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「存在感増す中国の途上国支援 ~日本はどう付き合うか」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

中国がアジアなどの途上国のインフラ整備などに融資する目的で設立したAIIB=アジアインフラ投資銀行の総会がきのうまで韓国で開かれました。金立群総裁は、加盟する国と地域があわせて80に達し、日本やアメリカが主導するアジア開発銀行を大きく上回ったことを明らかにした上で、日本の加盟を呼びかけました。日本は、「組織の運営の仕方に不透明な点がある」などとして、AIIBへの加盟に慎重な姿勢を示していますが、中国の途上国支援の動きが加速する中で、今後どう付き合ってゆけばよいのか。この問題について考えます。

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解説のポイントは三つです。

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・AIIBのねらいと現状
・なお残る懸念と警戒感
・日本はどうつきあうか
です。

中国のAIIBを語るとき、切り離すことができないのが、中国政府が、AIIBとほぼ時を同じくして打ち出した一帯一路構想です。

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この構想は、中国からヨーロッパにむけた交通インフラを陸路と海路で整備し、中国との経済交流を活発にしようというものですが、その際、高速道路や鉄道、港湾施設などを整備するのに必要な資金を融資するのが、AIIBだと見られています。実際にAIIBの金総裁は、NHKのインタビューに答え、AIIBは一帯一路と同じものではないとしながらも、「一帯一路のプロジェクトが一定の基準を満たせば喜んで支援したい」という考えを示しました。

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こうした構想の背景には、中国で過剰となった鉄鋼やセメントを、アジアのインフラ整備にまわせば、うまく輸出することができるという経済的な思惑があるといわれます。

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しかし、それ以上に、中国が、80を超える国と地域の加盟をほこる国際機関を主導し、経済支援を通じてアジア一帯に中国の勢力圏を拡大しようという政治的な狙いがあるのではないかと、先進各国から警戒感を抱かれてきました。
では、AIIBの活動の実態はどうなっているでしょうか。(→VTR)

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AIIBが実質的に活動を始めてから1年半。実際に融資が承認された案件は全部で16件、日本円で2700億円規模にのぼっています。パキスタンでの高速道路建設や、オマーンの港湾インフラ整備などに融資が行われることになり、途上国側から歓迎されています。
ただこのうちAIIB単独による融資案件は4件だけで、残りは世界銀行やアジア開発銀行との協調融資の形をとっています。

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その背景には、AIIBには、融資の対象となるインフラ施設からどのくらいの収益を期待できるかを見抜く力や、融資した資金が着実に返済されるかを見極める判断力など、融資のノウハウが不足していることがあります。
専門職員の数もおよそ1100人の陣容を誇るADB・アジア開発銀行をはるかに下回る100人足らずにとどまっていると伝えられています。融資規模も、2016年に承認された規模で比べると、ADB・アジア開発銀行がおよそ175億ドルに対し、AIIBはおよそ17億ドルと10分の1にすぎません。ただ、その一方で、AIIBの資本金はADBの3分の2に匹敵する一千億ドルにのぼっています。

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もともと途上国の間には、既存の国際金融機関の融資の姿勢が厳しかったり、融資を受けるまでに時間がかかるなどの不満があり、今後のAIIBによる融資の拡大への期待が高まっています。
一方、日本が懸念した融資基準や組織運営の透明性についてはどうでしょうか。
AIIBの構想段階で懸念されたのは、まず、融資にあたり対象となるインフラプロジェクトが地域住民や周辺の環境に対する影響などを考慮しているかといった点でした。
これについては世界銀行のOBなどから教わる形で、国際的な標準となっているルールが設けられました。また、組織の運営面でも、実際の融資を決める会議では、議決権のおよそ20%をもつヨーロッパのメンバー国が影響力を発揮し、中国の思惑だけで融資先が決まるというような恣意的な運営はいまのところ行われていないようです。
現段階での評価は「思ったよりもまとも」というところでしょうか。

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こうした状況を受けて、日本企業の間からは、日本もAIIBに加盟することを望む声もでています。
アジアの膨大なインフラ需要は、日本企業にとっても魅力的な投資先です。日本がAIIBに加盟しないことで、その分、途上国のインフラ投資案件の情報が入りづらくなり、ビジネスチャンスを失うのではないかという懸念があるのです。

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こうした中、安倍総理大臣は、今月東京で開かれた国際会議で、中国が進める一帯一路構想に協力する意思があることを示しました。

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背景には日中関係改善にむけた思惑があります。今年は、日中国交正常化から45周年をむかえ、来年は日中平和友好条約締結から40周年の節目をむかえます。その中で日本政府には、アジアの途上国支援で協力する姿勢を見せることで、日中関係を改善に向かわせたいと考えているようです。

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しかし、安倍総理大臣は、協力の前提条件として、中国による途上国支援が国際ルールに沿った形で実現されるよう釘を刺すことも忘れませんでした。そして、融資の対象となるプロジェクトはきちんと採算がとれ、お金を借りた国がきちんと返せる見通しがたっていること、またつくられたインフラが万人にとって利用できるものとなる必要があると強調したのです。
その背景には中国への警戒感が残っていることがあります。

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AIIBで、まともな運営がされているにも関わらずなお警戒感が残るのはなぜか。
そこで私が思い浮かべたのは、いま中国と南アジアの小国スリランカで起きている支援事業をめぐる問題です。

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スリランカでは10年ほど前から、中国から日本円に換算して1500億円の融資を受けて、南アジア最大の港湾施設を建設しました。しかし船舶の利用はわずかで、港の収益があがらないため、膨大な借金の返済ができそうにありません。これに対し、中国は債務の軽減を認める見返りとして、この港の99年間の運営権と治安警備の権限を引き渡すよう求めているのです。

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この合意が成立すれば、現在スリランカ海軍が担っている港の警備を、中国側が行うことになります。現地では、「これでは中国の植民地ができてしまう」と反感をかっているといいます。このような状況があるなかで、中国への警戒感がなかなかぬぐいきれないのが実情です。
こうした中で、日本政府は、中国のアジア支援拡大の動きにどうむきあっていったらよいでしょうか。それを考えるには、支援を受けるアジアの途上国の事情を考えることも必要でしょう。アジア各国には膨大なインフラ整備の需要があります。途上国側からは、日本と中国が角突き合わせることなく、情報共有をはかりながら効率的な支援を行えば、アジア経済の安定した発展につながると期待する声も高まっています。

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日本としては、中国の経済支援の行方を見ながら、指摘すべきところは指摘する。同時に、日本にメリットがあると見たら、すかさず一枚かんでいく。そうした付かず離れずのしたたかな付き合い方が求められるのではないでしょうか。

(神子田 章博 解説委員)

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