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「3年後の開幕へ 2020東京の課題」(時論公論)

刈屋 富士雄  解説委員

3年後の2020年7月、東京オリンピックが開幕します。
今週は、東京都庁前を始め、全国各地で大会3年前カウントダウンイベントが行われました。
ついに3年を切った東京オリンピック・パラリンピック。
その準備状況と課題を考えます。

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解説のポイントは、
①2020への息吹~まず、全国いたるところで動き始めている2020年に向けた息吹をご紹介します。
②漂う停滞感~次に肝心な東京やスポーツ関係者の盛り上がりが今ひとつの理由を確認します。
③プラスの空気へ~その上で、プラスの雰囲気を作り出すために、何が必要かを考えていきます。

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2020年に向け、全国的にはすでに大きく動き出しています。

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その一つがホストタウン構想です。
参加国をホストタウンとして迎え入れ、交流を深めていこうと、全国252の自治体が、74の国と地域とすでに交流を開始しています。静岡県の藤枝市では、イタリアの柔道チームの強化合宿を実施。カナダのホストタウン和歌山市は、事前合宿の受け入れが決まりました。又ジャマイカのホストタウン鳥取県は陸上競技の指導者の相互交流が組まれました。

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もう一つ大きな全国的な動きは、組織委員会と大学との連携です。
今年の4月時点で、全国795の大学が参加しています。全国の大学で、オリンピックのシンポジウムやパラリンピックの理解促進活動のほか各種ボランティアの育成など活動が活発化しています。

2020年に向けて、全国各地で多くの息吹が感じられます。

しかし肝心の東京での準備が遅れぎみで、期待感というよりは、むしろ停滞感の方が漂っているように感じます。
その原因は、あれほど歓喜に包まれた招致の時の計画が、次々と消えてしまったことと、一兆数千億円もかけて、何が残るのか見えてこない点です。

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招致の時、大都市のど真ん中でコンパクトかつダイナミックな大会を開催し、オリンピックの未来を見せるという東京の計画は、高く評価されました。しかしその後は、メイン会場の白紙撤回、エンブレムの白紙撤回、そして大幅な計画変更。そもそも最初の計画が現実離れしていたわけですから、変更や修正は当然の流れだった訳ですが、繰り返される変更案にIOCジョン・コーツ副会長は、「東京大会の価値を大きく傷つけ、信頼関係を壊す」と不快感をあらわにしました。

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そしてこの同じ時期に、国際的にも2024年のオリンピック招致活動から各都市が次々と立候補を取りやめ、残ったパリとロサンゼルスを、話し合いで2024と2028に割り振ろうという流れができました。
現在のオリンピック招致活動の無意味さ、事前プレゼンテーションの空虚さを、はからずも東京が証明してしまいました。IOCも当初、東京大会がオリンピックの未来への改革を進め、新しい道筋を示してくれると期待していた雰囲気がありましたが、現在は、東京・パリ・ロサンゼルスと続くであろうこの後の11年間に、オリンピックの未来への改革を進める方向へと変わっていきました。

この停滞感は国内のスポーツ関係者も同じで、2020年の東京大会を機に、日本のスポーツ界や東京という街も大きく変わるという期待感はなかなか膨らんでいかないような気がします。

1兆数千億円もかけて、何が残るのか。
各種調査で、2020年大会の経済効果は、前後の期間も含めておおよそ30兆円といわれています。
しかし実感できるものがないとプラスの空気は出てきません。

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前回の1964年の東京大会は、国民に多くのものを残しました。アジアで初めてのオリンピック開催という国際的な存在感、経済発展、インフラ整備、国立競技場などの施設はレガシーとして残り、国民は元気になりました。
国際的にも、戦後からの復興した姿と平和への決意を発信しました。

最近の大会でイギリスロンドンは、2兆円以上を投入しましたが、大規模な都市開発を成功させ、ボランティアを定着させ、市民の健康意識を変え、国際的なアンケートでも75%がイギリスに行ってみたいと答えるなどイメージアップに成功しました。

今回の東京は、今のところ何が残るのかが見えず、期待感が膨らみません。

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その象徴が新国立競技場です。大会後の使い方がなかなか決まらず、聖火の置く場所も未定。屋根がありませんので、開会式や閉会式の時、台風が来たらどうするつもりなのかも分かりません。その中で昨日ようやく大会後は球技専用とする方針が固まりました。トラックを外して観客席を増設し収入を増加させ、サッカーやラグビーの試合によって収益を確保するというのは、負の遺産とならないための現実的な決断ではありますが、又同時に大切なものを切り捨てての苦渋の選択と言えます。旧国立競技場は陸上界では特別な場所でした。カールルイスが人類初の9秒8台を記録し、男子走り幅跳びで8M95という大記録が刻まれた場所でもあります。又この方針によって、首都東京から、日本選手権や国際大会を開ける陸上競技場が無くなります。陸上界やファンの落胆は計り知れません。

では、2020年に向けて期待の空気をどう膨らませたらいいのでしょうか。

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東京都はまず、大会運営の土台とも言える輸送問題に目処をつける必要があります。輸送の生命線とも言える環状2号線、選手村と都心を結ぶ道路の開通のスケジュールと駐車場の確保が見えてきません。この道路は、築地市場を通ります。豊洲への移転の後、地下にトンネルを掘り、片側2斜線の道路を確保、又築地市場の跡地は、関係車両3000台の駐車場にするという計画で、去年の暮れには目途が立っている予定でした。先週ようやく環状2号線は2020年3月までに完成させるという都の方針が報じられましたが、交通量の多い地上の道路で、大会4ヶ月前の完成で果たして大丈夫なのか、しっかりとした検討が必要です。駐車場についても、早急に調整を進めないと市場の移転と絡みますので間に合いません。輸送は大会運営の評価を決める最大の要素ともいえます。選手たちのスケジュールや体調にも影響を与え、アスリートファーストの根幹が揺らぎます。私も夏冬合わせて8回のオリンピックを経験していますが、輸送がスムーズではない大会はいい印象はありません。1996年のアトランタオリンピックでは、バスターミナルでの連携が悪すぎて混乱し、各国のメディアに酷評されました。まずは、大会運営の土台に目処を立てることが、前向きの議論する上での前提になると思います。

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プラスの雰囲気へと変える二つ目のポイントは、東京大会の特徴を、前面に押し出すことです。IOCとの話し合いの中で、東京大会の掲げる大きな看板の一つは、「男女の格差是正」と「若者へのアピール」です。
東京オリンピックで実施される種目は、史上最多の339種目、女子選手の比率が過去最高の、48,8%と、男女の格差がほぼ是正された大会という看板が東京にはかけられました。そして若者に人気の種目が増えました。サーフィンやスケートボード、バスケットの3人制3X3などを中心に、若者にどうアピールしていくのか、大会関係者やスポーツ界は、オープンに議論していく必要があります。

そして、最後に何をレガシーとして残すのかの議論の活発化です。

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今日本のスポーツ界は、10代の選手たちの活躍が目立って来ました。卓球の17歳平野美宇選手や100Mで9秒台を目指す18歳サニブラウン選手をはじめ水泳の池江選手、サッカーの久保選手の他、バドミントン,体操、柔道でもいわゆる東京オリンピック世代が、続々と名乗りを上げています。その選手たちの夢の舞台をしっかりと整え、何を残していけるのか。

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ベイエリアと神宮外苑エリアを、2020以降日本のスポーツの拠点になるような総合的な整備をという声が出ています。早めに具体的な計画をまとめ発表すれば、大会後に残るものの具体的なイメージがわいて来ます。

開催決定から大会までは7年、これまでの4年間は、見直しと撤回と修正を繰り返してきました。残り3年そろそろ先の話をして、プラスの空気を吹き込んでいく時だと思います。

(刈屋 富士雄 解説委員)

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