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「信頼回復 厳しい道のり」(時論公論)

伊藤 雅之  解説委員

東京都の小池知事率いる都民ファーストの会が圧勝し、自民党が大敗した東京都議会議員選挙から1週間。NHKの世論調査によりますと、安倍内閣を「支持しない」と答えた人は、「支持する」と答えた人を上回り、安倍政権への逆風が、全国的に広がっていることが明らかになりました。国民の意識を分析し、安倍政権の信頼回復への道のりを考えます。

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【内閣支持率 不支持が支持上回る】
「安倍1強」といわれる政治状況は、高い内閣支持率と「自民党1強」ともいえる高い自民党の支持率を背景に、国政選挙で4連勝という「選挙の強さ」によるものです。東京都議会議員選挙での大敗は、その根底を揺るがしかねないと衝撃が走りました。
これは東京都だけの現象だったのでしょうか。

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NHKの今月の世論調査の結果、安倍内閣を「支持する」と答えた人は、先月より13ポイント下がって35%。「支持しない」と答えた人は、12ポイント上がって48%と、支持と不支持が逆転しました。調査方法が異なるため単純な比較はできませんが、35%という内閣支持率は、第二次安倍政権の発足以降、最も低いといえる水準で、支持と不支持が逆転したのは、安全保障関連法の審議が行われていたおととし8月の調査以来です。
政権への逆風が、東京都だけでなく、全国に広がっていることが明らかになりました。

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また、支持と不支持の理由をみると、支持では「他の内閣よりよさそうだから」という消極的な理由が、不支持では、「人柄が信頼できない」が、それぞれ最も多く、政権に対する不信感の高まりを示しています。

【政党支持 支持なしが47%】
もうひとつの注目点。自民党は、政党支持率も下がっています。

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自民党の支持率は30.7%で先月より5.7ポイント下がっています。民進党も2ポイントほど下げて5.8%でした。野党第一党の民進党が、政権批判の受け皿になり得ていない現状も同時に明らかになりました。さらに注目すべきは、「特に支持する政党はない」と答えた人が、自民党の支持率を上回り、47%という高い水準に達していることです。

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一方、都議会議員選挙の結果については、46%の人が「よかった」と答えました。これは、既成政党が支持を失っている結果といえ、与野党とも政治に対する不信があることを深刻に受け止めるべき状況にあります。

【国会では加計問題で閉会中審査】

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安倍総理大臣は、都議会議員選挙の結果について、「政権にゆるみがあるのではないかという厳しい批判があったのだと思う」と述べ、初心に立ち戻って、信頼回復に全力を挙げる考えを示しています。政権のゆるみとは、国家戦略特区での加計学園の獣医学部新設をめぐる問題、自民党に離党届を提出した豊田議員の暴言、稲田防衛大臣の防衛省、自衛隊をめぐる発言などを念頭に置いたものです。
きょう国会では、加計学園の問題をめぐって、閉会中審査が行われました。政府・与党にとっては、野党側の言い分も聞き、説明責任を果たすことで、信頼回復に向けた第一歩したいという位置づけでした。では、何が明らかになったのでしょうか。

【食い違う認識 溝を埋めるためには】
審査には、前川・前文部科学事務次官が参考人として出席しました。

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前川前次官は、①「新設のプロセスが非常に不公平で不透明な部分がある。初めから『加計学園』ありきに決まっていて、プロセスを進めてきたというふうに見える」、②総理大臣補佐官や当時の内閣官房参与から、獣医学部新設について働きかけを受けたとした上で、「背景に総理大臣官邸の動きがあったと思う」と指摘しました。
これに対し、山本地方創生担当大臣は、①「新設を検討する条件に合致していることは、文部科学省や農林水産省との間でも確認しており、プロセスは適切だった」、②「岩盤規制を突破するには地域を限定したところでやるしかない。国家戦略特区の趣旨に沿う」と反論しました。
行政がゆがめられたとする前川前次官、一点の曇りもないと否定する山本大臣。新たな事実や資料は示されず、認識は食い違い、主張は平行線をたどりました。だとすれば、今後は、なぜ認識が食い違うのか、その溝をどうしたら埋められるのかがポイントになってきます。双方が主張する事実関係そのものが間違っているのか、それとも誤解や何らかの思惑があるのか、そして、なぜ、こうした事態を招いたのか。国民が知りたい点は、そこにあります。
今回の審査では、野党側が求めた安倍総理大臣は、外国訪問中で出席できませんでした。

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NHKの世論調査では、加計学園をめぐる問題で、「行政がゆがめられたことは一切ない」とする安倍総理大臣の説明について、「あまり納得できない」、「まったく納得できない」という人が、あわせて73%を占めました。安倍総理大臣の出席を求めてのさらなる閉会中審査、あるいは臨時国会の召集時期が焦点になってきます。
こうした問題では、政権の側が、国民の納得する調査と説明を尽くすことが本来の姿だと思います。しかし、今回は、政府内で、文部科学省の前の事務方のトップと内閣府が対立する構図で、内閣府の側の調査が徹底していないという指摘もあります。国会でも、手詰まりの状態が続くようなら、国民の批判は収まらないでしょう。中立的な第三者に調査をゆだねるべきだという声が広がることも想定されます。政権にとっては厳しい事態です。

【信頼回復 厳しい道のり】
安倍政権が、信頼回復に向けて取り組むべき課題は数多くあります。安倍政権は、都議会議員選挙で示された批判は、政権が進めてきた政策そのものではなく、説明責任や政治姿勢にあると考えています。

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このため、まずは、九州北部の記録的な豪雨による被害に万全の対策を講じること。また、経済の安定が、政権の推進力につながってきたことから、経済の再生に最優先で取り組むこと。さらに、北朝鮮への対応。国民の不安を解消するため、外交的な手腕を発揮することが課題です。
しかし、これだけでは、いままでの路線と変わりません。
求められるのは、国民の厳しい視線を受け止めて、強気一辺倒を改め、謙虚な姿勢で、国会などで、丁寧な説明を続けることではないでしょうか。議員の失言やスキャンダルが、今後も続くようであれば、足元をすくわれることになります。
さらに注目されるのが、来月早々に行われる見通しになった内閣改造と自民党役員人事です。安倍総理大臣は、麻生副総理兼財務大臣と菅官房長官を続投させる方針です。また、自民党の二階幹事長も続投させる意向を固めており、政権運営を支えている骨格の人事は変えない方針です。一方で、人心の一新によって、これまでの悪い流れを断ち切り、清新で、政権の姿勢が変わったと納得される布陣を形で示す必要にも迫られています。
自民党内で、内閣と党で役職を求める声は強くあります。こうした期待感を持った議員や派閥のバランスに配慮しなければ、不満や批判が強まることになります。かといって、安定感やバランスばかりを重視すれば、清新さが失われるだけに、難しい人事になります。
党内では、「ポスト安倍」をにらんだと見られる動きが出始めています。
安倍政権にとって、早期の事態収拾が望ましいところでしょうが、体裁をつくろう、その場しのぎでは、国民の支持は得られないでしょう。党内の求心力も失って、「ポスト安倍」の動きを一気に加速させる可能性も秘めています。安倍政権の信頼回復への道のりは、決して平坦なものではなさそうです。

(伊藤 雅之 解説委員)

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