 対話を主張するロシア、プーチン大統領にも大きな責任があります。
圧力と対話、違うアプローチのように見えますか、どちらか一方だけでは北朝鮮の核とミサイルという挑発を止めることはできません。
ロシアは現状を事実上放置することにつながる対話のための対話ではなく、その大きな影響力を利用して北朝鮮に今の道の誤りを悟らせるべきでしょう。日米中ロ韓、北朝鮮以外の北東アジアの国々はお互いに様々な対立や思惑の違いを抱えています。
しかし北朝鮮の核とミサイルの問題をここで止めないと、北東アジアの安定と繁栄はありません。安倍プーチン両首脳が信頼関係を基礎にこの複雑な問題の解決に向けてそれぞれの役割を果たすことを望みます。
(石川 一洋 解説委員/岩田 明子 解説委員)

キーワード

関連記事