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「対岸の火事ではない ロンドン高層住宅火災」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

「対岸の火事としてはいけない」、これは多くの関係者の言葉です。
ここでいう火事とは、2017年6月にイギリス・ロンドンで起きた高層住宅の火災のことです。
この火災では、外壁が大きく焼けた映像が印象に残っている方も多いと思います。火は短時間で燃え広がり、消し止められるまで2日半かかりました。およそ80人が亡くなりました。
このロンドンの火災から、何を学び取らなければならないのか。日本の火災対策の課題を考えます。

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解説のポイントです。

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▽ロンドンの火災は、なぜ大きな被害になったと考えられるのか、
▽日本には、こうした火災を防ぐための明確なルールがないという問題、
▽日本で具体的にどのような対策が必要なのか、
これを見てみます。

ロンドンの火災は、なぜ大きな被害になったのか、

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捜査当局などが調べているところではありますが、大きくは、避難と外壁の問題が指摘されています。

まず、避難にどのような問題があったのか。

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24階建ての高層住宅は、外側はすべて住居で、内側に階段やエレベーターがまとめてありました。階段は1つしかありませんでした。
その階段に煙が充満するなどしたため、避難する経路が確保できず、死亡した人が多かったことにつながったのではないかと指摘されています。

そして、ロンドンの火災の特徴として外壁が一気に燃え上がったことが挙げられます。なぜ、このような燃え方をしたのか。

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外壁には、断熱材が取り付けてあり、さらにその外側にパネルが設置されていました。
図の緑色の部分の断熱材が焼けたこと、そしてパネルの金属にサンドイッチ状に挟み込んである図の青色部分の材料が焼けたことで、大規模な外壁の火災につながったと見られています。

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断熱材やパネルに使われていた材料が比較的燃えやすいものだったのではないか、断熱材とパネルの間にある空気の層の影響で延焼が早まったのではないか、といった指摘があります。
詳しい原因は、当局の調べを待たなければなりません。

国内で比較的最近起きた高層の建物の火災としては、1996年に広島のマンションで起きたケースなどがありますが、ロンドンのように外壁を伝って火災が建物全体に広がった例はありません。
一方、海外では繰り返し起きています。

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主なものをこちらにあげます。完成間近だった中国の国営テレビやUAE=アラブ首長国連邦のドバイの63階建てのホテルなどです。こうした事例から、使われている材料や設計・施工に問題があると、断熱材だけ、あるいはパネルだけの場合でも、外壁を伝わって大きな火災になるケースがあるとされています。

では、このような火災や被害が日本でも起こる危険性はあるのでしょうか。まず、避難についてみてみます。
日本では、仮にひとつの逃げ道が使えなくなっても避難できるよう、原則2つ以上の経路をつくるようにしています。

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例えばマンションで見てみると、玄関を出ると外を見渡せる開放された廊下があって、廊下からは階段に向かって2つの方向に逃げられます。廊下に出られなくても、ベランダを使って隣の部屋や下の階に逃げられます。

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いわゆる「タワー型」の超高層のマンションでも、2つ以上の階段があり、逃げる経路も2つ以上あります。階段は、煙や炎が入らないように防火扉で守られ、地上への安全な避難を確保できるようにしています。
こうしたことから、日本では避難できなくなって大勢が犠牲になるという火災は起きにくいというのが専門家の見方です。

ただ、外壁については課題があると指摘されています。
外壁を伝わって火が広がらないようにするルールは、日本ではどうなっているのか。

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ベランダなどがあると、これにさえぎられて上の階に火が広がるのは抑えられると考えられます。

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このため、建築基準法では、ベランダなどがない場合について、窓から窓へ火が移らないよう、原則、窓の間の壁の高さを90センチ以上とるよう定めています。
しかし、外壁に取り付ける断熱材やパネルについては、規定はありません。

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また、外壁については自治体の担当者らがつくった、いわゆるガイドラインがあります。このガイドラインでは、取り付ける断熱材などの材料については一定の燃えにくいものにするよう示していますが、火が外壁を伝って上の階に広がるような延焼を防ぐことについては、明確に定めていません。
つまり、日本では、ロンドンのような火災が起きていない一方で、法律やガイドラインなどのルールという面では、対策が十分とはいえないのが現状です。

断熱材、あるいはパネルを外壁に取り付けている建物が国内にどれくらいあり、どのような材料が使われているのか、実態は良く分からないというのが実情です。

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工事を行っている建設会社、それに断熱材やパネルのメーカーなどによると、例えば外壁に断熱材を取り付けるときには、窓からの火に一定時間さらされても燃えないよう、断熱材の表面を完全に覆うようにするなどの対策をとっているということでした。これは、ヨーロッパやアメリカなど海外のルールに準じた設計をしているということです。
また、使う材料については、燃えにくいように特殊な処理をしたものに限っているというメーカーもあります。

ただ、現状に課題があると考える専門家は少なくありません。

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法律などに規定がない中で、延焼を防ぐ対策が徹底されているのか、日本の実情にあったルールがなくていいのかという指摘です。
外壁の火災の危険性を考えると民間の自主的な取り組みだけでは不十分だと思います。

外壁全体に火が回るような火災が起きるとどうなるのか。
例えば、スプリンクラーは、初期消火に威力を発揮しますが、多くの部屋が一時期に火事になると、スプリンクラーの水圧が下がって、効率的に火を消すことが出来なくなります。

そうした火災にならないようにするため、対策に何が必要なのでしょうか。

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国土交通省は、ロンドンの火災の原因分析や、国内で断熱材が使われている実態などを踏まえて、必要な対策についての検討を行うことにしています。
ガイドラインをつくった全国の行政の担当者らでつくる日本建築行政会議は、ガイドラインを見直す必要がないか協議を始めることにしています。

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いずれにしても、国レベルのルール作りが求められていると思います。

そのルール。
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具体的には、火がつかないよう、
▽外壁に取り付ける断熱材やパネルに高い不燃性を要求するようにすること、
▽あるいは欧米のルールにあるように表面を覆うなど、断熱材やパネル内部の材料に火が届かないような設計・施工を求めることが必要です。
また、仮に断熱材やパネルが燃えても、その火がそのまま上の階に広がるのを抑えるよう、▽壁の途中を燃えない材料で仕切ること、
▽一般に11階以上の建物になると、はしご車の放水が届かなくなり、消防が外壁の火を消すのは困難になります。このため、高層の建物については、外壁に関するルールを厳しいものにすること、
▽同時にこうしたことが適切に行われていることをチェックすることなどを検討する必要があると考えます。

外壁を伝って広がる火災は、短時間で建物の広い範囲が延焼し、規模の大きな火災につながります。海外の例を見ると、高層の建物では消防の消火活動が追いつかなくなるという事態になっています。
ロンドンの火災を対岸の火事とせず、国内で大きな被害を出す火災が起きないうちに、必要なルールをつくり、対策の強化や徹底を図ること。それが、いま求められています。
(中村 幸司 解説委員)

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