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「決まらぬ半導体売却先 問われる 東芝の信用」(時論公論)

今井 純子  解説委員

 東芝は、半導体事業を、政府が主導する日本・アメリカ・韓国のグループに、売却する方向で、きょうまでに最終的に合意することを目指していましたが、決まりませんでした。東芝は、調整に時間がかかっているだけだとしています。しかし、決算報告に続いて、再建のカギを握るとしてきた今回の売却でも、目標とした期限を守れなかったことで、東芝の信用が問われる事態になっています。東芝の半導体事業の売却先が決まらない背景。そして東芝の今後について考えてみたいと思います。

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【ポイント】
解説のポイントは、
▼ 売却の優先交渉先は、政府主導でつくられ、その意向に沿う形で決まりました。技術を国内で守りたいという狙いです。
▼ そして、最終的に決まらない。その背景にあるのは、東芝と提携しているアメリカの半導体メーカーの反対です。
▼ さらに、決まらない事態が相次ぐことで、東芝の再建の先行きに暗雲が広がる心配があります。
この3点です。

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【入札の経緯】
(ドル箱のフラッシュメモリー事業)
 今回、売却の対象となっているのは、東芝の半導体事業の子会社「東芝メモリ」です。つくっているのは、「NAND型フラッシュメモリー」と呼ばれる半導体です。もともと東芝が開発したもので、電力をあまり使わず、大容量のデータを書き込めることから、スマートフォン向けやデータセンター向けに、需要が急速に拡大しています。今後5年間で、市場規模が35%近く増えるという試算もあり、あらゆるものがインターネットとつながって、情報が行き来する、これからの社会を支える基幹製品として、注目されています。そして、世界中でこれをつくれるのは、一握りのメーカーだけ。中でも、東芝メモリは、世界2位のメーカーで、高い技術力を誇っています。

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(世界的な争奪戦に)
 そのぴかぴかのドル箱事業が、突然、売りに出されたとあって、入札にはアメリカやアジアから、投資ファンドや半導体メーカーなどが手をあげて、争奪戦が繰り広げられました。
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【優先交渉先の決定】
(売却先の条件)
ただ、売却先を決めるには、厳しい条件がつけられました。
▼ まずは、来年3月までに2兆円以上で売却する、という点です。そもそも、東芝が、ドル箱の半導体事業を売らなければいけなくなった。その理由は、アメリカの原子力事業の失敗で、今年3月の時点で5800億円あまりの債務超過に陥ったからです。もし、2年連続で債務超過になると、上場廃止となり、より深刻な経営危機に陥る心配があります。この穴を埋め、財務基盤を強化するには、3月までに2兆円以上。それが、東芝にとって譲れない条件でした。

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▼ 加えて、政府が最後まで警戒したのは、東芝メモリが持つ高い技術が、外国、特に中国に流出しないかという点です。同時に、売却した後も雇用が守れるのか、という点にもこだわりました。

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(政府主導で日米韓グループに決定)
こうした条件を考慮した結果、
▼ 台湾の電子機器メーカー鴻海については、中国に近い企業として、政府が難色を示し
▼ アメリカの半導体メーカーについては、雇用が守られない心配があるとされ、途中から、消極的になり候補から消えました。
▼ そして、残った2つのうち、アメリカの投資ファンド・ベインキャピタルと韓国の半導体メーカー・SKハイニックスの陣営が最も条件を満たすと、政府が判断し、ここに官民ファンドの産業革新機構と日本政策投資銀行の日本連合が過半数を出資する=つまり、経営権を握るという枠組みを整えました。その結果、買収金額が2兆円に達したこともあり、東芝が、政府の意向に沿う形で、この日米韓のグループを優先的な交渉先に決め、28日の株主総会までに最終的に合意することを目指してきました。

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【株主総会までに最終合意できず】
(背景には、ウエスタンデジタルの反対)
 しかし、結局、株主総会までに合意には至りませんでした。なぜなのか。
東芝は、調整に時間がかかっているためで、方向は変わらないとしています。ただ、東芝と半導体事業で提携をし、四日市の工場を共同で運営しているアメリカの半導体メーカー・ウエスタンデジタルがこの売却に反対している。そのことが、東芝から見て、調整の大きな障害になっていることは間違いないでしょう。ウエスタンデジタルは、今週、自らアメリカの投資ファンドと組んで、買収するという提案を東芝に示しました。一方、他社への売却の差し止めを求める訴えも、アメリカなどで起こしています。アメリカの裁判所の判断は早ければ7月中旬に出る見通しで、その結果によっては、売却のシナリオが崩れかねません。このため、優先交渉先のグループの中からは、東芝とウエスタンデジタルの対立が解消しない限り、買収費用を払うのは危険だという意見もあって、調整が遅れる要因になっているのです。

(合意が遅れると上場廃止も)
 では、今後、どうなるのでしょうか。東芝は、できるだけ早く合意を目指すとしています。東芝の譲れない条件は「来年3月までに売却資金を得て、債務超過を解消する」ことです。若干合意が遅れても、3月に間に合えば構わないということですが、刻一刻、余裕はなくなります。最終の合意が遅れれば遅れるほど、債務超過を解消できず、上場廃止となる可能性が現実味を帯びてきます。

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【再建へ 問われる東芝の信用】
さらに、3月までに半導体子会社を売却できたとしても、それで、東芝は再建できるのかというと、その道筋も明るいとは言い切れません。

(半導体売却に厳しい意見も)
東芝は、おととし不正会計問題が発覚してから、生き残りをかけて、白物家電や医療機器など優良な事業を次々売却。海外の原子力事業からも撤退しました。そして、半導体事業も売却することで、2007年度に7兆6000億円あった売り上げは、半分以下に縮小する見通しです。しかし、特に収益性の高い、ドル箱の半導体事業を売却するという経営判断については、株主総会でも厳しい意見が聞かれました。

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(信用が問われる事態に)
東芝は、今後、エレベーターや鉄道、水処理のシステムといった、社会インフラ事業を主力に、再建を目指すとしています。確かに、インフラは、国内の官公庁向けの事業も多く、安定した収益が期待できるという見方もあります。一方、ライバルも多く、これから海外へ討ってでることは難しいため、大きな成長は期待できないという指摘もあります。しかも、株主総会に、昨年度の決算を報告できない異例の事態となったことに加え、経営再建のカギを握るとしている半導体事業の売却でも、目標の期限を守れなかったことで、東芝は、未だに統治能力がなく、東芝の言うことは信用できない、という見方が広がる心配があります。そうなれば、この先、頼みの官公庁のインフラ事業でも、受注にマイナスの影響がでて、再建の先行きに暗雲が広がりかねません。

【まとめ】
容易な道ではありませんが、今後、売却交渉を加速して、シナリオどおり経営再建へスタートをきるのか。それとも、時間切れで、上場廃止の道に進むのか。東芝は、まさに、瀬戸際に立たされています。

(今井 純子 解説委員)



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