NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「都議選大敗 安倍首相改憲戦略の行方は」(時論公論)

安達 宜正  解説委員

東京都議会議員選挙から10日あまりがたちました。安倍総理大臣は秋の臨時国会に自民党の憲法改正案を示したいしていますが、都議選での大敗が今後の憲法論議に影響を与えるという見方が出始めています。都議選の選挙結果が安倍総理の改憲戦略に与えた影響、そして、議論の行方を考えます。

j170714_00mado.jpg

j170714_01.jpg

安倍総理は今週9日、訪問先のスウェーデンで憲法改正をめぐり、「2020年という目標を掲げたのは、新しい日本の姿をしっかりと示す年にしたいと考えたからだ」と述べました。安倍総理はこれまでも自民党総裁の立場としたうえで、2020年改正憲法施行を目指し、秋の臨時国会で自民党の憲法改正案を示したいとしていました。都議選大敗後もこの方針を基本的に堅持。来月3日にも内閣改造・自民党役員人事を断行、新たな体制でこの課題に取り組む考えを示したものと見られます。みずからの在任中に憲法改正を実現するという、安倍総理の強い想いからの発言ですが、都議選に敗れ、かつ内閣支持率も低下していることから、与党議員からも「拙速な議論は避けるべき」ではないかという声が出始めました。

こうしたなかでの憲法改正論議。まず、その現状をみてみます。

j170714_02.jpg

▼国会では衆参両院の憲法審査会が再開され、国と地方の関係、二院制などをテーマに参考人質疑や各党の自由討議が行われています。その一方で、自民党では憲法改正推進本部で年内の改憲案とりまとめに向けた議論を続けられています。

安倍総理のこれまでの発言から推察すると、改憲に向け、次のような日程を描いてるように見えます。

j170714_03.jpg

▼自民党内の議論を加速させ、秋の臨時国会閉会前の11月下旬頃をメドに国会に提出する。▼来年・2018年の通常国会で自民党案をもとに本格的な審議を始め、早ければ通常国会中、あるいはその年の臨時国会で発議を行う。▼憲法改正国民投票の運動期間は60日から180日ですので、▼国民投票は早ければ2018年中、遅くとも2019年半ばまでには実施。その国民投票で過半数の賛成を得て、▼東京オリンピック・パラリンピックが開かれる2020年夏までに改正憲法を施行する日程です。ただもっとも、来年2018年9月には自民党総裁選挙、12月には衆議院議員の任期満了が待ち構えています。総理在任中に改憲を実現するには、それを勝ち抜くことが前提となります。

j170714_04.jpg

安倍総理が憲法改正の項目に上げているのは▼自衛隊の明記、▼高等教育の無償化の2つです。それに加え、自民党などでは▼災害時などの緊急事態への対応を定める、緊急事態条項などが議論されていますが、ポイントは安倍総理が提起した2つの課題です。

j170714_05.jpg

まず「自衛隊の明記」。安倍総理は憲法9条。戦争の放棄を定めた第1項、戦力の不保持や交戦権の否認を盛り込んだ第2項を残したまま、自衛隊の存在を明記するという考え方です。しかし、これを実現するにはいくつものハードルがあります。1つ目は自民党内の議論のとりまとめです。自民党は野党時代の2012年、憲法改正草案をまとめています。ここでは憲法9条を改正し、国防軍を設置するとしています。党内には総理の考えとこの草案との整合性を問う声があり、石破前地方創生担当大臣は「交戦権を有することを明らかにしなければ、憲法改正議論に何の意味があるのか」と批判し、9条改正議論は草案をもとに議論すべきとしています。一方で、9条の改正には慎重な声もあります。加えて、先の都議選。自民党は過去最低の23議席に留まり、大敗しました。党内からは自民党案のとりまとめを急がす、連立を組む公明党などとの合意を優先すべきだという意見も出ています。

j170714_06.jpg

2つ目のハードルはその公明党です。公明党は憲法改正をめぐり、「加憲」の立場です。現行憲法を評価し、足りない部分を加えるという立場です。安倍総理の「憲法9条を残したまま、自衛隊を明記する」考え方はそれに配慮したものとも言え、公明党にも安倍総理が歩み寄ったと評価する声があります。しかし、憲法9条の平和主義は立党の精神、そのまま堅持すべきだという意見が強いことも確かです。山口代表は「経済の再生やアベノミクスの推進などが政権の目標。憲法は政権が取り組む課題ではない」と安倍総理の改憲論議をけん制しています。また、都議選では小池知事率いる都民ファーストの会との選挙協力で勝利しただけに、憲法問題でも自民党に引きずられるべきではないという声も強くなっています。3つ目が野党第1党の民進党です。民進党は共産党など野党4党と「安倍政権の下の改憲には反対していく」ことで合意しています。党内には憲法改正に積極的な議員もいるにはいますが、執行部が衆議院選挙で共産党などとの選挙協力を進めていく方針を決めている以上、憲法改正、とりわけ9条をめぐる問題で自民党との協議に入ることは考えにくいのが現状です。もっとも、国会の勢力分野を見れば、衆参両院ともに与党と改憲勢力で憲法改正の発議に必要な3分の2の議席を占めています。数の上では民進党の賛成を得られなくても、発議は可能です。ただ、憲法改正には国民投票での過半数の賛成が必要です。自民党には承認を確実にするには、国会で大多数の賛同を得た上で、国民投票にかける必要があるという意見が強くあります。ただ、こうした難しい状況は理解しつつも、安倍総理。改憲に向けた議論や運動をけん引する保守派への配慮からも、自衛隊明記の方針は譲らず、最後まで議論の焦点になっていく可能性は高いと思います。

一方で具体的テーマとして、議論の対象になると見られるのが、「高等教育の無償化」です。憲法には義務教育の無償化がうたわれています。これを高等教育まで広げる考え方です。

j170714_07.jpg

野党のうち、日本維新の会が改正案の1つとして、打ち出しており、民進党にも理解を示す声があります。自民党にはまず、このテーマでの与野党合意を優先させたらどうかという意見もあります。ただ、これにも、「憲法改正は必要ない。法律を整備し、財源を確保すれば十分」だとか、「財源が足りなくなれば憲法違反になってしまう」といった反対や慎重な声は学識経験者や国民にもあります。

安倍総理が意欲を示す憲法改正。以上、見てきましたとおり、国会での発議までには多くのハードルが待ち構えています。それに加え、NHKが都議選後に行った今月の世論調査。

j170714_08.jpg

安倍総理が秋の臨時国会に自民党の改正案を提出する考えを示したことを評価すると答えた人が36%なのに対し、評価しないと答えた人は52%です。国民には期限を区切った形で憲法改正議論が進むことへの「とまどい」や「反発」もあることは確かです。

憲法改正の発議権は国会にあります。安倍総理大臣自身も「国会での建設的な議論を行う過程で、幅広い合意形成につとめる」考えを強調しています。安倍総理の発言によって、具体的な日程とともに語られ始めた、憲法改正議論ですが、最終的には主権者・国民が判断することは言うまでもありません。その国民が何を考え、一致点はどこにあるのか。憲法をめぐる議論は国会議員一人ひとりが国民の声を広く聞きながら、議論を深めること。そういう姿勢が何よりも重要ではないでしょうか。

(安達 宜正 解説委員)

キーワード

関連記事