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「歳出圧力をどう抑え込む」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

国の来年度の概算要求がきょう各省庁から提出されました。一般会計の要求額は4年連続で100兆円の大台を超える見通しです。要求額が膨らんだ背景と、今後の予算編成の課題について考えます。

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解説のポイントは三つです

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1 強まる歳出圧力
2 社会保障費にどう切り込むか
3 危うい低金利頼みです。

まず主な省庁の要求額をみてみます。

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▼厚生労働省は、高齢化にともなって社会保障費が膨らむことから実質的に過去最大となる31兆4298億円となりました。
▼防衛省は、北朝鮮による弾道ミサイルに対する防衛を強化するための費用などを盛り込み、過去最大となる5兆2551億円。北朝鮮情勢の緊迫化に伴って、安全保障面でも歳出圧力が強まっています。
▼国土交通省は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックにむけた羽田空港の機能強化や大雨の災害対策の費用など6兆6944億円を要求。今年度の当初予算に比べて15%あまり拡大しています。

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この結果、一般会計の要求総額は、101兆円前後に達する見通しです。

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政府は、これまで円安などを背景に業績が好調な企業からの法人税収などを活用して、財政健全化の取り組みを進めてきました。しかし昨年度は国の税収が7年ぶりに前の年度を下回り、55兆5000億円程度にとどまりました。来年度の税収がのびるかどうかもおぼつかないなかで、歳出の要求は依然税収を大きく上回る巨額なものとなっています。

なかでも歳出圧力が目立つのは、社会保障費です。

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高齢化にともなう医療費や年金などの増加分=いわゆる自然増は6300億円に膨らみました。2020年度末までに、待機児童をゼロにするという目標にむけ、保育の受け皿を整備するための財源も500億円規模にのぼるとも見こまれるなど、歳出圧力は膨らむ一方です。

こうしたなかで、政府は、財政健全化の計画に基づいて、社会保障費全体の伸びを5000億円程度に圧縮しようとしています。どのような方法をとるのでしょうか。

大幅な削減策として考えられているのが、医療費の20%程度を占める医薬品の公定価格の改定です。

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公定価格とは医療機関が患者に薬を出す際の価格です。

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これに対し医療機関が卸売業者から購入する医薬品の実勢価格は、業者間で価格競争が起きるため、この公定価格を下回ることが多いといいます。そこで実勢価格を調査して、公定価格をよりやすい実勢価格に近づけることで、国が医薬品に支払う予算を少なくできるというものです。

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もうひとつの方法は、薬の効能の広がりに応じて価格を見直すことです。

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たとえば去年はオプジーボという薬の公定価格を大幅に引き下げました。この薬は、もともと一部の皮膚がんに対する効能がうたわれていました。対象となる患者は比較的少数に限られ、製薬会社にとっては、莫大な薬の開発費用を回収するには、それだけ高く売らなければ投資が回収できません。ところがこの薬はその後一部の肺がんにも効果があることがわかりました。対象となる患者の数は大幅に増え、高い値段をつけなくても投資が回収できるとして、価格はおよそ半分に引き下げられたのです。

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財務省では、公定価格の見直しを通じて数百億円から一千億円規模の予算削減効果が見込めると期待しています。

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ただ、こうした手法は、従来からあったもので、新しい話ではありません。また6300億円の伸びを5000億円の伸びに抑えたところで、歳出が大幅に拡大することには変わりはないわけで、より抜本的な予算の見直しが求められています。

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そこで焦点となっているのが、医療機関に支払われる診療報酬や、介護事業者に支払われる介護報酬などの改定です。
現在医療や介護のコストが膨らんでいる背景のひとつに、医療の必要度が低い高齢者が、高度な医療機関に入院していたり、重症患者むけの病院に症状の軽い高齢者が入院したりしているケースが多いことが指摘されています。

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こうした中で今回の予算編成では、診療報酬や介護報酬を見直したり、病院や介護施設に入っいる高齢者を在宅で介護を受けられるようにする政策を推し進めようと考えています。
具体的には、たとえば、医療の必要度が低い患者を入院させている高度な医療機関には、報酬を少なくする。逆に、自宅で介護を受けている高齢者に対する医療や介護への報酬を高くすることなどが考えられます。

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ただ在宅での医療や介護が増えれば、そのための医師や看護師の確保も必要となります。

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そのために、医療や介護を効率化することで生じる財源を、どう生かしていくのかも課題となります。

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こうした改革は診療報酬と介護報酬の改定を同時に行うほうがより効果的に進められますが、来年は2年に一度行われる診療報酬の改定と、3年に一度行われる介護報酬の改定が同時に行われるという6年に1度の年に当たります。医療と介護の連携やコスト削減を進めるのに、この機会をのがしてはなりません。

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 ところで今回の概算要求の中で、去年の要求額を下回ったものに国債費があります。

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国債費とは、政府の借金の元本と利息の支払いです。国の借金が増える中、本来は増えるはずの国債費がマイナスとなった背景には日銀の金融政策があります。

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日銀は去年9月、大量の国債を買い入れることで、10年の長期金利を0%程度に抑える新たな政策を打ち出しました。

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政府が今回国債費を見積もった際に前提とした10年ものの金利の想定は1点2%で、去年の1点6%に比べ0点4パーセントも低くなっています。利息の支払いにお金がかからないなら良いではないか、と思われるかもしれませんが、ここに重大な問題が隠されています。

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通常政府の借金が増えれば、その政府が発行する国債の金利は高くなります。

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お金をきちんと返してもらえないのではと考える投資家が増えるために、金利を高くしないと貸し手が見つからないからです。金利が高くなれば利払いも増える。つまり痛みが生じます。
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いわば金利の上昇という赤信号が点滅することで、財政悪化の危機感が生まれるのですが、いまの日本では金利が抑えられているため、痛みを感じにくくなっています。
そこでわたしはお風呂に浸かったかえるの寓話を思い起こします。

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かえるの入ったお風呂の下には、財政悪化という炎が燃え上がっています。

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本来であればお湯はあっという間に熱くなり、かえるは耐えられずに風呂から飛び出すはずです。

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しかしいまの日本は、熱くなるお湯に日銀が水を注いでぬるま湯にしています。しかし日銀のそそぐ水、つまり国債の購入にもいつか限界が来ます。
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かえるは、温度が少しずつあがっていることに気づきません。そして知らぬ間にお湯が熱くなってゆであがってしまうのです。

毎年毎年税収を大きく上回る歳出を繰り返しては借金を膨らませている日本の財政。しかし痛みを感じなくとも、症状は刻々と悪化しています。ゆでがえるにならないよう、財政健全化に向けた取り組みをしっかりと進めてもらいたいと思います。

(神子田 章博 解説委員)

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