NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「外来アリ 広がる脅威」(時論公論)

土屋 敏之  解説委員

強い毒を持つ南米原産の外来アリ、「ヒアリ」が各地で相次いで発見されています。兵庫県尼崎市で国内で初めてヒアリが確認された、と環境省が発表してから1か月あまり。大阪、愛知、東京などこれまでに5つの都府県で確認され、既に繁殖していたと見られるケースもあります。そこで近年世界的に拡散しているヒアリの問題を3つのポイントから考えていきます。

j170718_mado.jpg


j170718_1.jpg

 まず、現時点で日本のヒアリの脅威はどれほどのものなのか。続いて、国内初確認からわずか1か月ほどで各地で見つかっている背景。そして、今後の対策について、根絶に成功したというニュージーランドの取り組みを参考にしながら考えます。

j170718_2.jpg

 ヒアリは赤茶色をした小さなアリです。日本でよく見かける黒いアリは1cmぐらいのものが多いのに対しヒアリは体長2.5mmから6mmぐらいと半分程度からそれ以下です。よく見ると背中に2つこぶ状のものがあり、お尻には毒針がありますが、危険なので見かけても決して手で触れないで下さい。また、繁殖すると数十cmにもなるアリ塚を作る性質もあります。

j170718_3.jpg
 
 このヒアリが脅威とされる大きな理由は毒針で人や動物をしばしば刺すことです。刺されるとやけどのような激痛がする上、時には激しいアレルギー反応、いわゆるアナフィラキシーを起こすことがあり命に関わる危険もあります。呼吸困難や動悸などアナフィラキシーが疑われる症状が出た場合は、すぐに医療機関にかかり適切な治療を受ける必要があります。他にも海外では家畜が刺されることによる畜産業への被害やヒアリが電気設備に入り込んで損害を与えると言った報告もあります。加えて在来のアリを駆逐し生態系を変えてしまう恐れがあります。
 こうしたことから、2005年に作られたいわゆる外来生物法でも、生態系などに被害を及ぼす恐れのある“特定外来生物”に指定され輸入や野外に放つことなどが原則として禁じられています。

j170718_04_3.jpg

 このヒアリがなぜ相次いで発見されているのでしょう?今回最初に見つかったヒアリは中国から神戸港に来た貨物船のコンテナに入っていたものです。しかし、その後愛知や東京で見つかったヒアリはこれとは別の貨物船で運ばれたと見られており、横浜港で見つかったものはいつ、どこから入ってきたかもはっきりしません。要するに、ヒアリは一度だけ入って広がったのではなく何度も繰り返し日本に入っているのです。そして発覚したきっかけは、尼崎市で積み荷を出すためにコンテナを開けた事業者が見慣れないアリを見つけて環境省に報告したことで、そこから全国の主要な港で調査が始まりました。

j170718_04_4.jpg

 つまり、いま発見が相次いでいる理由は単に「初めて詳しく調べたから」に過ぎないのです。特に気になるのは、大阪港では女王アリが、横浜港では幼虫などが見つかった点です。ヒアリは夏場、羽のあるメス、つまり新たな女王候補が生まれて飛び立ち繁殖する時期だとも言われています。繁殖能力の無い働きアリだけでなく女王アリや幼虫が屋外で見つかったことは、既に日本の生態系の中でヒアリが繁殖し広がり始めている可能性を示しており、身近な脅威になりつつあると言えるでしょう。

j170718_5.jpg

 ヒアリの侵入は日本だけの問題ではありません。元々南米原産のヒアリはアメリカには20世紀前半に入っていましたが、太平洋を越えてオーストラリアや中国まで一気に広がったのは2000年代になってからのことです。グローバル化が進み、人や物の移動が盛んになるにつれてヒアリが持ち込まれるケースが増えていると見られます。

j170718_6.jpg

 では、ヒアリが日本に定着・繁殖するのを防ぐにはどうすればいいのでしょうか?参考になりそうなのがニュージーランドの対策です。ニュージーランドは農産物輸出国として農業・畜産業の脅威となる外来アリ対策に力を入れているとも言われます。2000年以降、3度ヒアリの侵入が確認されましたが、日本の農林水産省に相当するMPI、第一次産業省によれば、根絶に成功して現時点でヒアリは存在しないとしています。
 その対策の鍵は、とにかくしっかりした監視の仕組みを作り見つけしだい駆除することです。ニュージーランドでは「外来アリ監視プログラム」を実施して、全国の港や空港などに5万個ものエサ付きの罠を設置し新たな侵入を食い止めています。それでも侵入してしまった場合でも、1993年に作られたバイオセキュリティー法に基づいて早期発見・早期駆除を行うと言います。

j170718_7.jpg

 一例として2006年のケースが挙げられます。ニュージーランド北部で侵入後2~3年経っていると見られるアリ塚と3万匹のヒアリが見つかりました。これに対し半径2kmの範囲が法律に基づいて管理エリアに指定され、エリア内に置かれていてヒアリが入るおそれがある全ての物は許可無く動かすことが禁じられ、その間に徹底的な調査と駆除が行われたのです。その後もこの2km圏内の調査は繰り返し行われ、それでもヒアリが見つからなかったため3年後にようやく根絶宣言が出されました。対策には860万ニュージーランドドル、およそ7億円の費用がかかったとされます。ひとたびアリ塚が出来るほどに定着・繁殖を許してしまうと、根絶にはこれだけ力を入れる必要があるのです。
 日本の例えば東京や大阪のように毎日大量の人や貨物が出入りする所で半径2km内の物品の移動を止めることができるか考えると、その困難さは想像に難くありません。そもそも日本の外来生物法では確認されたヒアリ自体を移動させることは禁じているものの、ヒアリがいるかもしれないという理由で周辺の物品の移動を止めることはできません。だからこそまず水際で侵入を防ぐこと、そして見つけしだい広がる前に対処することが重要なのです。

j170718_8.jpg

 各地でヒアリの発見が相次ぐ中、今月に入って環境省に加え国土交通省や財務省など関係省庁の連絡会議が設けられました。そして今後、中国などとコンテナの定期航路を持つ全国68の港湾にわなを設置したり、リスクの高い場所には殺虫エサを置く方針が打ち出されました。一時的な対策に留まらず、定常的な監視システムを一刻も早く作る必要があります。
 そして、今回尼崎で事業者が法律上の義務ではないにもかかわらず環境省に連絡してくれたことからヒアリ発見につながったことを考えると、港湾管理者や輸入業者などへの周知をさらに徹底し実効性のある調査・通報制度を整備すべきでしょう。

j170718_9.jpg

 さらに、一般市民への啓発も必要です。第一に健康被害を避けるため、そして目撃情報がヒアリの早期駆除にもつながるためです。ニュージーランドでは第一次産業省が一般向けの簡単な資料を作りHPでも公開しています。ヒアリの具体的な見分け方を示したり、見つけたら行政にすぐ連絡するよう電話番号も明示しています。もちろん港湾などの水際で食い止められれば一番ですが、外来生物がその防衛線を越えてしまった場合、このように市民の協力を得やすい仕組みを整備しておくことも重要ではないでしょうか。
 国内では幸いまだヒアリによる健康被害などは確認されていません。しかし、限られた港湾などしか調査されていない現状では、既に秘かに各地に侵入している可能性は否定できません。南米原産のヒアリが日本の気候や生態系の中でどの程度繁殖しうるのかも未知数です。
 だからこそ油断せず、一方で怖がりすぎず冷静に、対策を急がなくてはならないと思います。
 (土屋 敏之 解説委員)   

キーワード

関連記事