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「変わるサウジアラビア 揺れる中東」(時論公論)

出川 展恒  解説委員

■中東のサウジアラビアで、先週、世界を驚かせる発表がありました。
サルマン国王が、突然、皇太子を解任し、
自らの息子で、まだ31歳のムハンマド・ビン・サルマン副皇太子を
新たな皇太子に任命したのです。
国のナンバーツーです。
野心に満ち、「冒険主義的」とも評される若き皇太子の誕生は、
内外に衝撃や波紋を拡げています。
アラブの大国サウジアラビアの変化で、
混乱のただ中にある中東が今後どうなるのかを考えます。

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■解説のポイントです。
▼新しい皇太子は、対外政策で極めて強硬な姿勢です。
▼このため、中東情勢がいっそう不安定になる可能性が高いと言えます。
▼そうなりますと、サウジアラビアから大量の原油を輸入している
日本も難しい対応を迫られます。

■最初のポイントから見て行きます。
新しく任命されたムハンマド皇太子は31歳。
現在81歳のサルマン国王が、
7人の息子の中で特に寵愛していると伝えられます。

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サルマン国王は、おととし1月、前国王の逝去にともない即位すると、
政治経験が全くなかったムハンマド氏を国防相に任命し、
さらに、王位継承順位で2番目の「副皇太子」に抜擢しました。
その後、経済政策を取り仕切るポストも兼務させました。
いきなり、国防、経済、外交の舵取りを任せたのです。
高齢の国王や皇太子が政治を動かしてきたサウジアラビアでは極めて異例です。

これまでは、サウジアラビアを建国した初代国王の息子たち、
つまり建国第2世代が、順番に王位を継承してきました。
サルマン国王は、自らの甥にあたる57歳の皇太子を解任した理由を
明らかにしていませんが、あいだに誰もはさまずに、
愛する息子に国王を継がせたいという強い思いがあると見られます。

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ムハンマド皇太子は、おととし国防相に就任するとまもなく、
隣国イエメンの内戦に軍事介入しました。
背景には、ペルシャ湾岸の覇権を争う大国イランとの対立があります。
サウジアラビアは去年1月、イランと国交を断絶。
今月初め、隣国カタールとの国交を断絶しました。
いずれも、ムハンマド皇太子が決定に深く関わったと見られています。
対外政策は極めて強硬かつ攻撃的で、
後先を考えず「冒険主義的」だという批判も挙がっています。

ムハンマド皇太子は、他方、内政面では、
「ビジョン2030」という構想をまとめ、経済改革の先頭に立っています。
これは、石油収入に頼り切ってきた経済から脱却し、石油以外の産業を育て、
2030年までに経済規模で世界15位以内に入ることを目指す野心的な構想です。
原油価格が下がり、財政難が深刻になっていることが背景にあります。
また、イスラム教の戒律が非常に厳しいサウジアラビアで、
娯楽産業の育成にも力を入れ、国民の7割を占める若者層の人気を集めています。

■ここから、2つ目のポイント、中東情勢への影響です。
そう遠くない将来、ムハンマド皇太子が国王に即位すれば、
長期政権になることが予想されます。その間、対外強硬路線を突き進み、
敵対するイランをはじめ、周辺国との関係が悪化してゆくことが懸念されます。

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サウジアラビアとイランは、長年、中東の覇権を争い、去年国交を断絶しました。
サウジアラビアは、イスラム教の聖地メッカを擁し、
スンニ派の厳格な教えに基づく王制の国です。
アラブの盟主を自認し、アメリカとは良好な関係を維持してきました。
一方、イランは、ペルシャ民族の国で、シーア派の教えに基づく革命で王制を倒し、
アメリカとは敵対してきました。

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サウジアラビアの対外政策は、アメリカの動きと連動しています。
前のオバマ政権が、イランのロウハニ政権と対話を進め、
歴史的な「イラン核合意」を実現させたことは、
サウジアラビアにとって、「青天の霹靂」でした。

この核合意で、イランの平和目的の核開発が認められ、経済制裁が解除され、
国際社会に復帰したことに、サウジアラビアは危機感を募らせ、
オバマ政権との関係がぎくしゃくしました。

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トランプ政権は、全く対照的に、イランを強く敵視し、核合意にも反対し、
サウジアラビアとの関係を重視しています。
先月、トランプ大統領の就任後初めての外遊先はサウジアラビアでした。
ムハンマド皇太子が自らワシントンに出向き、お膳立てしました。

この訪問で、トランプ大統領は、イランの脅威を繰り返し強調し、
サウジアラビアをはじめとする湾岸アラブ諸国と協力して
「対イラン包囲網」を築いてゆく方針を打ち出しました。
サウジアラビアに対しては、最新の迎撃ミサイルシステムなど
日本円で12兆円にのぼる武器を売却する約束もしました。

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サウジアラビアが、UAE・アラブ首長国連邦、バーレーン、エジプトなどとともに
カタールとの国交を断絶したのはその直後でした。
同じアラブの同盟国であるカタールを「テロ支援国家」扱いして、
事実上、封鎖する措置をとりました。
カタールが、サウジアラビアの言うことを聞かず、
イランと良好な関係を維持してきたことが大きな理由です。
カタールに対し、国交回復の条件として、
イランとの外交関係を縮小することなどを要求しています。

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ムハンマド皇太子は、先月インタビューで、イランについて、
「イスラム世界を支配しようとしており、対話することはできない」
と断言しました。
背景には、イランへの激しい敵意や対抗意識があり、
関係修復は極めて困難と言わざるを得ません。
そして、両国の対立が深まれば、
中東各地で起きている内戦や紛争も長期化し、深刻な影響が出ます。

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▼イエメンやシリアの内戦は、
サウジアラビアとイランの「代理戦争」の側面があります。
この両国が協力しない限り、内戦を終結に導くことはできません。

▼カタールとの国交断絶も長引きそうです。
サウジアラビアなどがあまりにも厳しい要求を突きつけているからです。
この問題は、過激派組織ISとの戦いにも影響が出ます。
カタールは「有志連合」の主要メンバーであり、
アメリカ軍の戦闘機は、カタールの空軍基地から出撃しているためです。

▼ムハンマド皇太子は、若くして次の国王の地位を約束され、
権力から遠ざけられた王族たちの反発を買っていると見られます。
それぞれの紛争が長期化し、解決できなくなれば、
ムハンマド皇太子の責任問題が浮上し、
王族内の権力闘争が激しくなる可能性も排除できません。

■そして、第3のポイントです。
中東各国の対立が深まれば、日本も難しい対応を迫られます。

▼日本にとって、サウジアラビアは原油の最大の供給国で、
輸入原油の3分の1を調達しています。
ムハンマド皇太子とサルマン国王は、去年から、相次いで日本を訪問しており、
日本政府は、ムハンマド皇太子が進める「脱石油の経済改革」への
協力を約束しています。

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▼日本は、イランとも長年にわたって友好関係を維持してきました。
おととしの「イラン核合意」で経済制裁が解除され、
日本の企業もイランとの貿易や投資を進めようとチャンスを探っていた矢先、
イランとサウジアラビアの対立が激しくなりました。

▼カタールも日本にとって重要な国です。
6年前の福島第一原子力発電所の事故の後、
カタール産のLNG・液化天然ガスが、発電用のエネルギーをまかなってきました。

日本は、これまで、どの国とも良好な関係を築いてきました。
今後、サウジアラビアなどから、
イランやカタールとの関係を見直すよう求められることも考えられますが、
筋の通らない要求に応じるべきではありません。
中東の大国による不毛な覇権争いに巻き込まれることは避け、
むしろ、関係正常化への橋渡し役になれるよう、
思慮深く、外交の力を発揮してゆくことが大切だと思います。

(出川 展恒 解説委員)

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