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「テロ撲滅に向けて、南米コロンビアの挑戦」(時論公論)

別府 正一郎  解説委員

【はじめに】
中東を始め世界各地でイスラム過激派などによるテロが相次ぎ、テロ組織の解体と平和の定着が大きな課題になっています。こうした中で、国際社会が、今、そのモデルになるのではないかと注目している国があります。去年、内戦終結に向けた努力が評価され、大統領がノーベル平和賞を受賞した南米のコロンビアです。コロンビアの挑戦を通して、テロ撲滅に向けたヒントを探りたいと思います。

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【解説のポイント】

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①    まず、「半世紀の内戦に終止符」が打たれたコロンビアの現状を見ていきます。
②    その上で、和平定着への鍵を握る「元戦闘員の社会復帰」について見ていきます。
③    最後に、コロンビアの取り組みが、どのように「テロ撲滅のモデル」となりえるのかを考えます。

【コロンビア内戦とは】

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「コロンビアの国民は3世代にわたって平和を知らない」。半世紀以上続いた内戦を、コロンビアの人たちをこう表現します。死者は20万人以上。戦火で住んでいた家を追われた国内避難民は740万人。中東のシリアやイラクよりも多く、世界で最も多い国です。各地に多くの対人地雷が埋められ、被害にあう人の数はアフガニスタンやカンボジアより多い年もあります。

【「コロンビア革命軍」とは】

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内戦は、農村を基盤にした「コロンビア革命軍」と政府軍の間で続きました。「革命軍」は、結成当初は、特権的な地主層を攻撃する左翼ゲリラを標榜していましたが、次第に変質し、違法な麻薬ビジネスに手を染め、コカインをアメリカなどに売りさばくようになります。これに加えて、重要な資金源として身代金目的の誘拐事件を繰り返します。日本人もしばしば標的になり、2003年には自動車部品会社の現地法人の副社長が殺害される事件も起きました。
爆弾テロなど一般市民への無差別な攻撃も繰り返すようになり、最盛期には国土の3分の1で独自の支配を確立し、2万人を超える戦闘員を抱える南米最大の「テロ組織」と言われるようになりました。

【武装解除が完了】

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2010年に大統領に就任したサントス氏は、前の政権がアメリカの協力を受けながら進めた掃討作戦で多数の幹部が殺害され、「革命軍」が弱体化したと判断すると、和平交渉に乗り出します。そして、4年の交渉を経て、去年、和平合意が結ばれ、ことし6月、最後まで組織に参加していたおよそ7000人の戦闘員が武器を置きました。

【膨大な元戦闘員】
しかし、このまま平和が訪れるかどうか予断を許しません。和平が定着するのか、それとも、再び内戦の混乱に戻るのか、国は重大な岐路に立っています。

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鍵を握るのが、元戦闘員の扱いです。
内戦は、政府軍と「革命軍」の対立にとどまらず、実際には、ほかの反政府組織や政府軍の支援を受ける民兵組織など、少なくとも9つの武装集団が入り乱れたものでした。この10年あまりで、投降するなどした元戦闘員は、あわせて6万人と膨大な数になります。

【「子ども兵士」も】

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この中には、幼いころから武装集団に強制的に参加させられたり、戦闘員の両親から生まれたりした「子ども兵士」が少なくとも数千人いると見られています。密林での戦闘に明け暮れ、学校に通ったこともなければ、仕事をしたこともなく、銃や爆発物の扱いには長けていても、「現金」で買い物したこともなければ、「公園」で遊んだ事もない元戦闘員もいるということです。

【社会復帰プログラムとは】
こうした元戦闘員を放置すれば、再び武装集団に参加し、国が内戦に逆戻りする危険を抱えているとして、コロンビア政府は、元戦闘員を対象にした大規模な社会復帰事業を進めています。

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そのプログラムの内容です。武装解除したと認定されると、対象者は、
▼まず病気や怪我などの治療を受けます。
▼また、大多数が、長年の戦闘で心の傷を受けており、心理カウンセリングを受けます。
▼さらに、教育と職業訓練がプログラムの最大の柱です。
▼ボランティア活動も義務付けられています。
プログラムを終了するのに平均して6年半かかるということです。コロンビア政府は、これまでに1万8000人あまりの元戦闘員を更生させたと成果を強調しています。

【課題】
ただ、課題もあります。

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▼これまでにプログラム参加者のおよそ4人に1人が終了せずに脱落し、武装集団に戻ったり、犯罪組織に流れてしまったりした者も少なくないのが現状です。
▼加えて、深刻なのが多くの国民の間から厳しい視線が向けられていることです。「革命軍」やそのほかの武装集団によって肉親などの命を奪われた人にしてみれば、いくら和平合意に基づいているとはいえ、元戦闘員への処罰が不十分だと考える人も多くいます。コロンビア政府は、社会復帰のプログラムを脱落した人は刑事罰の対象になりえることや、重大な犯罪への関わりが疑われる者はプログラムに参加させず特別な法廷で裁くことなどを説明していますが、元戦闘員に対する根深い不信感を解消することは容易ではありません。

【世界が注目】

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しかし、様々な課題を抱えているものの、コロンビアの取り組みは、国際社会から期待を集めています。国連の安全保障理事会は、先月(7月)、元戦闘員の社会復帰を支援するための国連派遣団の設立を、日本を含む全会一致で決めました。安保理の理事国からは、「世界でテロと暴力がはびこる中で、コロンビアが和平定着のモデルになって欲しい」との意見が相次ぎました。
実際、歴史的な背景や事情に違いはあれども、テロ組織の解体と元戦闘員をどう社会に戻すのかは、各地で大きな課題になっています。

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このうち、中東のイラクとシリアでは、IS=イスラミックステートに対する軍事作戦が進んでいますが、戦闘員の多くは地元の若者たちです。私が、かつて取材で会った元戦闘員にしても、その多くが、生活のためや周囲に流されて参加したと話していました。重大な罪を犯した者や幹部が厳しい処罰を受けるのは当然ですが、多くの、特に末端の元戦闘員を社会に戻さなければ、これまでと同じように、また新たなテロ組織が生まれるだけということになりかねません。
事情は外国人戦闘員も同じです。ISに数千人規模と多くの戦闘員を送り出してきた北アフリカのチュニジアでは、帰国した元戦闘員をどう更生させるかが、国の重要課題と位置づけられています。

【テロ撲滅のヒント】
それでは、コロンビアの取り組みから、国際社会はどのようなヒントを得られるでしょうか。

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▼まず、大規模な軍事作戦で組織を追い込んだとしても、それだけでは、和平の定着には不十分だということです。元戦闘員は各地に散り、再び銃を手に取る恐れがあります。言ってみれば、戦闘員を市民に変えるための地道な取り組みを進めるしかありません。
▼次に、元戦闘員を受け入れる社会の側にも、憎しみを乗り越えるための努力が求められています。去年、和平合意が国民投票にかけられた際、反対票が上回り、いったんは不承認となりました。政府は、和解の重要性を粘り強く説明し続けることが必要です。
▼さらに、国際社会の関与も重要です。いったんは否決された和平合意でしたが、サントス大統領へのノーベル平和賞の授与が後押しする形で、前進し、まとまりました。
武装解除や社会復帰にしても、国連が支援していることで、国民の間で安心感が出ているといいます。

【終わりに】
世界各地でテロが相次ぐ中、その撲滅が簡単ではないことは明らかです。しかし、コロンビアの挑戦は、国際社会がまだ多くのことが出来ることを、改めて私たちに訴えているように思います。

(別府 正一郎 解説委員)   

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