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「対IS作戦の行方」(時論公論)

出川 展恒  解説委員

■今から3年前、イラクとシリアの領土で、一方的に国家樹立を宣言し、
世界に衝撃を与えた過激派組織IS・イスラミックステート。
そのISに対する軍事作戦が大詰めを迎えています。
しかし、ISは住民を「人間の盾」にして抵抗するとともに、
世界各地でテロを企てています。
対IS作戦の行方を考えます。

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■解説のポイントは2つ。

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▼第1に、「最終段階を迎えた対IS作戦」。
▼第2に、「世界に拡散するテロ」です。

■第1の「対IS作戦」から見てゆきます。

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こちらの地図、ISの支配地域を示したものです。
ISが最も支配地域を拡大したのは、おととしの初めでした。
しかし、今では、ここまで小さくなりました。

そして、現在、イラクのモスルと、シリアのラッカ、
この2つの都市をISから奪還するための軍事作戦が、
最終段階を迎えています。

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▼まず、イラク第2の都市モスルです。
ISの前身となるイスラム教スンニ派の過激派組織が、
人口およそ200万人のモスルを一気に制圧し、
イラクとシリアにまたがる「イスラム国家」の樹立を一方的に宣言したのは、
3年前の6月でした。
以来、モスルは、ISにとって最も重要な拠点でした。

イラク政府軍とアメリカ主導の「有志連合」、
それに、イラクのクルド人勢力の部隊が、
去年10月から、モスルの奪還作戦を進めてきました。

すでにモスルの東部は完全に制圧し、
モスルの西部も、およそ90%を奪還、
ISが支配しているのは、旧市街とその周辺だけです。

追い詰められたISは、およそ20万人の住民を、
いわゆる「人間の盾」にして、激しく抵抗しています。
ISは、脱出しようとした住民を容赦なく殺害し、
この半月で230人以上が犠牲になりました。
また、空爆の巻き添えで命を落とす住民も大勢います。

このため作戦は、慎重に進める必要があります。
イラクのアバディ首相も、
モスルの完全制圧の期限は設けないと述べています。

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▼次に、シリアのラッカは、人口70万の古い都で、
ISが「首都」と位置づけています。

今月6日、シリアのクルド人勢力を主体とする「シリア民主軍」の部隊が、
ラッカの制圧に向けた最終的な作戦を開始しました。
アメリカ軍の空爆による支援を受け、
ラッカの東、西、北の3方向から部隊を進め、
一部はラッカの市内に入りました。

これとは別に、アサド政権軍も、ロシア軍の支援を受け、
西側からラッカに向けて進撃しています。

▼モスルでも、ラッカでも、
クルド人の部隊が作戦の最前線に立っています。
これは、本来、主役となるべきイラク軍やシリア軍に十分な戦闘能力がないため、
クルド人部隊に頼らざるをえない現実があるのです。
国を持たないクルド人勢力は、ISとの戦いに貢献することで、
支配地域や発言力を拡大し、
イラクやシリアの新しい国づくりでできるだけ有利な地位を確保し、
将来の国家独立の可能性を広げてゆきたいと考えています。

▼ISは、それまでのイスラム過激派組織と異なり、
領土を確保し、国家の体裁をとって活動してきました。
あとどのくらいかかるかははっきりしませんが、
ISが、イラクとシリアにまたがる領土をすべて失う日が来るのは確実です。
「“疑似国家”としてのIS」は、終わりに近づいています。

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ISにとって重要な転機となりますが、
戦闘員らが自らの出身国に戻ったり、
内戦などで、無政府状態になった国に移動したりして、
新たなテロを起こしてゆくことが考えられます。
さらに、ISの過激な思想がインターネットを通じて拡散し、
それに共鳴した個人や組織が自発的にテロを行うケースも
今後増えそうです。
つまり、「思想や運動としてのIS」は、これからも続くでしょう。

■ここからは、第2のポイント、「世界に拡散するテロ」です。

イラクとシリアで追い詰められたISは、
今、世界各地にテロを拡散させています。
ISは、宗教感情が高まる断食の月「ラマダン」を前に、
支持者らにテロを呼びかけていました。
先月以降、ISが関わったと見られるテロが発生した場所を地図に示しました。

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▼エジプトでは、ISのメンバーが、
キリスト教の一派であるコプト教の信者が乗ったバスを襲撃し、
子どもを含む29人が犠牲になりました。

▼イギリスでは、先月22日、
マンチェスターのコンサート会場で起きた自爆テロと、
今月3日、ロンドン中心部の路上で起きたテロで、
合わせて29人が犠牲になりました。

▼イランでは、先週、議会など2つの重要施設が同時に襲撃され、
合わせて17人が犠牲になりました。
シーア派の宗教国家イランで、ISのテロが起きたのは初めてです。

▼また、アフガニスタンの首都カブールでは、先月31日、
各国の大使館が集まる地区が自爆テロの標的となり、
150人以上が犠牲になりました。

▼東南アジアでも、地元のイスラム過激派組織が、
ISの思想に共鳴し、テロを起こすケースが増えています。
フィリピンのミンダナオ島では、先月下旬から、
IS系の地元組織が軍と戦闘を繰り広げ、170人以上が犠牲になりました。
世界最大のイスラム教徒が暮らすインドネシアでは、
先月首都ジャカルタで自爆テロが起きていますが、
ISを支持する地元組織の犯行とわかりました。

■今や安全な場所はどこにもありません。
世界に拡散するテロを根絶することはできませんが、
テロができるだけ起きないように予防する手段はあるはずです。

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▼まず第1に、テロの実行犯らは、
主にインターネットを通じて過激な思想に染まり、
テロを扇動されてきた現実を踏まえ、
各国がサイバー空間を監視して、過激な思想の拡散と、
テロの計画を未然に防ぐ対策が必要だと思います。
国境を越えて起きるテロですから、関係各国の密接な連携が不可欠です。
合わせて、信仰や思想の自由と、こうした対策をどう両立させるかという問題も
クリアしなければなりません。

▼第2に、ISに参加していた戦闘員らが自らの出身国に戻り、
テロを起こすことがないよう、
元戦闘員らの動きを追跡するしくみを確立し、
関係各国の間で情報を共有することや、
帰国した元戦闘員らがすみやかに社会復帰できるよう、
過激思想を取り除くリハビリテーション、
あるいは、教育や職業訓練を行ったりして、支援する取り組みも重要です。

■見てきましたように、
イラクとシリアでの対IS作戦は、最終段階を迎えているものの、
一気に問題解決とは行きません。
最大の難問は大勢の市民の犠牲者が出る恐れがあることです。

シリアのラッカでの作戦に関連して、ユニセフ・国連児童基金は、先週、
「4万人以上の子どもたちが、極めて危険な状況に取り残されている」として、
子どもたちの安全な避難と保護を訴えました。

3年前、ISの予期せぬ台頭を招いたのは、
シリアで続く泥沼の内戦と、イラクの宗派対立による政治の混乱でした。
関係する国々が、それぞれの利害や思惑で介入したことも事態を悪化させました。
ISとの戦いは、軍事作戦だけでは終わりません。
領土を奪還しても、世界に拡がる過激思想との戦いが待っています。
戦火にさらされた人々への支援活動、
シリアの内戦終結をはじめ、政治面の取り組みが極めて重要で、
国際社会が一致協力し、推し進めてゆくことが求められます。

(出川 展恒 解説委員)

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