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「トランプ政権"試練の秋"」(時論公論)

髙橋 祐介  解説委員

トランプ政権が揺れています。
アメリカは、9月のレイバーデーを合図に、夏休みが終わり、連邦議会も審議を再開しました。この秋は、いつにも増して内外に課題が山積していますが、トランプ大統領の政権運営は、依然として安定を欠き、先行きへの懸念が広がっています。
トランプ政権は、“試練の秋”を乗り切ることができるでしょうか?その行方を探ります。

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ポイントは3つあります。

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▼まず“トランプ離れ”。
このところ与党・共和党の一部にも、大統領と距離を置く動きが表面化しています。
▼次に、現実への“リセット”。
トランプ政権はいま、現実路線への転換を模索しているようです。
▼そして、政権運営の課題。
はたしてトランプ政権は、態勢を整え直し、議会との関係を修復できるでしょうか?

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この夏、トランプ大統領は、まるで抱えきれない荷物に押しつぶされそうな観もありました。
政権内に不協和音が絶えず、「辞任ドミノ」と呼ばれた人事の迷走に歯止めがかかりません。
その一因ともなった白人至上主義をめぐる大統領の発言は、非難の集中砲火を浴びました。
いわゆる「ロシア疑惑」も特別検察官による捜査が続いています。
しかも、北朝鮮による核とミサイル開発の問題は、緊迫の度を増すばかり。
さらにハリケーンの直撃で南部テキサス州には大洪水。トランプ大統領の危機管理能力が試されています。

こうした事態に、大統領の支持率は、依然、低迷したままです。主な世論調査の平均値を見てみると、40%前後にとどまっています。

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これまでトランプ大統領には、何があろうと岩盤のように崩れない“固い支持層”があると言われてきました。
確かに、こちらの保守系の世論調査機関によるデータで、支持率の推移を見てみると、最近は40数パーセントまで、低下しつつあるものの、それなりに安定しているとも言えるでしょう。
しかし、「大統領を支持する」と答えた人のうち、「強く支持する」と答えた人を見てみると、こちらも、じわじわ減りつつあることが判ります。
大統領の“固い支持層”に、“トランプ離れ”が兆しているのです。

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なぜ“トランプ離れ”は起きたのでしょうか?無論そこには様々な要因が考えられます。政権内の路線対立と主導権争いもそのひとつです。
トランプ大統領は、7月、政権の“番頭役”である首席補佐官を、共和党主流派のプリーバス氏から軍人出身のケリー氏に交代させました。ケリー首席補佐官と、大統領の娘婿クシュナー上級顧問は、現実重視の穏健派です。党派色の薄い“親族と軍人”が、主導権を握ったことで、ホワイトハウスはひとまず、統制を取り戻しました。
これに対して、政権内で孤立を深めていた強硬派のバノン氏は、先月、首席戦略官を解任されました。選挙公約に誰より忠実だったバノン氏は、「われわれが戦いで勝ち取ったトランプ政権は終わった」と述べ、政権を去りました。こうした一連の動きも、支持者離反の背景のひとつにあったのでしょう。

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人事刷新の影響は、安全保障政策に現れています。
トランプ大統領は、アフガニスタンでの戦いについて、新たな戦略を明らかにし、現地の情勢悪化に伴って、駐留アメリカ軍の増派に道を開きました。これまでトランプ大統領は、「アメリカファースト」の名のもとに、「海外の紛争には介入すべきではない」として、早期撤退を公約していましたから、事実上の公約撤回にあたります。
トランプ政権は、現実路線に舵を切ったかたちです。大統領に投票した有権者の一部には、こうした現実への“リセット”は、公約違反と映るかもしれません。しかし、国際秩序の維持にアメリカが関与し続けるという観点から見れば、歓迎すべき動きと言えるでしょう。

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その一方で、通商政策には、変化の兆しは見えません。
いまカナダやメキシコと行っているNAFTA=北米自由貿易協定の再交渉は、年内合意が目標です。トランプ大統領は、とりわけメキシコとの巨額の貿易赤字を問題視して、協定から離脱する可能性もちらつかせながら譲歩を迫っています。
これに対して、メキシコは、中国と接近し、アメリカ以外にも貿易相手国を多角化することで対抗する構えです。
トランプ政権は、交渉妥結のため現実路線に舵を切るのか?それとも、保護主義的な主張を貫くのか?その行方は、日本も含む他の国々との通商交渉にも影響を与えるでしょう。

では、トランプ大統領の政権運営には、どのような課題があるのでしょうか?

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そのひとつが、実務を支える人材不足です。
専門的な知識と経験を持つ政府高官が、依然、大幅に足りないのです。議会による承認が必要な“政治任用”と呼ばれる主なポストのうち、まだ半数以上が空席のままです。
政権内の路線対立に一応の決着がついたことで、ようやく指名が本格化する兆しも出てきました。しかし、トランプ大統領は、政府機能の効率化を理由に、「すべての空席を埋めるつもりはない」とも発言しています。
こうした人材不足が解消されない限り、トランプ政権の政策実行能力には、疑問が拭えません。

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もうひとつの課題は、議会との関係修復です。
アメリカ政治は、大統領ひとりでは、前に進みません。ホワイトハウスと議会は、“車の両輪”に喩えられ、両者が協力しなければ、予算も法案も出来ないからです。
実際いまの予算は、今月末に期限が切れ、その後、議会が定めた国債の新規発行額も上限に達します。トランプ政権が議会と調整し、議会が新しい予算を可決しなければ、政府機関は閉鎖に追い込まれる可能性もあるのです。
議会との関係を修復しない限り、トランプ政権が公約の目玉に掲げた税制改革も、実現のメドは立ちません。

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トランプ大統領は、こうした課題をクリアーし、政権の浮揚をはかることが出来るでしょうか?かつて、いまのトランプ大統領と同様に、就任直後から躓きながら、やがて挽回を果たした大統領がいました。トランプ大統領にとっては、いわば“因縁の仲”でもある第42代大統領、ビル・クリントン氏です。

一見、対照的に見えるこのふたり、実は、意外に多くの共通項があるのです。
同じ年に生まれた“ベビーブーマー世代”。ともにスキャンダルが絶えず、クリントン元大統領は、議会から弾劾訴追もされました。政治の世界ではアウトサイダーだったトランプ氏に対し、クリントン氏も、それまでリベラル一辺倒だった民主党を中道寄りに舵を切り、当初は「党内の異端児」とも呼ばれました。支持率の低迷に喘ぐトランプ大統領に対し、クリントン元大統領も、1期目の中間選挙で歴史的な大敗を喫し、議会の上下両院で多数派の座を失いました。

ただ、クリントン元大統領は、そうした危機に直面するたびに、現実を受け入れ、反対派の声に耳を傾け、ときに妥協も重ね、復活を遂げました。2期8年の任期をまっとうする頃には、高い人気を誇り、アメリカ経済を立て直した手腕を、今なお評価する声もあります。
いま政治の混乱をよそに、アメリカ経済は堅調です。しかし、何か重大な危機が襲ったとき、トランプ大統領がリーダーシップを十分に発揮して、切り抜けることが出来るかは、まだ誰にもわかりません。

「既存のワシントン政治をひっくり返す」そう宣言して大統領に就任してから7か月あまり。迷走と混乱の末に迎えた“試練の秋”は、トランプ大統領が、どこまで現実と向き合うことが出来るかを問うことになるでしょう。

(髙橋 祐介 解説委員)

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