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「トランプ政権 漂流の半年」(時論公論)

髙橋 祐介  解説委員

トランプ大統領が就任してから半年を迎えました。“アメリカファースト”の名のもとに、「既存のワシントン政治をひっくり返す」と宣言し、強烈な個性で“わが道”を突き進む一方で、批判を浴び、混乱を招き、政権を揺るがしかねない疑惑にも早くも直面しているトランプ大統領。この6か月を通して、トランプ政権の今後を考えます。

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ポイントは、3つあります。

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まず、トランプ支持はいわば“安値安定”。政権への支持率は、近年まれに見るほど低くても、意外な底堅さもあるのが特徴です。
次に、“何もできない懸念”。当初から“予測不能”“何をするかわからない”と警戒されてきたトランプ大統領ですが、半年後の今、なすべきことを“何もできないかも知れない”という懸念も生じています。
そして、アメリカの“求心力の低下”。トランプ政権のもとで、世界はますます多極化に向かうかも知れません。

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もしトランプ大統領が、夏休み前に“成績表”を受け取るとしたら、そこには何と書いてあるでしょうか?
無論わずか6か月で判断は難しいのは確かです。さまざまな見方も出来るでしょう。しかし、“オバマケア見直し”“税制改革”“メキシコ国境の壁”など、公約の柱に掲げた政策がことごとく実現のメドすら立っていない現状で、積極的に評価する声が多いとは、お世辞にも言えないはずです。

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現に、この半年を通して、トランプ大統領の支持率は、ほぼ一貫して低迷しています。
こちらの最新の世論調査では、トランプ大統領を「支持する」と答えた人が36%に対して、「支持しない」と答えた人は58%でした。近年の歴代どの大統領と比べても、支持率が低いのは確かです。
就任から半年の支持率としては「戦後最低」そんな文字もメディアに躍りました。
ところが、「意外に悪くない」トランプ大統領はそうツイッターでつぶやき、あくまでも強気の姿勢を崩しません。
実際、この調査を党派別にみてみますと、与党・共和党の支持層でトランプ大統領を支持する人は圧倒的に多く、野党・民主党の支持層では圧倒的に少ないことがわかります。
「共和党の支持層が離反しない限り、あわてる必要は全くない」そんな計算が、大統領の強気を支えているのでしょう。
しかも、こうした“世論の分断”に加えて、アメリカ国民が大統領の手腕を評価する際、最も重視するのは、その時々の経済です。いまアメリカの景気は拡大し、足もとの経済は決して悪くありません。経済への不満が高まらない限り、トランプ支持は意外に底堅いのです。

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その半面、トランプ政権には今、去年の大統領選挙でロシアと密かに癒着していたのではないかという疑惑が暗雲のように圧し掛かっています。メディアは連日この疑惑を追及し、野党・民主党からは大統領の弾劾を求める声も出ています。
しかし、大統領を弾劾して罷免できる議会の上下両院は、与党・共和党が多数を占めているため、共和党議員らがトランプ大統領を見限らない限り、弾劾の可能性は極めて低いでしょう。多くの議員らが大統領と距離を置こうとするのは、世論の変化に応じて「このままでは自分の選挙も危うい」とみた時でしょう。今のところ、そうした離反の兆しは表面化していません。
その一方で、疑惑の真相解明に向けて今、政権からも議会からも独立したモラー特別検察官が、司法の立場から捜査を進めています。捜査には時間がかかり、疑惑は長期化する可能性も指摘されています。その結論が出るまでは、政権運営を取り巻く環境が、劇的に改善することもまたないのです。

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実は、トランプ政権は、もうひとつ深刻な問題を抱えています。政策の実務を担う官僚が圧倒的に不足しているのです。
アメリカでは、政権交代のたびに、政府職員のうち幹部らが、議会による承認を受けて、そっくり交代します。“政治任用”と呼ばれる制度です。いまトランプ政権で、そうした議会からの承認が必要な主なポスト566のうち、これまでに議会による承認が済んでいるのは僅か49、政権から指名され議会の承認を待っている状態も138にとどまっています。
つまり、政権発足から半年後の今、“政治任用”の主なポストのうち、実際に職場で働き始めているのは、全体の10%にも満たないのです。日本で言えば、霞ヶ関の中央官庁で、局長や課長らが軒並み空席になっているかたちです。近年のどの政権と比べても、トランプ政権の人事の骨格づくりは遅れています。
原因は、議会の承認が遅いと言うよりも、その前段となるトランプ政権による指名が遅いからです。指名が遅れているのは、人事の決定権をホワイトハウスが握り、たとえ優秀な人材でも、選挙戦でトランプ候補を批判していた場合は排除しているからだという見方もあります。
しかも、議会の承認が必要ないホワイトハウスの中枢は、大統領の長女やその夫、選挙戦以来のトランプ陣営の幹部など、いわば身内で固められ、そうした大統領の“インナーサークル”と呼ばれる側近らと、各省庁との“意思疎通”にも問題が指摘されています。トランプ政権は、まだ選挙キャンペーンから統治のモードに切り替っていないのでしょう。
“既存のワシントン政治の刷新”を訴えてきただけに、経験が豊かで政策の実務に通じた人材を幅広く集めるのが難しいという事情もありそうです。しかし、こうした人事の停滞が続く限り、トランプ政権の政策実行能力には、疑問が拭えません。


では、そんなトランプ政権は、世界にどのような影響を与えるのでしょうか?先日ドイツで開かれたG20=主要20か国のサミットで、今後の行方を暗示する象徴的な場面がありました。

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G20の主要なテーマは、地球温暖化対策や自由貿易の推進に向けての協力でした。温暖化対策の“パリ協定”から脱退し、TPP=環太平洋パートナーシップ協定からも離脱を表明しているトランプ大統領は、ここでも“アメリカファースト”に固執してみせたのです。
結局G20は、アメリカを除いて“パリ協定”を推進していくことを宣言。また、自由貿易については、「保護主義と闘い続ける」としながらも、「正当な貿易上の対抗措置を認める」とするトランプ大統領の主張が並んで記されました。
こうした多国間サミットの場で、みずからリーダーシップを発揮することがいわば「当たり前」とされてきたアメリカの首脳が、何の理念も語ることなく、ただひとり主要国の潮流に背を向けたことは、やはり異常といわざるを得ません。

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そんなトランプ大統領に、世界はどんな眼差しを向けているのでしょうか?
こちらは、トランプ大統領、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席、それにドイツのメルケル首相の4人を対象に、それぞれ「国際情勢に正しく対応すると信頼するかどうか?」を世界37か国でたずねた世論調査です。
無論その国ごとに価値観は異なり、理想の指導者の姿にも違いはあるのでしょう。しかし、少なくともトランプ大統領は、ほかの誰にも増して、信頼されていないことがわかります。世界はいま“突出したリーダーが不在の時代”に入ろうとしているのかも知れません。

アメリカという国が、経済でも軍事でも、今なお世界で群を抜いた力を保っているのは確かです。その一方で、戦後一貫して国際秩序の安定を主導してきたアメリカは、いわば“特別な国”から“普通の国”へと緩やかに変わっていくのでしょう。本来そうした現象は、眼には見えにくいはずです。しかし、トランプ政権この半年の漂流は、アメリカがまさに今、変貌しつつある現実を、私たちの目の前にまざまざと示したと言えるでしょう。
(髙橋祐介 解説委員)

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