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「退位特例法成立 意義と課題」(時論公論)

太田 真嗣  解説委員
西川 龍一  解説委員

天皇の退位に向けた特例法が成立し、3年以内に天皇陛下が退位されることになりました。天皇の退位は、およそ200年ぶりとなりますが、これまでと、国民主権のいまの憲法のもとで退位が決まった、今回とでは、その意味は大きく異なります。今夜の時論公論は、社会問題担当の西川解説委員とともに、特例法制定の意義、そして、今後の課題について考えます。

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法律の内容は、すでにニュースでお伝えしているのでポイントだけ確認します。

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この法律は、▼皇室制度を定める皇室典範の特例として、いまの陛下の退位と皇太子様の即位を実現させるものです。そして、▼退位される日は、法律の公布から3年を超えない範囲で、政令で定め、▼退位後の称号は「上皇」とする、などとしています。

(太田)
西川さん。法律は来週にも公布され、遅くとも2020年の夏までには、退位が実現する見通しですが、今回の法律制定の意義をどう捉えていますか。

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(西川)
現憲法下で初めて即位した今の天皇陛下が、国民主権のもと退位されることが可能になったということです。

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今回の特例法は、去年8月、天皇陛下が退位の意向をにじませたお気持ちを表明したことで検討が始まりました。ただ、陛下の意向を受ける形で法律を整備すれば、「天皇は国政に関する機能を有しない」と定める憲法4条に抵触する可能性があります。特例法の1条は「国民は天皇陛下のお気持ちを理解し、これに共感している」と、国民の総意に基づく退位であることを明確にしています。天皇の地位は、主権の存する日本国民の総意に基づくと定める憲法とも合致した考えです。

(太田)
今回、政治に問われたのは、その『国民の総意』をいかに体現するかです。衆参両院の議長のもと、各党が参加して法律を作りあげる異例の取り組みでしたが、調整は決して簡単ではありませんでした。

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まず、政府・与党が、今回の退位を、「あくまで特例とすべきだ」としたのに対し、民進党などは、恒久的な制度とするため「皇室典範の改正」を主張。結局、双方が歩み寄り、「特例法は皇室典範と一体」と位置づけることで決着しました。

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また、法律の名称も、国会が示した案に対して、政府が、いまの陛下が対象であることを明確にしようと『陛下』の文字を付け加えることを提案。各党合意が壊れる寸前までいき、結局、政府側が譲歩する一幕もありました。
このように、数の力ではなく、互いに譲歩し、接点をさぐる姿勢を貫いたことが、議会での大多数の賛成につながりました。今回、政治が、憲法が求める『国民の総意』をどう取りまとめるかということに対し、ひとつの『型』を示したことは高く評価できます。ただ、各党の合意を重視するあまり、衆参両院で、わずか1日ずつしか委員会審議をしなかったのは、国民の理解と納得を深めるという点で、疑問が残ります。
では、特例法の成立を受けて、陛下の退位は、今後、どのように進んでいくのでしょうか。

(西川)
想定される主な日程がこちらです。

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このあと退位の日を決める政令の検討が始まり、三権の長や皇族方などで構成される皇室会議を経て決まります。
その後、天皇の退位に伴う儀式と新天皇が即位する儀式が行われることになります。
退位の儀式は、明治以降初めてで、国の儀式として行うのか、皇室の行事とするのかも決まっていません。
一方、皇太子さまの即位に伴い、「即位の礼」と「大嘗祭」が行われる見通しです。
今回は、政令で退位の日が決まることから、昭和天皇の崩御に伴う喪の期間があった平成の代替わりと比べて「即位の礼」などの時期が早まる見通しで、宮内庁が政府とともに儀式の内容などの検討を進めることになります。
そして、元号が変わる改元です。昭和が終わった1989年1月7日には、昭和天皇の崩御からおよそ8時間後に、新元号が発表され、翌日改元されました。元号が変われば、公文書の日付などシステムの改修も必要となり、カレンダーも変わります。国民生活への影響も大きいだけに、新しい元号をいつ発表するのかも、今後の注目点です。

(太田)
そうした準備を着実に進めていく上で、気がかりなのは今後の政治スケジュールです。

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来年は、自民党総裁、そして衆議院議員が任期満了を迎える『政治決戦の年』だからです。加えて、安倍総理大臣は、憲法を改正し、2020年の施行を目指す考えを示しており、それには、国民投票も実施しなければなりません。国を二分する論争も予想される中、本当に、「それはそれ、これはこれ」となるのか、正直、首を傾げざるを得ません。
スムーズな皇位継承を実現するのは、政治の重い責任です。政府は、今後、国民生活や政治日程などへの影響に配慮しながら検討するとしていますが、具体的なスケジュールは、まだ見えません。

(西川)
もう一つ、急がなければならないのが、新たな皇室活動のあり方の検討です。近代日本で初めて天皇と上皇が同時に存在することになります。

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象徴や権威の二重性などの弊害を生まないよう天皇の公務はすべて新たな天皇に譲ることになりますが、宮内庁は上皇の活動は私的なものだけでなく公的な色彩のあるものもあり得るとしています。上皇となられた天皇陛下や皇嗣となられる秋篠宮さまご一家を支える組織も新たに設けられることになります。宮内庁の職員の増員も必要になる可能性があります。

(太田)
こうして見ると、未だ多くの準備が残されているわけですが、さらに今回の議論では、将来の皇室の姿をどう考えるかということも大きな論点になりましたね。

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(西川)
現在皇室は、天皇陛下と18人の皇族で構成されています。このうち皇位継承権のある男性皇族は4人で、皇嗣となる秋篠宮さまより若い男性皇族は、悠仁さまだけです。女性皇族は、天皇や皇族以外の一般の男性と結婚した場合には皇族ではなくなります。安定的な皇位継承を確保するためにはどうするべきなのか。国会では、今回、女性皇族が結婚後も皇室にとどまる「女性宮家」の創設などについて、特例法の施行後速やかに検討するよう政府に求める付帯決議が可決されています。

(太田)
民進党などは、期限を区切って結論を出すべきだと主張しましたが、結局、付帯決議には、具体的な期限は盛り込まれませんでした。先送りは許されませんが、意見が分かれる問題だけに、合意形成にむけ、今回以上に丁寧なアプローチが必要です。

(西川)
天皇陛下の孫の代の男性皇族が悠仁さまだけという現実を考えると、将来若い世代の皇族は悠仁さまだけとなり、皇室の活動が維持できなくなるおそれがあります。秋篠宮家の眞子さまのご結婚が現実のものとして見えてきたことで、皇族減少の問題にどう対処するのかは、これまで以上に喫緊の課題となっています。

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「女性宮家」の創設については、将来の「女性天皇」や「女系天皇」につながるとして根強い反対意見がある一方、各種の世論調査では、国民の間に認めるという意見が多数を占めています。こうした状況を現実のものと受け止め、退位問題と同様に国民の総意に基づく将来の皇室の姿を真剣に模索して欲しいと思います。

(太田)
今回の取り組みは、「天皇の地位は国民の総意に基づく」と憲法が定めることの意味を、改めて思い起こさせるものになりました。それは、統合の象徴として、天皇陛下と共に、私たち国民が築きあげていくものであり、同時に、いまの制度が抱える様々な問題についても主権者として共有するということにつながります。
人々の価値観や社会情勢が変化する中、新しい時代の「象徴天皇制」の姿を、これからどう描いていくか。国民全体で考え答えを見出していく、新たなスタートとなります。

(太田 真嗣 解説委員 / 西川 龍一  解説委員)

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