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「経営陣一新で東電は生まれ変わるか」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

東京電力の経営トップがこの夏、一新されました。新経営陣には、大きくいって二つの課題が待ち受けています。信頼の回復をはかること。そして福島第一原子力発電所の廃炉や賠償を確実に行うために収益力を強化することです。その課題にどう取りくんでいくのか、解説のポイントは三つです。

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▼新体制のキーワードは主体性
▼収益力向上の道遠し
▼改めて求めたい信頼回復の取り組み
です。

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先月行われた株主総会で、東電の経営陣の顔ぶれは大きく変わりました。
新しい会長には、日立製作所出身の川村隆氏が就任しました。川村氏はリーマンショックの後の平成21年、日立製作所が過去最大の赤字に陥った際に、会長兼社長に就任し、不採算部門の合理化を大胆に進めてV字回復を果たしました。
社長の小早川氏は昭和63年に東京電力に入社。一貫して営業畑を歩み、去年4月に分社化された電力の小売部門の子会社の社長についていました。小早川氏は54歳。前任の広瀬社長と比べると、10歳若返ったことになります。若返りは、他の主要なポストでも一斉に進みました。
文字通り、人心一新が図られた形です。

しかし、その新経営陣。さっそく試練を迎えています。
今月10日、川村会長と小早川社長は、原子力規制委員会による聞き取りに臨みました。
規制委員会は、東京電力が再稼動をめざす新潟県の柏崎刈羽原発の安全性を審査していますが、今回の聞き取りは、福島第一原発で事故を起こした東電の安全に対する姿勢を問うために行われたものです。

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規制委員会は、福島第一原発の汚染水の処理などについてたずねました。これに対する東電側の答えに「国の検討を注目している」という発言があったことなどから、
「東京電力の主体性が見えない。主体性がない会社に、柏崎刈羽を運転する資格はない」と、厳しい批判を浴びたのです。

この話を聞いて、私は新経営陣が就任直後に行った記者会見を思い出しました。

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そこで発表された新たな経営方針のなかに、「主体性をもって、福島事業をやりとげる」という項目があったのです。私は、「東電はこれまでも主体性をもってやっていたのではないのか」と疑問に思い、質問しました。

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社長の答えは、「やらされているのではなく、主体性をもってやるという意識を、社員一人ひとりにもってもらうことが必要」というものでした。確かに東電の経営の主導権は、事実上株式の過半数をもつ国に握られています。しかし現場を支えているのは、あくまでも東電の社員です。「主体性をもってやる」という意識の変革を現場の社員一人ひとりに浸透させていくことが、まず最初の課題となります。

その上で、経営上の目標となるのが、福島第一原発事故の費用を負担するための収益力の向上です。

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経済産業省が見積もった福島第一原発事故の費用のなかで、東電は、廃炉にかかる全ての費用8兆円と、賠償にかかる費用のうち、半分にあたる4兆円を負担します。これを30年程度で確保する計画で、一年あたりにすると余裕をもたせた数字で5000億円を確保するとしています。

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しかし実際には、原子炉内に溶け落ちた核燃料いわゆるデブリの状態がわかっていないため、将来さらに負担が膨らむ可能性があります。福島の責任を確実に果たすためには、5000億円とは別に巨額の利益を継続的に生み出していくことが求められています。

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これに対し現状はどうかというと、昨年度は、廃炉と賠償の費用3000億円を負担したうえで、2276億円の利益を出しました。

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しかし本来は廃炉と賠償で5000億円規模の負担が必要なわけですから、利益から2000億円をそちらにまわすと276億円しか残らない計算となり、目標からは程遠い状況といえます。

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加えて、おりしも電力市場の自由化が進むなか、利益を増やそうと安易に電気料金を引き上げることはのぞめません。

そこで新経営陣の使命となるのが、一段のコスト削減です。
国内の電力会社のなかでも割高な「送電にかかるコスト」や、資材調達などのコスト削減を究極まで進めることで、年間1800億円の収益改善をはかるとしています。

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さらに他の電力会社との事業の統合を通じた合理化による収益改善もめざしています。

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実際に東電は先月中部電力との間で、両社のもつ火力発電事業を完全に統合することで合意しました。あわせて20あまりの火力発電所を、その時々の電力の需要に応じて、もっとも燃料効率の良いものから順番に動かしていくことなどを通じて、5年以内に、1000億円を超える収益改善効果をめざすとしています。

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東電は、こうした他社との事業統合を、家庭や事業所に電気を送る送配電事業などでも進めていきたい考えです。しかし他の電力会社は、東電が福島第一原発事故の費用負担を抱えていることなどから、警戒心を抱いています。提携関係の相手探しは容易ではありません。

そして収益の改善にむけて最大のカギをにぎる、しかし最も困難な道といわれるのが、柏崎刈羽原発の再稼動です。

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再稼動はあくまで地元の理解が大前提ですが、現状では、地元の了解を得るのは難しい情勢です。こうした状況を踏まえ、新経営陣は、新たに原子力事業を社内カンパニー化し、技術的な問題や危機管理、安全対策から情報発信まで一元的に管理する組織運営に変えることを検討しています。

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現場の情報をつかんでいる部署と、外部に発信する部署を同じ組織の中にまとめることで、正確な情報発信を徹底し、信頼の回復につなげたいと考えています。

ただ、その情報発信という点でも、デリケイトな対応が求められています。
今月13日、一部の報道で、川村会長が、福島第一原発で放射性物質・トリチウムを含んだ汚染水が大量に発生していることについて、「国の基準以下に薄めて海に放出することを「判断している」」と発言したと伝えられました。

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これに対し風評被害の払拭に懸命に取り組んできた地元福島県内の漁協はいっせいに反発しました。そして19日には全国漁業協同組合連合会が川村会長に直接抗議する事態となりました。これに対し川村会長は、「会社としてトリチウムの汚染水を海洋放出すると判断した事実はない」と釈明をせまられました。

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「新しい会長は、東電の置かれた状況をきちんと認識していないのでは」という厳しい声も聞かれました。原発事故で甚大な被害を受けた福島の人々の気持ちに本当に寄り添っているのか。経営陣が発信するメッセージには、厳しい目が注がれています。

今後東電が原発の再稼動をめざすにせよ、他社との提携をはかるにせよ、もっとも大切なことは社会の信頼を取り戻すことです。現場の社員一人ひとりが何事も人任せにせず、文字通り主体性をもって、安全最優先の精神と、正確で迅速な情報発信の姿勢を貫いていく。その地道な取り組みを長きにわたって積み重ねてこそ、東電は生まれ変ったと認めてもらえる日がくるのではないでしょうか。

(神子田 章博 解説委員)

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