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「加計学園問題 丁寧な説明は」(時論公論)

西川 龍一  解説委員

学校法人「加計学園」の獣医学部の新設をめぐる問題は、国民の疑問が一向に解消される気配はありません。文部科学省の前川前事務次官が、先週末開いた会見で内閣府や官邸が国民に説明する責任を果たす必要があると述べたのに対し、国家戦力特区諮問会議の民間議員が26日会見で反論しました。

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▽前川前事務次官会見の注目点
▽なぜ疑問は深まっているのか
▽安倍総理大臣自らが発言した丁寧な説明をどう果たすべきなのか
以上3点をポイントにこの問題を考えます。

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先週金曜日に行われた前川前事務次官の会見で、私がもっとも注目したのは、国家戦略特区制度で愛媛県今治市に加計学園の獣医学部の新設が認められたことに関連して、「この問題を規制改革派と抵抗勢力という勧善懲悪的な見方をするのでは、ことの本質を見誤る」「無意味な規制は思い切って撤廃するのは当然のことで、ただ、それはきちんとした検討や検証の結果として判断しなければならないと思っている」と述べたことです。
一連の問題で、前川氏が一貫して主張しているのは、獣医師の数は十分足りているとされることなどから半世紀以上認められてこなかった獣医学部の新設に当たって、一定の条件がクリアされないまま、規制緩和が進められたということです。そこに何らかの政治的な意向が働いたのではないかという疑問が、文部科学省から次々に出てくる文書によって国民の間に大きく膨らんでいる状態です。疑問を突きつけられた一方の当事者である内閣府や官邸がそれを払拭するために当事者意識を持って対応していないのではないかというのが前川氏の考えです。

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前川氏の指摘に対し、国家戦略特区諮問会議の民間議員らは、26日開いた記者会見で「前川氏は行政がゆがめられたと言うが、あなた方がゆがめてきたものを国家戦略特区でただしたものだ。今回の決定プロセスは、議事録を見ても1点の曇りもない」として反論しました。また、こうした疑念を生むことの防止策として、今後、省庁間の議論では必ず議事録を取り、双方が確認する仕組みを作る必要があると指摘しました。
文部科学省では、先週、新たな文書が明らかになりました。去年10月21日、萩生田官房副長官が文部科学省の高等教育局長と面会し、官邸や内閣府の考えを伝えた発言をまとめたとされるものです。この文書は、今回の問題を担当している専門教育課の共有フォルダーの中にあったということですが、これまで文部科学省が行った2度の調査では見つかっていませんでした。文部科学省は、「調査の対象が国会で民進党などから問題とされた19の文書に限られていたため」と説明していますが、疑問に本気で答える気があるのかと思われても仕方がないように思います。

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文書には、萩生田官房副長官が「加計学園」の名前を挙げた上で、内閣府、そして和泉総理補佐官と相談した結果として、四国で獣医学部新設が認められるようにするため、ハイレベルな伝染病実験ができる研究施設や、既存の大学を上回る教授の数が必要とするなど、具体的な指示を出したと記されています。そして、和泉総理補佐官の発言として、「農水省は了解しているのに、文科省だけがおじけづいている」と伝えたとしています。「官邸は絶対やると言っている」、「総理は平成30年4月開学とおしりを切っていた」などと文部科学省に具体的な時期を示して、新設を認めるよう求める発言をしたと記されています。

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松野文部科学大臣は、今月20日にこの文書の存在を認めて公表しました。一方その日の午後には、松野大臣が、「文書は個人メモであり、著しく正確性を欠いたものだ」と説明し、名前が記された萩生田副長官に謝罪しました。
また、萩生田副長官も誰がどう言ったという明確な裏付けがないまま言葉が一人歩きしている状況に「このような不正確なものが作成され、意図的に外部に流されたことについて非常に理解に苦しむとともに強い憤りを感じている」というコメントを出しました。

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文書は担当の課長補佐が高等教育局長から聞いた話をまとめて作成したものだと言います。正確性を欠くとする理由について、文部科学省は▽内容を高等教育局長が確認していないこと▽高等教育局長以外から聞いた話を混在させている可能性があること▽課長補佐の記憶が曖昧であるなどと説明しています。ただ、文書のどこが正確で、どこが不正確なのか、明確な説明はないままです。
官僚OBを取材すると、こうした文書は通常内容を忘れないように記録し共有するために作成して残すもので、いい加減なことを書くことはないと言います。文部科学省の現役の職員の中からも「当時の経緯について事実を解明し、納得できる説明をするべきだ」という声が上がっていますが、文部科学省はこれ以上の調査は必要がないという立場です。
仮に内容が一部、正確性を欠くとしても、この文書にはもう一つ大きな疑念を呼ぶ要素が含まれています。この文書が書かれた時期は、事業者として加計学園が決まる3か月前で、国家戦略特区で獣医学部が新設されるということも決定していません。それにも関わらず、文書にはこの時点で「加計学園」の名前が記されているのです。誰からも言われなかったことを職員が文書に残すというのは、考えにくいでしょう。なぜこの時期に開学時期まで含めて「加計学園」だったのか、やはり「加計学園」ありきで、ことが進められていたのではないかとの疑念が生じます。

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では、こうした疑念を払拭するためには、何が求められるのでしょうか。それこそが、安倍総理自身が国会終了後の記者会見で述べた、一連の問題で疑問が生じれば国民に誠心誠意説明を尽くすことです。
文部科学省だけでなく、より重要なのは、国家戦略特区を担当する内閣府側の対応にあります。先月15日に文部科学省が「官邸の最高レベルが言っている」などと記された文書が見つかったと発表したあと、内閣府は「そうした発言をした職員はおらず、それを裏付ける文書も見つからなかった」とする調査結果を翌日発表しています。しかし、調査の対象は9人の職員で、一日だけで結論づけています。文部科学省側と言い分が食い違っている状況にもかかわらず、こちらも再調査の必要はないと言います。文部科学省側から新たな文書が明らかになるなど、状況が変化している中で、官邸も内閣府の言い分と同じく、これ以上の調査は必要ないと言い続けています。これでは国民は納得できないでしょう。省庁間で見解が異なるのであれば、第三者機関を設け、徹底した調査を行うという方法もあるはずです。

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安倍総理大臣は、先週末神戸市で行った講演の中で、国家戦略特区での獣医学部新設を1校だけに限定して認めたことが国民の疑念を招く一因となったとして、新設をさらに認める方向で検討を進める考えを示しました。しかし、今、国民の疑念を招いているのは半世紀ぶりに獣医学部の新設を認めるに足る議論が公平公正になされたのかということで、ほかでも獣医学部の新設を認めれば払拭されるということにはなりません。同じ講演で総理自身が述べた「疑念が示されれば担当大臣を筆頭に積極的に情報を公開し、しっかりと説明する」ことを国民は求めています。

(西川 龍一 解説委員)

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