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「自衛隊『日報』問題 なお残る政治責任」(時論公論)

増田 剛  解説委員

南スーダンPKOに派遣された自衛隊の活動記録「日報」。この日報を、陸上自衛隊が破棄したと説明しながら、実際には、保管していた問題について行われていた、特別防衛監察の結果が公表されました。防衛省で、情報の公開や管理をめぐって、誤った判断が積み重ねられていた実態が明らかになり、稲田防衛大臣は、責任を痛感するとして、辞任しました。
防衛省・自衛隊への国民の信頼を大きく揺るがしている、この日報問題と、稲田氏の責任について考えます。

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解説のポイントです。

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まず、監察結果をもとに、日報をめぐり、組織的な隠蔽が行われていたといわれても仕方がない実態についてみていきます。
その上で、日報の非公表を決めた過程での稲田氏の関与を認定しなかった監察結果が、妥当かどうかを考えます。
そして就任以来、その「資質」を問われ続けた稲田氏の責任と、安倍総理の任命責任について考えます。
まず、この日報問題の経過について、振り返ります。

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去年10月、防衛省は、南スーダンの首都ジュバで政府軍と反政府勢力が争い、死傷者が出た、去年7月7日から12日にかけての日報について、情報公開請求を受けました。防衛省は「陸自がすでに破棄した」として、12月2日、不開示を決定。ところが、その後、陸自とは別組織の、統合幕僚監部に日報のデータが保管されていたことがわかり、結局、2月7日になって、公表しました。
文書管理が極めてずさんで、情報公開請求への対応も不誠実。
これだけでも問題ですが、それに留まらず、この間、更なる事実が隠されようとしていました。

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破棄したとしていた陸自の司令部に、日報が保管されていたのです。陸自内部で、このことがわかったのは、1月17日。上層部に報告されましたが、これまでの説明と矛盾するため、公表しない方針となり、データは、消去するよう指示が出されました。
まさに、あったものがなかったことにされようとしたのです。
これが明るみになったのは、3月15日。
NHKの報道によってです。

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稲田氏は、徹底した調査が必要だとして、大臣直轄の防衛監察本部に、特別防衛監察の実施を指示しました。
「防衛省・自衛隊に改めるべき隠蔽体質があれば、私の責任で改善していきたい」。当時の稲田氏の発言です。
それから4か月余り。監察結果は、ようやく公表されました。中身をみていきます。

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今回の一連の問題の発端となったのは、陸自の不適切な対応であり、陸自の司令部が、今後、情報公開請求が増えることを懸念して、当初、意図的に不開示にしたと指摘しています。
そもそも、日報は、PKO部隊の日々の活動を記録した貴重な文書。自衛隊の活動に対する国民の理解を深めるためにも、公開を促進すべきもので、隠すべきものではありません。
また、陸自に日報が保管されていたことを公表しないと最終的に決定したのは、黒江事務次官だと認定しました。
黒江次官は、2月16日、岡部陸幕長に対し、「統幕にあった日報を公表しており、問題ない。陸自に保管されている日報は、外部に説明する必要はない」という方針を伝えました。
次官が主導して、組織的な隠蔽が行われたということです。
都合の悪いことは、隠蔽し、証拠を消すという、情報公開の精神をないがしろにした対応で、言語道断です。
黒江次官と岡部陸幕長は責任を取る形で退任することになりました。
では、こうした事態が、なぜ起きたのかを考えてみます。

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防衛省が「統幕で見つかった」として日報を公開したのは、2月7日。日報には、去年7月当時、ジュバで「戦闘」が起こり、宿営地の近くでも、銃撃戦があったことが記載されています。
現地の争いを、国または国に準ずる組織の「戦闘行為」ではなく、単なる「武力衝突」としてきた安倍政権の見解との落差は明らかでした。

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当時、「文書の隠蔽」と「政府見解との食い違い」を、連日、国会で追及されていた稲田氏の答弁は、安定感を欠きました。
総理の「秘蔵っ子」である稲田氏を守らなければならない。
防衛省幹部に、官邸への忖度が働いたのでしょう。
「稲田氏をこれ以上、傷つけると、防衛省の立場が危うくなるという空気があった」と語る関係者もいます。
国民の信頼を得るために何をなすべきか。本来、立ち返るべき原点を忘れ、組織防衛に走った防衛省幹部の出した結論が、「隠蔽」であり、今日に至る混乱の道を開いたのです。


稲田氏をめぐっては、今月中旬、新たな疑惑が浮上しました。

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実は、稲田氏は、陸自が日報を保管していた事実を報告されていて、公表しない方針も了承していたと、報道されたのです。
稲田氏は、3月、国会で、「報告は受けていない」と答弁しており、これが虚偽答弁だった疑いもあります。
そもそも、特別防衛監察は、稲田氏自身が実施を指示したもの。
調査を命じた張本人が、疑惑の中心になるという異例の展開です。

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稲田氏は、「非公表や隠蔽を了承することなどあり得ない」と、関与を強く否定。防衛監察本部の聴取にも応じました。

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ただ、結果として、今回の監察では、稲田氏の関与について、解明できませんでした。「2月13日と15日の会議で、幹部から、日報の存在に関する何らかの発言があった可能性は否定できないものの、稲田大臣が公表の是非に関する方針の決定や了承を行った事実は、なかった」。つまり、日報の保管を稲田氏に伝えたという証言があった一方で、これを否定する証言もあり、事実関係を認定できないということです。ただ、これに疑問を感じる関係者は、多いようです。
ある防衛省幹部は、「役人の感覚として、これほど重要な問題を大臣に報告しないことはあり得ない」と話しています。
また、稲田氏が報告を受けていないとすれば、1月17日から、報道で保管が明るみに出る3月15日までの2か月間、稲田氏は、蚊帳の外に置かれていたことになります。
稲田氏が省内を統率できていなかったということでしょうか。
監察結果を受けて、稲田氏は、「責任を痛感している」として、辞任しました。狭まる包囲網に耐え切れなかったというのが、実際のところでしょう。
ただ、国民の多くが関心を持っている、稲田氏の隠蔽への関与について、不透明な部分が残った以上、これで一件落着とはなりません。
野党側は、国会でも、真相解明を進める必要があるとして、稲田氏も出席して閉会中審査を開くよう求めています。
なぜ、関係者の主張に食い違いがあるのか。稲田氏には、政治家として説明責任を果たすことを求めたいと思います。

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稲田氏は、大臣就任以来、問題視される言動を繰り返し、その「資質」を問われ続けてきました。
記憶に新しいのは、東京都議会議員選挙での応援演説。
「防衛省・自衛隊としてもお願いしたい」と投票を呼びかけました。
「自衛隊員の政治的行為を制限している自衛隊法に違反している」。野党側は、罷免を要求しました。この発言は、都議選での自民党の大敗の原因のひとつとされています。
それでも、安倍総理は、稲田氏をかばい続けました。その稲田氏が、今回、辞任に追い込まれたことは、安倍総理の判断の過りを浮き彫りにした格好です。
今、世論調査で、安倍内閣の支持率は急落しています。
敵と味方を峻別し、自らに近い人間は、問題があっても、擁護する。安倍総理の姿勢が、このように映っていることが、国民から、不信を招いているのではないでしょうか。
来週、安倍総理は、内閣改造を行います。
国民の信頼を回復するために、どのような布陣をしくのか。
安倍総理の判断を待ちたいと思います。
(増田 剛 解説委員)

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