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「対北朝鮮圧力強化 鍵を握る日中関係」(時論公論)

増田 剛  解説委員

核やミサイルの開発を続ける北朝鮮が、挑発をやめようとしません。日本は「今は対話ではなく、圧力を強化すべきだ」として、北朝鮮に対する国際的な包囲網と制裁の強化を目指しています。
その上で、圧力を効果的なものにするためには、中国の協力が欠かせないとみて、対中関係の改善を模索しています。北朝鮮情勢をにらんだ、日中関係の現状と今後について、考えていきます。

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解説のポイントです。

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①まず、圧力強化を目指す日本政府の動き、特にきょう決定された新たな制裁の仕組み「キャッチオール」の中身をみていきます。
②その上で、中国との関係改善に動き出した政府の思惑について、考えます。

国際社会からの非難や国連安保理の制裁決議を無視する形で、弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮。ミサイル発射は、今年に入って、すでに10回。先月から今月にかけては、4週連続で発射されました。北朝鮮は、「ミサイルは在日アメリカ軍基地を照準に入れている」と威嚇しています。

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これに対し日本政府は、「平和的な解決を模索してきた対話の試みは、北朝鮮による時間稼ぎに利用された。今、国際的な無法状態が、常態化している」と危機感を強めています。そして、「今は対話ではなく、圧力を強化すべきだ」として、国際的な包囲網と制裁の強化を目指しています。

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政府はきょうの閣議で、「キャッチオール」という新たな制裁の仕組みを決めました。これは、北朝鮮に向かう第三国の船舶が積んでいる、核やミサイルの開発につながる恐れがある、全ての貨物の押収を可能にするものです。北朝鮮が第三国との間で輸出入する貨物で、日本の港や領海を経由するものについては、現在、あらかじめ規制対象に指定された品目が積まれていると認められる場合に、海上保安庁や税関で、検査や押収を行うことができるとされています。

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ただ、北朝鮮は、規制対象となっている品目、例えば、兵器などを分解し、原材料や機械部品として運搬するなどの工作を行っているとされ、これが、制裁の「抜け穴」になっているという指摘がありました。このため、あらかじめ指定された品目以外でも、大量破壊兵器の開発につながると判断された場合には、押収することを可能にしたのが、「キャッチオール」です。

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政府が今回、こうした仕組みを導入した背景には、国際社会による、制裁の効果を高める動きを加速させたいという狙いがあります。
ただ、日本一国が制裁を強化するだけでは、限界があります。

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政府は、圧力強化の鍵を握るのは、北朝鮮の最大の貿易相手国である中国だとみて、これまで以上に働きかけを強化する方針です。
先月末、中国の外交を統括する楊潔チ国務委員が訪日し、安倍総理や岸田外務大臣と会談しました。この中で、日本側は、今年が日中国交正常化45年、来年が日中平和友好条約締結40年という節目の年であることをふまえ、首脳レベルの対話の強化を提案しました。

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日本政府が思い描くスケジュールはこうです。

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まず、7月上旬に行われるG20首脳会議にあわせ、安倍総理と習近平主席の会談を実現した上で、日中韓首脳会議を東京で早期に開催し、李克強首相の訪日を実現する。また、来年は、中国が日中韓首脳会議の議長国であることから、今度は、安倍総理が会議にあわせて訪中し、習主席と会談する。そして、来年後半の習主席の訪日につなげるというものです。
もちろん、中国の側にも、秋には、5年に1度の共産党大会が開かれるため、世論が敏感に反応する対日関係には、深入りしたくないという事情もあるでしょう。
日本の思惑通りに事が運ぶかどうかは、不透明です。一方、安倍総理としては、来年には、自民党総裁選挙が控えていますから、日中関係の改善を政権浮揚につなげたいという思惑もあるでしょう。
いずれにせよ、日本としては、首脳の相互訪問を通じて、日中関係を段階的に改善していきたい考えです。

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さらに、安倍総理は、今月上旬、中国が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」について、「地域と世界の平和と繁栄に貢献することを期待している。こうした観点からの協力をしていきたい」と述べました。安倍政権は、元々、「一帯一路」について、中国が経済と安全保障の両面から周辺国への影響力を強め、地域の覇権を目指すものではないかと、警戒していました。この発言は、こうした日本のこれまでの姿勢を修正したものといえ、安倍総理の日中関係改善に向けた強い意欲をうかがわせます。
これについて、ある政府関係者は、「いたずらに中国と対立して得るものは何もない。安倍総理は、大局的な観点から、中国との関係改善に舵を切った」と話しています。
ただ、今の国際環境のもとで、そもそも日本に、選択の幅があったのかというと、疑問も残ります。北朝鮮への圧力を強化するといっても、中国の協力がなければ、ほとんど実効性がないという現実、そして、中国が国際社会でますます存在感を増している現実をふまえれば、日本には、対中関係改善に踏み出す以外の選択肢はなかったというのが、実際のところではないでしょうか。
もう一つ、日本には、アメリカのトランプ大統領の予測がつきにくい外交姿勢への懸念もありました。当初、中国に厳しい発言をしていたトランプ大統領は、4月の米中首脳会談を機に、態度を変え、以降、中国との協調を重視する姿勢をみせています。「日本の頭越しの米中接近があるかもしれない。今のうちに、中国とのパイプを構築しておかなければ、日本が外されかねない」。政府内には、そんな見方もあったのです。

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では、その米中関係の直近の動きは、どうでしょうか。

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先週、米中の「外交・安全保障対話」がワシントンで開かれました。主要なテーマは、北朝鮮問題。アメリカは、「中国は北朝鮮に対し、外交的・経済的に一層の圧力を強める責任がある」として、さらなる圧力の強化を迫りました。背景には、北朝鮮がいっこうに挑発をやめないことへの苛立ちがあります。

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トランプ大統領も、ツイッターで、「私は習近平主席が好きだが、北朝鮮に関しては、中国からの協力がもう少し欲しい。結果が出ていない」と呟きました。北朝鮮に対する中国の対応は、不十分だという主張です。
これに対し、中国は、「関係国のすべてが、国連安保理決議を厳格に履行すべきであり、同時に、早期に対話を始めるべきだ」として、
中国ばかりに責任を押しつけず、アメリカも、事態の打開に向けて、対話に着手すべきだと反論しました。この問題をめぐる米中両国の深い溝が、改めて浮き彫りになった格好です。

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北朝鮮に、核やミサイルの開発をやめさせるためには、国際社会の結束と多角的な圧力が欠かせません。そして、圧力を効果的なものにするためには、中国の協力が欠かせません。日本が中国との関係改善に努力することは、戦略的な合理性があります。
その一方で、日中間には、尖閣諸島など対立の火種もくすぶっており、手放しで接近を図ることにはリスクもあるでしょう。
中国とつかずはなれずの微妙な距離感を保ちながらも、北朝鮮問題については、その解決が共通の利益となることを認識させ、効果的な対応を引き出していく。
そんな、したたかな外交が、今、日本に求められていると思います。

(増田 剛 解説委員)
                   

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