NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「墓から見る現代社会」(時論公論)

名越 章浩  解説委員

お盆休みを利用して、お墓参りに行くという人もいると思います。
そのお墓を将来的に誰が守っていくか、不安を抱えている人も少なくないのではないでしょうか。
このお墓から見えてくる現代社会の課題について考えてみたいと思います。

j170811_00mado.jpg

解説のポイントは3つです。

j170811_01.jpg

▼広がる無縁化
お参りする人がいないいわゆる無縁墓が増えています。まずはその現状を見ていきます。
▼“送骨“に頼る現実
遺骨を納める方法も変わってきています。お寺に直接、遺骨を送る“送骨”という仕組みが生まれています。
そこから現代社会が抱える課題が見えてきます。
▼墓と向き合う
最後に私たちが、この問題にどう向き合うことができるか、考えます。

まず、広がる無縁化についてです。
皆さんのご家族、親戚のお墓はどこにあり、誰が守っていますか?

j170811_02_0.jpg

ふるさとに亡くなった親の墓があるけれども、遠いため墓参りに何年も行けていない人もいるでしょう。
自分の一人娘が嫁いだ後、先祖代々の墓を誰が守ってくれるのか、不安を抱いているという声も聞きます。

j170811_02_1.jpg

田舎の墓を整理して、現在、住んでいる都市部の墓地に遺骨を引っ越しさせる人もいると思います。
しかし、何もせず、そのまま放置し、守る人が誰もいなくなってしまった墓は、無縁墓となります。
このような場合、無縁墓はいずれ撤去されますが、その撤去費用は、例えば自治体が運営する霊園の場合、その自治体の新たな負担になってしまいます。

継承者のいなくなったお墓は、どの程度、増えているのでしょうか。
全国的な数をまとめた公的なデータはありませんが、墓を引き継ぐ人がいなくなって放置され、その墓を撤去する前に、墓を管理する寺や自治体が、埋葬されている人の名前などを官報に公告することになっています。

j170811_03.jpg

その官報の記載を、NHKが独自に調べた結果、平成25年は、あわせておよそ9000人分の墓が記載されていて、平成16年の2倍以上になっていました。
お墓の無縁化は急速に進んでいると言えます。

では、なぜこのような状況になっているのでしょうか。
最も大きいのは私たちのライフスタイルの変化です。
人口が流動化し、生まれ育った場所で死んでいくという人は少なくなっています。
また、そもそもお墓を継ぐ子どもの数も減っています。
さらに、最近では、格差の広がりも、背景の1つになっています。
墓地の管理費用を寺や霊園に毎年支払う余裕がなくなり、そのまま放置されるケースもあるからです。
お墓の問題は、まさに現代社会を映し出す鏡のようなものだと思います。

そして墓地に遺骨を納める方法も変わってきています。
墓地を購入したり、お墓を建てたりする資金がなく、そもそも遺骨が行き場を失っているケースがあるのです。

j170811_04_1.jpg

埼玉県熊谷市にある寺「見性院」には、「骨壺」が入った段ボール箱が届きます。

j1708110_0.png

この寺は、様々な事情で行き場を失っている遺骨を郵送で受け取り、境内の永代供養塔に納めて供養しています。
骨を送ることから「送骨」と呼ばれています。
遺骨を梱包して送ることに、抵抗があるという人もいると思いますが、取材を進めると、現代人の様々な事情が見えてきました。

j170811_05.jpg

例えば、年金暮らしのお年寄りが、毎日の生活だけで精一杯で、お墓を建てる余裕もなく、車も運転できないため、“送骨”を利用したケース。
また、80代の未婚の女性が亡くなり、不動産業者が押し入れを整理していたら、先に亡くなった同居者の骨壺を見つけ、引き取り手が見つからなかったため、お寺に送ってきたケースなどもありました。

j170811_06.jpg

この寺では、5年前から宗派を問わず3万円で受け入れを始めたところ、全国から届くようになり、今では“送骨”によって納められた遺骨は300人分以上にのぼっています。
お墓を建てたくても経済的な理由などで断念した人にとっては、この永代供養塔がまさにお墓で、“送骨”で納めた後も、節目にはここを訪れて手を合わせに来る人もいるということです。

このような“送骨”を引き受けているお寺は増えていて、インターネットで検索する限り、少なくとも全国の40以上のお寺などがヒットします。

一方で、地方のお寺は檀家の減少で運営が苦しく、“送骨”は皮肉にもこうしたお寺の新たな収入源になっているという側面もあります。

家を基本にした死者の埋葬と供養のあり方は、劇的に変化し、まさに過渡期を迎えているのです。

では、私たちは、いま、この問題にどう向き合うことができるのでしょうか。

j170811_07.jpg

お墓は亡くなった家族や先祖と向き合える場だと考えている人もいるでしょうし、一族の絆を確かめ、時には手を合わせながら自分の人生を振り返る場でもあると考えている人もいるでしょう。
その役目そのものは重要で、今後も大切にしたいことだと思うのですが、お墓の場所や手を合わせる対象が、これまで通りで良いのか、各家庭のもつ歴史や宗教などの事情により、その意識は極めて多様化してきているのではないでしょうか。

j170811_08_0.jpg

そもそも日本人の多くは、家を基本にしてきました。
それは、近代国家への脱皮を目指した明治時代にさかのぼります。
その時代の基礎は家でした。
明治の民法で家の継承を重視する「家制度」が定められ、先祖代々、一家がまとめて1つの墓に祭られるようになったのです。
大正時代には、家の名前を刻み込む墓石が一般的となりました。お墓は家の繁栄と家族の絆の象徴でした。
ところが、戦後、民法の家制度は廃止され、家を基礎とした仕組みは様変わりしました。
核家族化が進む中で、お墓を家で守っていくというスタイルが失われてきたと言うわけです。

これだけライフスタイルが多様化している今、墓地のあり方も1つである必要は無いのではないかという声も多く聞かれます。

j170811_09.jpg

実際、墓地をもたず、お参りするときだけ納骨堂から遺骨が機械で運ばれてくる「マンション型」と呼ばれる霊園や、遺骨を故人が好きだった海などにまく「散骨」、墓石ではなく樹木を墓標代わりにして、遺骨を土の中に納める「樹木葬」、あるいはロケットに遺骨をのせて宇宙空間に届ける「宇宙葬」などと言うものも登場してきている時代です。

先祖が守りつないできたお墓を自分の代で終わりにすることに抵抗があるという人もいるでしょうし、罰当たりなのではないかという意識が働く場合もあるでしょう。
しかし、私たちはライフスタイルの多様化に応じた、新しいお墓のあり方を模索する、選択の自由の時代に突入したといっても過言ではありません。

もちろん、従来の墓のまま継承していくのも1つの選択です。
そして、亡くなった人を悼み、家族の絆を大切に思う気持ちは、これはどんなに時代が変わっても同じである事が大前提です。
自分の家族、そして親戚がどのようなスタイルを選択していくのがベストなのか、お盆のみんなが集まるこの時期だからこそ、腹を割って話をする意味があるのではないかと思います。

(名越 章浩 解説委員)

キーワード

関連記事