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「内閣改造 『人心一新』図れるか」(時論公論)

太田 真嗣  解説委員

人心一新を図り、信頼回復につなげることができるでしょうか。
安倍総理大臣は、きょう(3日)自民党役員人事と内閣改造に踏み切り、第3次安倍第3次改造内閣が発足しました。支持率低下のもとで行われた今回の改造人事の狙いと、今後の政権運営の行方を考えます。

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解説のポイントは、▼『安定最優先』と言える、今回の人事の狙い。▼これが政権の浮揚につながるのか。そして、▼今後の政権運営の行方と、信頼回復に向け、いま何が求められているか、です。

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安倍総理が、前回、内閣改造を行ったのは、ちょうど1年前の去年8月3日。直前の参議院選挙で大勝し、いわば『満を持して』の内閣改造でした。この時、安倍総理が選択したのは、多くの主要閣僚を続投させる『継続性重視』の人事。それは、高い国民の支持と強固な政治基盤のもと、「いたずらに人事をいじる必要はない」という自信の裏返しでもありました。

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それから1年。政権を取り巻く環境は大きく変わりました。閣僚の国会答弁や不適切な発言が強い批判を招き、さらに、森友・加計学園をめぐる問題などで内閣支持率は急落。
今回は、厳しい状況の転換を図り、信頼を回復するには、「人心を一新するしかない」という、いわば、『追い込まれ人事』といった形です。

そうした状況のもと、安倍総理は、どのような人事を行ったのか。
閣僚人事は19人の大臣のうち、留任は5人いう大規模なものでしたが、その中身は、実績のある経験者を集めた、『安定最優先』の人事でした。

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今回の人事で安倍総理は、▼内閣では、麻生副総理兼財務大臣、菅官房長官、▼党執行部では、高村副総裁、二階幹事長を続投させ、政権の骨格は維持しました。

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また、ゴタゴタが続き、組織の建て直しが求められる、▼防衛大臣に、安倍内閣で1年9ヶ月、防衛大臣を務めた小野寺五典さん、同じく▼文部科学大臣には、数々の閣僚ポストをこなしてきた、林芳正さんを充てるなど、多くの閣僚経験者を登用し、前回8人だった初入閣は、今回6人にとどめました。

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そうした中、目を引いたのは、岸田外務大臣率いる岸田派の優遇です。今回の人事にあたって、安倍総理は、事前に岸田外務大臣と会談。岸田さんは、希望通り、党の政策を担う政務調査会長に就任し、岸田派からの入閣は2人から4人と倍増しました。
岸田さんは、安倍総理の後継を目指す存在ですが、憲法改正をめぐっては、9条改正に慎重で、安倍総理と路線を異にしています。
安倍総理としては、来年秋の自民党総裁選挙、また、今後の党内での憲法論議を視野に入れ、岸田派の協力を確実なものにしたいという狙いがあったと受け止められています。

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さらに、▼外務大臣に発信力に定評のある河野太郎さん、▼総務大臣に、これまで安倍政権と距離を置いてきた野田聖子さんを起用するなど、党内の批判的な声などに配慮する姿勢も強調しました。

当初は、支持率低下を挽回する『サプライズ人事』を期待する声もありましたが、蓋を開けてみれば、全体として安定感のある顔ぶれとなりました。しかし、それは、「あえて人気取りに走らなかった」というより、「人選を誤り、これ以上、政権基盤が崩れるようなことは避けたい」という、安倍総理の危機感の表れと言って良いでしょう。

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では、今回の人事で支持率低下に歯止めをかけ、政権浮揚につなげることはできるでしょうか。

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安倍総理にとって、今回は、第1次政権の時も含め5回目の内閣改造です。過去のNHKの世論調査を見ますと、これまでに実施した4回の内閣改造のうち、3回は、改造後、内閣支持率が上がりました。ただ、さらに、その2ヶ月後を見ますと、支持率を維持していたのは、皮肉にも、改造後に支持率が上がらなかった時だけで、なかには、新閣僚が辞任し、改造前より支持率を下げたケースもありました。
今回の改造を国民がどう評価するかは、これからですが、仮に支持率が上がったとしても、それを維持するのは容易ではありません。

また、自民党内で総理への求心力が高まったかどうかも判断が難しいところです。党内では、当選を重ねた、いわゆる『入閣待機組』が、およそ60人いるとされ、選考にもれた議員には、不満も溜まっています。

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「内閣改造するほど総理の権力は下がり、解散するほど上がる」という名言は、戦後、最も長く政権を維持した佐藤栄作元総理の言葉です。今回の人事で足元を固め直し、衆議院の解散・総選挙のタイミングを探りたい安倍総理にとって、この先達の言葉は、重く圧し掛かっていることでしょう。

それでは、今後、安倍政権はどう進んでいくのか。まずは、政治スケジュールを確認しましょう。

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▼この秋には、臨時国会と衆議院の補欠選挙が予定されています。そして、▼年明けからの通常国会を経て、▼来年9月には自民党総裁、▼12月には衆議院議員が任期満了となります。
通常ですと、「では、新たな体制で秋の臨時国会にどう臨むか」という話になりますが、いまの安倍政権の状況を考えると、その前に、現に、身に降りかかっている火の粉を振り払うことが先決です。

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PKO部隊の日報をめぐる問題で、野党側は、「速やかに閉会中審査を開くべきだ」と主張しているほか、加計学園の獣医学部新設などをめぐっても、再度、予算委員会を開くよう要求しています。こうした問題について、丁寧に説明を重ね、世論の納得が得られるかどうかは、その後の臨時国会、あるいは、補欠選挙の行方にも影響を与えることになりそうです。

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また、秋の臨時国会では、憲法改正をめぐる問題が大きな議論となります。安倍総理は、「会期中に自民党の改正案をまとめ、国会に示したい」としていますが、その後の支持率低下を受け、党内からは、「拙速にことを進めれば、政権の命取りになりかねない」という懸念も出始めています。また公明党も、山口代表が「憲法は、政権が取り組む課題ではない」と述べるなど、慎重な対応を求めており、政権内部の温度差の違いが明確になっています。

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さらに、来月1日に行われる、民進党の代表選挙も憲法論議に大きな影響を与えることになりそうです。代表選挙には、これまでに枝野元官房長官、前原元外務大臣が立候補の意向を表明していますが、2人の間には、憲法改正をめぐるスタンスに大きな違いがあります。
与党内には、「本気で憲法改正を目指すなら、野党第1党の協力は不可欠だ」という声も根強くあります。しかし、民進党の新執行部の方針がどうなるか見通しはつかず、先行きは不透明です。

改造後の記者会見で、安倍総理は、「5年前、政権を奪還した時の原点に立ち返り、謙虚に丁寧に国民の負託に応えるため、全力を尽くす。ひとつひとつの政策課題に結果を出すことで、信頼回復に向けて、一歩一歩努力を重ねていく」と強調しました。

「政権の姿勢、そのものに国民の厳しい目が向けられている」と指摘される中、信頼回復に特効薬はありません。今回、安倍総理が目指した『人心一新』。それは、人事で目先を変えることではなく、国民が「政治は変わった」と実感して、はじめて実現するということを、改めて確認しておきたいと思います。

(太田 真嗣 解説委員)

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