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「小池知事 豊洲と築地の両立は?」(時論公論)

合瀬 宏毅  解説委員
伊藤 雅之  解説委員

東京都の小池知事は今日、臨時の記者会見を開き、築地市場を豊洲に移転した上で、築地にも市場機能を持たせた再開発を行う基本方針を表明しました。
小池知事が移転延期を表明して10ヶ月、移転問題は、この両立案で再び動き出すことになります。
一方、市場移転への対応を巡っては自民党などが批判を強めており、来月に行われる東京都議会議員選挙の一つの焦点になりそうです。政治担当の伊藤解説委員と共にこの問題を考えます。

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まず、小池知事が示した移転案です。
小池知事は「築地は守る 豊洲を活かす」としてまずは市場を豊洲に移転し、新たな中央卸売り市場としての機能を持たせた上で、築地を再開発して5年後をめどに、食をテーマとした一大拠点とする基本方針を示しました。

市場機能は豊洲、築地双方に持たせ、豊洲については、安全性に対する対策はとった上で、首都圏における水産物の大量流通を、ITを活用して担う物流拠点として。築地については、長年培ったブランド力、そして都心に近い観光立地を活かした整備を行うことが、大切な宝を活かす方法だとしました。

事業者は一旦、豊洲に移転するものの、その後はどちらかの市場を選べるとし、移転推進派、築地残留派、どちらにも配慮した形となっています。

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(合瀬)
伊藤さん、これまでは築地か豊洲かどちらかという議論だったが、今回の案はどっちもとなっている。今日の基本方針、選挙を意識したものなのか?

(伊藤)
・なぜこのタイミングでの判断だったのか。その背景には、今週23日に告示される東京都議会議員選挙があると見られます。

・都議会議員選挙は、小池知事を支持する勢力で都議会の過半数を獲得できるか、自民党と小池知事が代表の地域政党「都民ファーストの会」のどちらが第一党になるのかが焦点です。

・選挙戦では、市場の問題が、大きな争点になる見通しで、自民党は、移転問題の長期化について、「決められない知事」という批判を強めています。小池知事としては、こうした批判をかわすためにも、方向性を示す必要がありました。

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また、協力関係にある公明党が「選挙前に方針を示すべきだ」と求めていたことへの配慮もあったのだと思います。
・さらに、豊洲か築地かという対立ではなく、両者を生かす新たな方針を示すことで、支持の拡大を狙ったともいえるのではないか。

(伊藤)
合瀬さん、それにしてもなぜこうした判断となった?

(合瀬)
小池知事が強調していたのが、豊洲市場の持続性に対する危機感でした。
移転先となる豊洲市場の整備費はおよそ6000億円。しかしそれ以上に巨大な設備に掛かる光熱費や警備費などの維持費が巨額となり、一方で市場を経由する水産物は今後減ることが予想される。市場会計の赤字は年間150億から160億にのぼると、東京都の市場問題プロジェクトチームは指摘していました。

東京都は、移転した後の築地跡地をおよそ4500億円で売却することで、赤字が穴埋めできるとしてきました。しかしそれでも、31年後には蓄えを吐き出し、資金不足に陥ると見られています。
そうなれば都民の税金を投入する事態と成りかねません。

では、移転せずに築地市場を使い続けるのか、というと様々な課題がありました。営業をしながらの改修には時間がかかり、なにより業者間の調整の困難さから、過去に頓挫した経緯があります。
ただ、すでに完成した豊洲市場に一旦移転し、その間に築地市場を改修することが出来れば、築地市場を存続させることができます。

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築地ブランドに強いこだわりを持つ小池知事としては、市場を一旦、豊洲に移転するものの、最終的には築地市場へ戻ることも選択肢として残しておきたい。今回の方針にはそうした思惑もあると思います。

(合瀬)
伊藤さん、ただ今回の方針については、政党や市場関係者からも様々な反発も出ていますよね

(伊藤) 
・まず豊洲への移転については、移転を求めていた関係者からは、評価できるという意見が出ています。これに対し、豊洲市場の安全・安心は十分に確保されるのか疑問だという指摘もあります。

・また、結果的に、豊洲に移転するのであれば、知事は、もっと早く決断すべきだったという批判も出ています。

・一方、築地の再開発については、豊洲と築地の二つの市場を両立させるのは困難で、実現性に乏しいという批判。「築地ブランド」を守る方向性には期待が持てるという声も出ています。さらに、今日の知事の会見は、具体的でなく、説明が不十分だというという声も多く、きょうの段階では、市場関係者、各党の間で戸惑いが広がっている状況だと思います。

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(伊藤)
・合瀬さん、それだけに、今後検討すべき課題も多いということですね?

(合瀬)
そうだと思います。3つ上げたいと思います。

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一つ目は採算性です。
今回の基本方針は、豊洲も築地も両方を存続させる案です。豊洲市場の整備にはすでに6000億円近い資金が投入されており、それに加えて築地を改修するとなると、さらに最低でも800億円が、かかるとされています。
市場の将来の採算性を問題視しながら、二つの市場を維持することが合理的なのかです。

また、事業者の負担もあります。築地の事業者は豊洲移転に際し、すでに300億円ほどの投資をしています。小池知事は再び築地に戻りたい業者に対しては支援をするとしていますが、築地に戻るとなると、事業者としても新たな負担が発生します。本当にそれが可能なのかです。

さらには、豊洲市場と築地市場を両立させた場合、業者も別れることになります。そもそも築地ブランドは世界各地から水産物が集まり、それを業者が品定めする、そうした目利き達の、賑わいから生まれてきたものです。
それが二つに分かれるとなると、魅力は半減しないか。そこも検討しなければならない課題だと思います。

(合瀬)
伊藤さん、このように小池知事の基本方針は課題も多いが、都議選にどういう影響を与えるのでしょうか?

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(伊藤)
・各党は、豊洲移転か築地の再開発かを中心に主張を繰り広げています。
小池知事の方針は、そのどちらにも顔を向けた形で、都議選の争点も移転の賛否から、小池知事の示した方針の是非に変わることになります。

・今後、市場の役割が変化し規模も縮小していると見られる中で、豊洲と築地という近い距離にある二つの市場が、ともに成り立つのか。その収益や採算の見通しはどうなるのか。

・豊洲市場に加え、築地の再開発は、新たな都が主導する新たな大規模開発になるだけに、どのくらいの財源が必要で、それをどうまかなうのか。また、一連の方針を実現する具体的なスケジュールはどうなるのか。

・こうした疑問に、小池知事がどう答えていくのか、選挙戦で激しい論戦が交わされる見通しで、選挙結果が、市場の移転問題に行方にも影響を与えることになりそうです。

(合瀬)
小池知事による豊洲市場の移転延期から10ヶ月がたち、今日示された基本方針は、豊洲も築地も市場機能を持たせて維持するというものでした。しかし伊藤解説委員が指摘したように、この案には、分かりにくい部分が多く残っています。
小池知事が選挙戦を通して、こうしたわかりにくさを明らかにしていくのか?注目してみていく必要があると思います。

(合瀬 宏毅 解説委員 / 伊藤 雅之 解説委員)

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