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「北核実験強行 打つ手はあるのか?」(時論公論)

出石 直  解説委員
津屋 尚  解説委員

北朝鮮は6回目の核実験を強行しました。今回の核実験はこれまでで最大規模とみられ、北朝鮮は「ICBM=大陸間弾道ミサイルに搭載するための水爆実験に完全に成功した」と成果を誇示しています。ご覧の3つの観点から軍事担当の津屋委員とともに、この問題についてお伝えします。

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まず今回の核実験によってどのような脅威が新たに生じたのでしょうか。
津屋さん、北朝鮮は「水爆実験に完全に成功した」と強調しています。これをどう見ますか?

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(津屋)
▼まず、本当に水爆だったのかという点ですが、地震の規模から推定される
爆発の威力は極めて大きく、原爆よりもはるかに強力な「水爆」だった
可能性は十分にあると専門家は指摘しています。
▼過去の核実験と比べても、その威力は桁違いです。
防衛省は爆発の威力はTNT火薬に換算して70キロトンと分析しており、
これまでで最大だった前回、去年9月の核実験の6倍以上と、
広島や長崎に投下された原爆と比べてもはるかに大きな核爆発でした。
実際にはもっと大きな爆発だったと指摘する専門家もいます。
▼さらに注目すべき点は、水爆をICBMに搭載する段階にまで至っていると
北朝鮮が主張していることです。

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・こちらは北朝鮮がきのう核実験の直前に公開した写真です。
キム・ジョンウン委員長の前にある「ひょうたん型」の物体を
北朝鮮は「水爆」だと主張しています。

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・この物体が、単なる模型なのかどうかはわかりませんが、
専門家は、「水爆」としては標準的な形だと指摘しています。

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・水爆は、「核分裂」が引き金となって「核融合」を誘発し、
極めて大きな核爆発が起きる仕組みで、ひょうたん型はそれに適した形だ

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ということです。
・北朝鮮の主張が事実であれば、ICBM用に“小型軽量化”した「水爆」が存在することになるだけに、更なる分析が注目されます。

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(出石)北朝鮮はことし7月、ICBMの初めての発射実験に成功しています。弾道ミサイル技術を向上させ、アメリカ本土をも核攻撃できる能力を着実に備えつつあるものと見られます。北朝鮮の核・ミサイル開発はこれまでとは異なる次元に突入したと受け止めるべきでしょう。
キム・ジョンウン委員長は先月29日のミサイル発射の後、「グアム島をけん制するための前奏曲だ」として今後も発射を繰り返すと予告しています。今月9日の建国記念日に向けて、新たな弾道ミサイルの発射や核実験など、さらなる挑発に出る恐れもあります。

【制裁強化と軍事攻撃】
(出石)核実験を受けて各国は制裁の強化に向けて動き出しました。ここからは制裁強化と軍事攻撃の可能性について見ていきます。

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制裁強化策の中で、もっとも効果があるとされるのが石油の禁輸措置です。しかしこれについては一般の人達の生活をも脅かすことになるとして、中国やロシアが反対しています。
また仮に石油の取引きを一定程度制限することができたとしても、その効果は限定的と言わざるを得ません。
ロケット燃料などの北朝鮮への販売、供給は安保理決議で禁止されており、中国からの輸出は2014年以降、ゼロが続いています。その一方で自動車や航空ガソリンの輸出は増えています。今もミサイル発射が繰り返されている現状から考えますと、品目を偽るか、あるいは制裁対象から除外されている人道目的の名目で入ってきている可能性が高いと見られます。制裁は、核ミサイル開発をやりづらくすることはできても、これを完全に止めることはできないと考えるべきではないでしょうか。

そんな中でにわかに注目されているのがアメリカによる軍事攻撃です。
津屋さん、アメリカが軍事攻撃に踏み切る可能性はどのくらいあるのでしょうか?

(津屋)
・アメリカがただちに軍事攻撃に踏み切る可能性は低いと思われます。
しかし、今回の核実験を受けて、軍事攻撃の選択肢は現実味を増したとの受け止めも広がっています。
・アメリカは、自国が北朝鮮の核の脅威にさらされる事態を断じて容認しない立場です。アメリカ本土を狙うICBMが来年にも完成するとの分析も伝えられる中で、今回の核実験によって、アメリカの危機感が増したのは確かです。

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・マティス国防長官は、トランプ大統領から攻撃オプションの詳しい説明を求められたことを明らかにした上で、「北朝鮮の全滅は望んでいないが、そうするための多くの選択肢がある」とかつてなく強い言葉でけん制しました。
さらに、「グアムを含むアメリカ領土や同盟国を脅かせば、北朝鮮は圧倒的な反撃に直面することになる」とも述べ、北朝鮮が予告しているグアム周辺へのミサイル発射などの挑発に対しても、強い警告を発しました。
・アメリカ太平洋軍や在韓米軍は、実際に作戦が発動されるかどうかは別としても、トランプ大統領の決断に備えて、核関連施設への限定攻撃など様々なレベルの軍事作戦の準備を水面下で進めているものとみられます。

【鍵を握る中ロ】
(出石)朝鮮半島を取り巻く情勢が一段と厳しさを増している中で、その動向が注目されるのが中国とロシアです。中国は北朝鮮にとって最大の貿易相手国ですし、ロシアも北朝鮮との経済的な結びつきを強めています。両国が対話による解決を目指すのなら、最大限の影響力を発揮して北朝鮮を交渉のテーブルに引きずり出す努力をすべきでしょう。北朝鮮が核ミサイル開発を続け、これに対抗してアメリカの東アジアでのプレゼンスが高まることは、中国やロシアにとってもけっして好ましいことではありません。両国がどこまで危機感をもってこの問題に取り組むかが、ひとつの鍵だと思います。

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【結論】
(津屋)忘れてはならないのは、北朝鮮の核武装を食い止める時間は残り少なくなってきているという現実です。
経済制裁の強化も進められていますが、効果が出るには一定の時間がかかります。アメリカは対話による解決も排除していませんが、核の放棄が前提であり、核保有国として認められることにこだわる北朝鮮とでは、条件がまったくかみ合っていません。このままいくと世界は、北朝鮮が核を保有する現実を容認するのか、あるいは、力によってそれを奪い去るのか、どちらをとってもあり難くない状況に近づいていってしまうように思います。

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(出石)
最後に強調したいのは、北朝鮮を変えられるのは北朝鮮でしかないということです。
北朝鮮は、核実験の成功で、アメリカと対等に渡り合える核ミサイル大国になったと有頂天になっているようですが、実際には、核実験やミサイル発射を繰り返すたびに制裁は強化され北朝鮮を取り巻く環境は厳しくなっています。さらに津屋委員が指摘したように、これ以上挑発がエスカレートすれば、アメリカが軍事的な措置に踏み切る可能性すら出てきています。核ミサイル開発によって北朝鮮は破滅の道を歩んでいるということに早く気づかせることが肝要です。
そのためには日米韓はもちろん、中国、ロシアも一緒になって、北朝鮮に圧力をかけ続けながら、誤りに気づかせるよう懸命に説得していくしかありません。対話と言いますと、とかく北朝鮮の要求を呑むとか、譲歩をすると受け取られがちですが、そうではありません。北朝鮮が破滅の道を歩んでいることに気づかせるための説得を続ける、そのための対話、毅然とした交渉が必要と考えます。
(出石 直 解説委員/津屋 尚一 解説委員)

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