NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「日本防衛と外交の緊急課題」(時論公論)

島田 敏男  解説委員
増田 剛  解説委員

北朝鮮が弾道ミサイルの発射を繰り返し、そのミサイルに搭載する核弾頭の小型化に成功したと豪語する、由々しい事態になりました。
国際社会が直面する危機に他ならず、日本にとっては、今の情況の下で国民を守ることと、自らの意思を問題解決に反映させる積極外交の展開が緊急の課題になっています。
日本の外交・安全保障を担当する増田解説委員と共に考えます。

j170905_00mado.jpg

(島田)
7月以降、北朝鮮がICBM・大陸間弾道ミサイルの発射実験を行ったことで、ミサイルの脅威はアメリカに向けられたものという見方が強調されています。
しかし、日本に対するミサイルの脅威は、以前から相当高いレベルにありましたよね?

(増田)
はい。最近は、ICBMに注目が集まっていますが、日本への脅威という観点でみると、北朝鮮は、これまでにも、スカッドERやノドンといった、日本を射程に収める弾道ミサイルを頻繁に発射してきました。5月末には、スカッドを改良したとみられる新型ミサイルが発射され、日本の排他的経済水域内に着弾しています。スカッドやノドンは、すでに実戦配備が進んでいるとみられていますし、防衛省は、北朝鮮がこうしたミサイルに搭載する核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性があると分析しています。
つまり、日本全土を射程に入れた核ミサイルの実戦配備が現実味を帯びているのです。

j170905_01.jpg

(島田)
先に示された来年度予算の概算要求では、このミサイルの脅威に対抗するための予算を
早急に増額するよう防衛省が求めたところでした。
防衛省が描いているミサイル防衛システムは、どういうものですか?

(増田)
現在、日本のミサイル防衛は、イージス艦に搭載した海上配備型の迎撃ミサイルSM3が、大気圏外で、飛んでくるミサイルを撃ち落とし、撃ちもらした場合は、陸上配備型のPAC3が迎撃するという二段構えです。このシステムを拡充するため、防衛省は、今回、新たに、陸上配備型の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を導入することを決めました。このイージス・アショアは、海上配備型のSM3を高性能のイージスレーダーとともに、陸上に配備するシステムです。日米で共同開発して、今後導入される改良型のSM3を使えば、2基で日本全土をカバーできるとされています。

j170905_02.jpg

(島田)
ただ、この防衛システムが一定の抑止力は持つとしても、決して万全ではないですよね?

(増田)
そうですね。イージス・アショアは、SM3による迎撃態勢に厚みをもたせるものですが、二段構えの態勢を三段構えにするというものではありません。
また、実際にシステムが稼動できるまでには、5年程度はかかる見通しです。それに、イージス・アショアも含めたミサイル防衛システムは、どんなに強化しても、北朝鮮が多数のミサイルを同時に発射する、いわゆる「飽和攻撃」に踏み切った場合、完全に迎撃するのは困難だとみられています。
ミサイル防衛には、限界があるという事実は、冷静に認識する必要があります。

j170905_03.jpg

(島田)
財政的な負担も相当なものになりますね。

(増田)
はい。イージス・アショアは、1基あたり800億円といわれ、2基なら1600億円。また、1基あたり100人程度の要員が必要とされ、維持するためのコストもかかります。

(島田)
こういう事態なので防衛費が増えるのは当然だという意見がある一方で、闇雲に増額して国民生活全般を圧迫するのならば本末転倒だという意見もあります。
防衛費の配分をどう重点化するかといった点も含め、国会で議論になりそうですね?

(増田)
はい。防衛省は、来年度予算の概算要求で、過去最大となる5兆2551億円を計上しました。6年連続の増額要求です。北朝鮮の脅威がこれだけ大きくなっている以上、政府が、防衛装備の拡充を目指すのは当然だと思います。

j170905_04.jpg

ただだからといって、防衛費を「聖域」にしていいわけではありません。財政事情が厳しいなか、社会保障や教育など他の分野とのバランスも考えなければなりません。装備の費用対効果も、精緻に検証する必要があります。脅威の質を冷静に分析した上で、適正な装備を選ぶ。そして、新しい装備がどのような能力を持ち、どのような効果があるのかを、きちんと国会で説明する。そうした努力を謙虚に行ってこそ、防衛費の増額に対する国民の真の理解が得られるのではないでしょうか。

(島田)
日本は外国に攻撃を加える打撃力は持たず、日米安保条約に基づいてアメリカに依存していますが、独立国として国民の安全を守るために必要な防衛力を備えるのは当然です。
しかしながらミサイル防衛システムは万能ではないわけですから、やはり北朝鮮に対して核やミサイルによる威嚇や攻撃は無意味だと悟らせる外交攻勢が必要になります。
安倍総理も繰り返し各国首脳と電話会談を重ねていますが、現状はどうなんでしょう?

(増田)
日本政府は、北朝鮮に対話の意思がないことが明確になったとして、アメリカと連携して、制裁の強化に向けた新たな国連安保理決議の採択を目指しています。
具体的には、北朝鮮への石油の輸出制限や、北朝鮮が中国やロシアに派遣している労働者の人数の制限などを、決議に盛り込もうとしています。

j170905_05.jpg

しかし安保理常任理事国の中国やロシアは、なお慎重な立場を崩していないため、日本は、両国への働きかけを強めることにしています。安倍総理は3日にプーチン大統領と電話で会談したのに続いて、7日には極東のウラジオストクで直接会って会談します。
ここでプーチン大統領に協力を求め、共同歩調の確約をとることができるかどうか。安倍総理の首脳外交の成果が厳しく問われる局面です。

j170905_06.jpg

(島田)
とにかく重要なことは、軍事衝突、とりわけ第2次朝鮮戦争のような事態が起きるのは
避けなくてはいけないということです。
従って、経済制裁などの圧力を梃子にして対話に持ち込むという道筋を描くことが大切なのですが、ただそこで、アメリカと北朝鮮の直接取引で全てが決まるのでは困ります。
日本の意思を反映させる外交の組み立てが重要ですね?

(増田)
はい。日米は、緊密な同盟国ですが、それぞれの国益は、微妙に異なる部分があります。アメリカにとっては、北朝鮮に大陸間弾道ミサイルの開発をやめさせることが最も重要で、それをやめさせる代わりに、日本を射程に収める中距離弾道ミサイルや核保有については、黙認してしまう恐れも否定できません。そうならないために、日本はこの問題で、決して「蚊帳の外」になってはいけないと思います。むしろ、日本は、問題解決に向けて外交的な主導権を取るべきで、例えば、北朝鮮以外の「5か国協議」の開催を呼びかけることも検討する価値があると思います。関係国5か国が北朝鮮問題について話し合う場を設けることは、問題の平和的解決を模索する第一歩になり得ると思いますし、日本がこの問題における重要なプレイヤーであると各国に印象づけることにもつながると思います。

j170905_07.jpg

(島田)
確かにイランの核開発を巡る6か国協議の場合でも、イランを除く関係国6カ国が協議を重ねて制裁を強めた結果、一定の成果を得ることができたという先例もあります。

(増田)
それだけに、当面の日ロ外交、日中外交が重みを増していると思います。

(島田)
危うい言動を繰り返す軍事国家・北朝鮮をどう押さえ込むかは、日本にとって深刻な問題ですし、21世紀の世界にとっても大きな課題です。
地道な歩みではあっても、危機の回避という成果を生み出す外交努力を、引き続き見守り
たいと思います。

(島田 敏男 解説委員/増田 剛 解説委員)

キーワード

関連記事